たとえそのごみが何処から流れ出していたとしても、美しい島を汚すものは拾うほかない。人口数人から数万人の離島地域に容赦なく流れ着く、膨大な海ごみに対峙するならひとりよりも「みんな」が心強い。全国の離島地域で海岸清掃を行う団体に話を聞いた。(文・鯨本あつこ)
高さ1.5メートルに堆積した海ごみは法整備のきっかけに。飛島の海ごみ問題
山形県酒田市から北西に39km。191人が暮らす飛島では、毎年5月下旬に海ごみを清掃するイベント「飛島クリーンアップ作戦」が開催されている。
今年で19回目を数えるこのイベントは、島が本格的な観光シーズンを迎える前に、冬場に流れ着く大量の漂着ごみを回収することが目的だ。
飛島の海ごみ問題は、2006年に成立した海岸漂着物処理対策推進法が生まれるきっかけのひとつになった象徴的な事例としても知られている。
海流や季節風の影響を受ける日本海側の海岸は漂着ごみが堆積しやすい傾向にあり、クリーンアップ作戦が始まった2001年当時、飛島の海岸には海ごみが1.5mの高さまで堆積していたのだ。
2004年に襲来した台風15号通過後の海岸。おびただしいごみが漂着(提供:パートナーシップオフィス)
人口わずかな島にとって、島の暮らしから出るごみと比較にならない量の海ごみを片付けることは簡単ではない。島の住民らは1990年代後半から山形県や酒田市に対する要望を出し続け、2001年に山形県主催で飛島クリーンアップ作戦がスタート。2002年からはNPO法人パートナーシップオフィス(酒田市)が事務局を担う実行員会形式で現在まで継続されている。
高く積み上がった飛島の海ごみがすべて回収され、元の砂浜が見える状態になったのは2011年のこと。実に10年の月日を要した。2012年以降は毎年新たに流れつく海ごみを清掃している。
そんな飛島の海ごみ対策は、数百名規模の島外ボランティアによって支えられている。
毎年100人のボランティアが結集する飛島クリーンアップ作戦のほかにも、2016年からは約90大学・4,000人の学生が参加するNPO法人国際ボランティア学生協会「IVUSA」のメンバー100人と山形県内の大学生約50人が、学校の体育館などに寝泊まりしながら3〜4日間の日程で海岸清掃活動を実施。
酒田市のボランティア助成に申請することで船代が補助される仕組みを使い、酒田市本土側の子ども会や中学校の部活、市民団体なども海岸清掃に訪れている。
飛島クリーンアップ作戦の清掃活動風景(提供:パートナーシップオフィス)
人口わずかな島にとってこうした「島外の力」は重要だが、一方で、海ごみの回収作業には「怖いものを扱う」危険もある。
2001年当初より、飛島の海ごみ問題に関わるパートナーシップオフィスの金子博さんは、海ごみ回収の危険性として、「ガスが残ったガスボンベやドラム缶、液体の入ったペットボトルもあります。中には火薬が入った漂着物も含まれ、過去には自治体で保管されていた信号弾が暴発して怪我人が発生した事例もありました」と話す。
心あるボランティアであっても「ある程度の知見を積んだ団体でなければ危険」なため、飛島で活動するボランティア団体に対しては、山形県と共にパートナーシップオフィスが安全管理の知識や事前準備などをバックアップしている。
清掃終了後に美しさを取り戻した飛島の海岸(提供:パートナーシップオフィス)
2014年から飛島で暮らし、飛島側でクリーンアップ作戦の事務局を担当する渡部陽子さんは大学生時代からクリーンアップ作戦に参加していた。
渡部さんが初めてクリーンアップ作戦に参加した頃、飛島に堆積していた海ごみの中では漁網が目立っていたが、近年は圧倒的に「プラスチックが増えた」という。
また、海外から流れ着くごみが注目されることが多いが、7〜8割は「国内のごみ」であるため、飛島クリーンアップ作戦では2017年より参加者に配っていたペットボトルのお茶を廃止。飛島の素材をつかったお弁当でも、プラスチック容器を紙の容器に変更した。
島の海ごみ問題を牽引する飛島で活動する渡部さんは、「最近ではニュースなどでも海岸漂着物の問題が出てくるようになりましたが、飛島では海ごみに対する考え方は根付いてきていると思います」と言い、クリーンアップの参加者アンケートでも「マイクロプラスチックの問題など、環境に興味のある方が増えてきている」ことを印象深く感じている。
問題の根本解決を実現するために、人々の意識が変わっていくことに期待したい。