全国規模で使用されなくなった休眠空間が増えるなか、それらを有効活用する動きも広がっている。リトケイではフリーペーパー版『季刊リトケイ』の2号に渡って島の休眠空間利活用について特集。今号では、主にこの10年間で5,000校以上が廃校となっている学校施設をはじめとする、公共系空間の利活用を紹介する。
この特集は『季刊リトケイ』26号「島の休眠空間利活用」特集(2018年11月13日発行)と連動しています。
かつての母校を養殖施設に再生。漁業資源を有効活用
佐田岬半島の付け根にある愛媛県八幡浜市。その西側、宇和海の沖合には「大島(おおしま)」「三王島(さんのうじま)」「地大島(じのおおしま)」「粟ノ小島(あわのこじま)」「貝付小島(かいつきこじま)」と呼ばれる大小5つの島があり、それらの総称を「大島」という。そのなかで唯一の有人島である大島には約230人が暮らしており、四国本土とは1日3便、所要時間約22分のフェリーで結ばれている。
周囲の海には太平洋の黒潮が流れ込み、古くから良好な漁場として知られてきた大島。なかでもアワビやナマコ、海藻類などが豊富だった。しかし近年は少子化が進み、2009年には島内唯一の大島小中学校が閉校する。
さらに高齢化により漁業者の減少や漁業所得の低迷などに直面。こうした地域の課題解決を図るため、市では2010年から愛媛大学と連携協定を結ぶなどして産官学が連係。翌2011年には「八幡浜市水産振興基本計画」を策定する。
この計画ではアワビや海藻類などの磯根の養殖研究施設の整備により、高齢の漁業者でも安全な環境で収入を得られるようにして、豊富な漁業資源を持続的に活用することが主要な目的だった。そしてその研究施設を低コストで整備するために、市内で増えつつあった遊休公共施設の活用案として旧大島小中学校が採用され、2012年に「八幡浜市大島産業振興センター」が開所した。
旧校舎の改修事業には国交省の「空き家再生等推進事業」を、陸上養殖用の水槽や近海から引き入れた海水のろ過装置などの設置には「辺地対策事業債」をそれぞれ活用。施設における研究には「離島漁業再生支援交付金」を活用した。
同センターの事業は「可能性試験(2012〜2014年)」「磯根資源の実証(2014〜2016年)」「地域産業として定着(2017年〜)」の3段階のステージで推移し、これまでアワビやナマコ、スジアオノリの養殖に取り組んだ。しかし稚ナマコの生存率が低いためナマコの養殖を2014年に断念し、現在はアワビ種苗とスジアオノリの養殖を行う。
このスジアオノリは品質が高く、ポテトチップスなどの加工品や、汁物に入れる具材として好評を得ており、今後の主力として期待ができる。
ナマコの養殖は断念したが、ナマコの乾燥時に出る煮汁を使った洗顔用石鹸を開発。ナマコの煮汁を扱うときに手がすべすべになることに着目したアイデア商品は話題を呼んだ。
現在、同センターは大島漁業集落の花谷幹春代表を中心とし、養殖施設として生まれ変わったかつての母校で活動している。
もともと島ではアワビの海面養殖が盛んだった。しかし夏場の水温上昇による赤潮発生などで大きな打撃を受けたこともあり、陸上養殖の導入による安定収入が見込めれば集落の住人がセンターで働き、生産体制の強化も望めると考えられた。
花谷さんは代表として集落に向け参加を呼び掛けてきたが、長く続けてきた漁船漁業から離れられない人が多い現状があるという。それでも「やろうと言った以上は責任もある。がんばってやりますよ」と笑う花谷さん。
陸上で安心して漁業ができる環境があれば、女性や若い人が島で働くようになり、活性化にもつながると考える。花谷さんは島外のイベントにも出店するなどして、根気よくスジアオノリの製造と売り込みを続けていく。(文・竹内松裕)
●施設概要
愛媛県八幡浜市大島3-298-5。閉校した旧大島小中学校をアワビやスジアオノリの陸上養殖の研究・製造施設として再生し、島の漁業集落が運営する。問い合わせは八幡浜市水産港湾課 0894-22-3111まで。