海から離れた地域で暮らす人にとって「海ごみ」は「遠い問題」とも感じられがちだが、それを間近に見つめる島々の人たちは、問題解決の糸口を日々探っている。ここでは「島と海ごみ」にまつわる注目の取り組みをご紹介。(文・竹内章)
押し寄せる海ごみに「このままではいけない」。ドローンやアートで海ごみ問題を啓発する島の高校生
2018年の観光客数が24万人を突破し、過去最高を記録した長崎県・五島列島の五島市。多くの観光客が島人自慢のビーチに足を運ぶなか、漂着ごみが押し寄せる現状に「このままではいけない」と地元高校生が立ち上がった。ごみアート制作やドローンを活用した啓発活動など、若者らしい豊かな感性を生かした取り組みは各方面から高い評価を得ている。
2018年8月、両親、友人と一緒に地元・五島市の福江島でドライブに出かけた長崎県立五島高校3年の宮﨑幸汰さん(17)は、訪れた海岸で漂着ごみの多さに眉をしかめた。
ペットボトルや漁具、スリッパなどの日用品まで驚くほどの量。きれいな五島の海とのギャップに、強い違和感を覚えた。
「このままではいけない、何かしないといけないんじゃないかと思いました」と宮崎さん。一緒にいた友人2人と仲間を募り、漂着ごみ問題に取り組む学生団体「maipla(マイプラ)」を同年9月、メンバー10人で立ち上げた。
マイプラの主な活動は、月1回の漂着ごみ拾い活動をベースに、ごみを材料にしたアート作品制作や、波によって角が取れ丸くなったガラス片「シーグラス」を使ったアクセサリーづくり、インターネットによる情報発信、漂着ごみ調査など多岐にわたる。
なかでも個性的な取り組みは、ごみアート作品の制作。海岸清掃で集めた「カラフルな」ごみを用いて「巨大カメ」を2カ月がかりでつくり上げ、福江島の玄関口・福江港ターミナルに展示した。
宮﨑さんは、ごみアートに取り組んだきっかけについて「島の海がこんなに汚れている、という現実をもっと多くの人に知ってもらう必要があります。アート作品がそのきっかけになれば、と考えました」と振り返る。
マイプラの活動は、環境省などでつくる実行委員会主催の「全国ユース環境活動発表大会」で環境大臣賞を受賞するなど、高く評価されている。
マイプラのメンバーは2019年春、22人にまで増え、理念に共感し活動に参加する大人も増えた。宮崎さんは「五島は何といっても美しい海が自慢で、貴重な観光資源。島の財産である海をこれからも守っていけるよう、活動の輪を広げたい」と力を込める。
一方で、五島高校ではマイプラとは別のグループが、ドローンを使った島の美しい海のPRと、漂着ごみに対する啓発活動を兼ねたプロジェクトを進めている。
そのグループは、同校3年の福嶋通明(なおあき)さん(17)らドローン好きの生徒3人を中心とする任意団体「GOTONE(ゴトーン)」だ。
ドローンが趣味の3人は、ドローンに搭載したカメラで以前からよく五島の景色を撮影していた。そのうち、たくさんの人に五島の美しい景観を撮影してもらい、その魅力を広めたいとの思いが芽生え、島を舞台に「ドローンレース」を開催したい、と考えるようになった。
そして2018年秋、五島市で開かれたまちづくりに関するイベントに参加したことを機に、レースを行うだけでなく、ドローンで海岸線を撮影した際に気になっていた漂着ごみ問題とドローンをリンクさせるアイデアが生まれた。
ただ、レースを開くには資金が必要となる。そこで2019年春、インターネットを活用し資金を集める「クラウドファンディング」に挑戦。五島市でドローンレースを開催することで「美しい五島列島の魅力と海洋ごみ問題を、同時に知ってもらう」をコンセプトに、目標金額70万円でスタートさせた。
結果、またたく間に目標額をクリア。さらに、取り組みの社会性や目新しさに着目したさまざまな団体から協力や連携の申し出もあった。
2019年5月末に実施されるレースでは、ビーチを会場に設定して競技前に参加者らでごみ拾いを行ったり、ごみアートを配置したコースを設計するなどし、ごみ問題の深刻さを発信する計画だ。
福嶋さんは「漂着ごみだけをテーマにした活動では、なかなか世間の関心を集めにくいが、近年話題のドローンと組み合わせれば、目新しさもあり注目度が高まるのでは」と期待を寄せている。
マイプラとゴトーンは、メンバーこそ異なるが目的は一緒。クラウドファンディングの返礼品に、マイプラのメンバーが作ったシーグラス製アクセサリーを採用するなど、今後も必要に応じ連携していきたい考えだ。