全国規模で使用されなくなった休眠空間が増えるなか、それらを有効活用する動きも広がっている。リトケイではフリーペーパー版『季刊リトケイ』の2号に渡って島の休眠空間利活用について特集。今号では、主にこの10年間で5,000校以上が廃校となっている学校施設をはじめとする、公共系空間の利活用を紹介する。
この特集は『季刊リトケイ』26号「島の休眠空間利活用」特集(2018年11月13日発行)と連動しています。
美しき廃校を「酒造り」や「日本の未来」を学ぶ拠点に
灯りの消えた学び舎が、酒造りと交流の拠点「学校蔵」として生まれ変わったのは2014年のこと。
春を迎えた学校蔵の様子。日本海を望む高台に校舎がある
舞台は佐渡島(さどがしま|新潟県)にある旧西三川小学校。創立136年の歴史を誇りながら、少子化に伴い2010年廃校に追い込まれた。
この学校を利用したプロジェクトを思いついたのは、地元の老舗酒蔵会社「尾畑酒造」社長の平島健さん。同社の蔵元に生まれた妻・尾畑留美子さんとの結婚を機に、当時住んでいた東京から佐渡に移住。その後、日本海を望む高台にある美しい校舎が朽ちるばかりとなってしまったことに心を痛め、仕込み蔵として再生させることを思いついた。そして平島さんの思いに共感した尾畑さんと二人三脚で取り組みを進めてきた。
プロジェクトの中心となるコンセプトに「酒造り」と「交流」がある。
「酒造り」では、校舎の元理科室などを改修し、仕込み室を設けた。清酒製造免許の関係で、佐渡産の酒米を原料にいったん純米酒を醸造した後、地元の杉の木を漬け込んでリキュールとして販売している。ほのかな木の香りが特徴で、木造校舎をイメージさせるような味となっている。
2018年に学校蔵で仕込まれたお酒。カウンターバーにて
生産量は初年度2200リットルからスタートし、2018年度には6000リットルにまで増加。同じ酒米を使ってはいるがタンクによって味を変え、それぞれ個性のある酒に仕上げている。
2015年からは、仕込み体験に挑戦する「生徒」の受け入れも開始。意欲のある人に酒造りを学ぶ機会を提供することも、2人が重視していたことの一つだった。
毎年、タンク1本につき3人をめどに広く生徒を募集。体験期間は作業が最も集中する1週間で、酒造りの基礎を学ぶことができる。今年は約20人が参加し、海外からの問い合わせもあるという。
2017年、学校蔵で行われた仕込みの様子。この年はスペインから参加した生徒も交え、酒造りが行われた
島外からの参加者は、カリキュラムの関係で島への滞在期間が長くなることから、佐渡を知ってもらう良いきっかけにもなっており「空き時間を利用して島を散策したり、島の人と交流したりする人もいるようです」(尾畑さん)。
さらに学校蔵では「オール佐渡産」の酒造りにも挑んでいる。
島の自然環境の恩恵を最大限に生かそうと、原材料だけでなく製造に必要なエネルギーも佐渡産でまかなおうという試み。東京大学国際高等研究所・サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)とも連携しながら、ソーラーパネルによって自然エネルギーを生み出す取り組みに着手した結果、酒造りに必要な電力の100%を生み出すことに成功している。
一方で「学校蔵」プロジェクトを特徴づけるもう一つのコンセプトが「交流」事業だ。
事業の柱となるのは、「佐渡から考える島国ニッポンの未来」を大きなテーマに2014年以降、学校蔵の教室で毎年1日だけ開催している特別授業。『里山資本主義 日本経済は安心の原理で動く』の著書で知られる日本総合研究所主席研究員・藻谷浩介さんら外部講師を招き、佐渡という島の未来やこの国の将来などについて熱のこもった授業を展開している。
2018年、学校蔵で行われた「特別授業」の様子。生徒らに活気がみなぎる
生徒の受け入れ数も、1年目の40人から2018年度には120人と大幅増。顔ぶれは高校生から70代まで幅広く、島外にとどまらず海外からの参加者もいる。
今後の「学校蔵」の展望について、尾畑さんは「学校蔵は酒造り、人づくりの場所。社訓でもある“幸醸心”のもと、酒造りを通じて世界と佐渡をつなげ、世代をつなげていきたい」と力を込める。(文・竹内章)
<施設情報>
新潟県佐渡市西三川1871。年数回の開放日を除き、基本的に一般公開はしていない。企業・団体等の研究な
どのための視察は有料。お問い合わせは学校蔵ホームページ、またはお電話0259-55-3171へ。
【関連リンク】
学校蔵|尾畑酒造