全国規模で使用されなくなった休眠空間が増えるなか、それらを有効活用する動きも広がっている。リトケイではフリーペーパー版『季刊リトケイ』の2号に渡って島の休眠空間利活用について特集。今号では、主にこの10年間で5,000校以上が廃校となっている学校施設をはじめとする、公共系空間の利活用を紹介する。
この特集は『季刊リトケイ』26号「島の休眠空間利活用」特集(2018年11月13日発行)と連動しています。
閉校した島の小学校が「大人の社会塾」に
1872(明治5)年に開校し、八丈島(東京都八丈町)でもっとも古い歴史をもっていた末吉小学校が統合により閉校したのは2013年。主な要因は少子化による生徒数減少で、141年目の最終年度の生徒数は14人となっていた。
八丈島東南の末吉地域は島内でも過疎化が急速に進み、2003年から2015年にかけて約30%人口が減少。今後も少子高齢化の進行が予測される状況のなかで、八丈町は地域住民と話し合いながら、1992年に新しくした旧末吉小学校校舎の再活用法を模索していた。
一方、山形県南部の高畠町で2015年10月3日、閉校していた時沢小学校を大人向けの学び舎として利活用する「熱中小学校」という事業がスタートする。
「もう一度7歳の目で世界を見よう」をテーマとする社会人向け学習塾で、第一線で活躍する有識者や文化人などが教諭となり、校舎のある地域の内外から、生徒が学びに訪れる。
この取り組みは高畠町から会津市(福島県)と高岡市(富山県)に広がり、2016年10月15日、全国で4番目の熱中小学校が八丈島に開校した。
八丈島で開校した要因には、島に惚れ込んで移住した岸田徹さん(株式会社ネットラーニング代表取締役社長)の存在がある。岸田さんは島の北東部の三根地域に自宅をもち、平日は都内で、週末は島で暮らす2拠点生活を送っている。その岸田さんが高畠町で客員教諭を務めたことがきっかけとなり、熱中小学校が旧末吉小の活用法のひとつとして採用された。
この事業で目指すのは校舎を多目的交流施設として再生することによる「交流人口の創出」と、島を担う「人材育成」である。校舎は地方創生推進交付金を活用し、約3000万円でバリアフリー対応、浄化槽や空調の整備などを行った。
国内の他地域ではNPOや一般社団法人などの民間団体が運営しているが、島には担い手がいなかったことなどから八丈町が事務局となっている。
事業の立ち上げから運営までに携わる町企画財政課の佐治渉さんによると、第1期の参加者は63人(島外10人)で、第2期は48人(同12人)。50歳代を中心に、高校生から80歳代まで幅広い年齢層の生徒が参加している。
これまでの教諭の業種は多種多彩。eスポーツプロデューサー・ゲームクリエイターの犬飼博士さんによる体育や、電子出版やクラウドサービスを手がけるイースト株式会社(渋谷区)の下川和男代表取締役会長による情報の授業のほか、サバイバルゲーム場などを運営する株式会社アカツキライブエンターテインメント(品川区)CEOの小谷翔一さんが特任用務員として教鞭をとった。現在は3期目を開校中で、3月23日の修了日まで毎月下旬に授業を実施予定。
「授業を通じて私自身も勉強になっています」と佐治さん。
課題として挙げるのが、今後のアウトプットについてのことだ。「私と同じような体験をした生徒さんがたくさんいます。せっかく学んだのですから、皆さんからなにか『こと』が起きてほしい。それを引き出すための仕掛けの難しさを実感しています」という。前述の地方創生推進交付金が利用できる期間は5年間で、2020年度以降は自主財源として続けていくかどうかが問われることになる。
佐治さんは現状を踏まえた上で、熱中小学校が旧末吉小という多目的交流施設のコンテンツのひとつという認識も忘れていない。294人(2018年9月現在)が生活する末吉地域にある校舎で、そこに行けば何かがあるという期待感があり、気軽に足を運んで長い時間を過ごせる場所の創出を思い描く。
やるべきことは数多いが、動きながら見えてくるものもある。熱中小学校の事業にはそのカギがあるのだろう。(文・竹内松裕)
●施設概要
2013年に閉校した末吉小学校の校舎を多目的交流施設として再利用。八丈島熱中小学校をはじめ、気軽に人が集まる場所にしようと活動している。詳しくは八丈町のホームページで確認できる。問い合わせは八丈町企画財政課04996-2-1120まで。
【関連リンク】
八丈町公式ホームページ