海から離れた地域で暮らす人にとって「海ごみ」は「遠い問題」とも感じられがちだが、それを間近に見つめる島々の人たちは、問題解決の糸口を日々探っている。ここでは「島と海ごみ」にまつわる注目の取り組みをご紹介。(文・写真 水野暁子)
漂着する発泡スチロールからスチレン油を抽出。八重山諸島内での連携も展望する鳩間島
石垣島から高速船で約40分、西表島の北5.4kmに位置する鳩間島では、2009年より固定式油化装置を用いて海岸に漂着する発泡スチロールごみからスチレン油を抽出するプロジェクトが行われている。
人口わずか59人の島に設置される油化装置は、1時間に10キログラムの発泡スチロールを処理する能力を持ち、1キロの発泡スチロールから1リットルのスチレン油が抽出できるため、1日8時間で80リットルが抽出可能。最大量が抽出できた場合、35%にあたる28リットルが装置を動かす内部燃料として使用され、残る65%(52リットル)が外部燃料として使用できる。
これまで、抽出されたスチレン油は鳩間島内で無料配布され、住民らは5:5の割合で灯油などに混ぜながら自宅や民宿のボイラーなどに使用してきた。プロジェクトを牽引するNPO南の島々(ふるさと)守り隊 理事長の大城正明さんは、2014年に自宅の庭先に足湯施設をつくり、学校の先生や子どもたちなど島の人々のコミュニケーションの場として開放してきた。
近年ではごみからスチレン油を生成する例も増えているが、2009年当時、日本海難防止協会が日本財団の財政支援を受けて企画し、地元有志で設立したNPOがプラントの管理・運営を行う形でスタートした同プロジェクトは、真新しい事例として注目を集めた。
しかし、真新しいプロジェクトだけに順風満帆とばかりにはいかず、2017年3月には装置の不具合によりプロジェクトは一旦停止。2018年にエネルギー再利用システム開発係として竹富町の地域おこし協力隊に着任した大久保直人さんと大出直子さんが配属され、点検・修理に取り組んだ結果、2018年11月に再スタートできた。
「不具合の原因を本土のエンジニアに説明するにも、施設内では携帯電話が圏外になり、施設の内と外とで伝言ゲームのようにして状況を伝え合い、本当に大変だった」と大城さんは振り返る。「特別な装置なだけに、部品も本土から調達しなければならなく、一つの壁がクリアすると又新たな壁を超えなくてはならず、苦労の連続だった」と語る大久保さんに「ほんの少しのスチレン油がタンクに流れ落ちたときは本当に嬉しかった。長い道のりでした」と大出さんが重ねた。
再稼働以降、1日7時間の稼働で40リットルの抽出が精一杯であり、少量の為、施設の内部燃料だけに使用されている。当面は目標である1日80リットルのスチレン油抽出が目指されるが、灯油などと混ぜる手間もあるため、80リットルが抽出できた場合は、用途の開拓も課題になるという。
「スチレン油の抽出作業で最も大変なのは、装置にかける前の発泡スチロールの掃除です」と大久保さんと大出さんは口を揃える。装置にかけるには不純物を取り除く必要があるため、スチロールカッターや金ブラシを用いて表面に付着している不純物を取り除き、大きな発泡スチロールは小さく刻んでいる。
なかには、発泡スチロールの両脇に陶器でできたヒモ通し(漁具用)が付くものや、大きめの漁具の中心にプラスチックの異物が埋めこまれてあるものもあり、それらは手作業で取り除く必要があるため、燃料が生まれるとはいえ、簡単な作業ではない。
材料となる発泡スチロールは、鳩間島の学校が実施する年3回の海岸清掃ほか、毎年3月と9月に早稲田大学の離島交流プロジェクトの生徒が地域住民と共に実施する海岸清掃などで回収されている。1回の清掃で回収される漂着ごみは1トン袋で5~6袋分。そのうち2袋程度の発泡スチロールが島内でスチレン油となり、他は石垣島まで運ばれ最終処分場に埋められる。
2013年からは、同じ竹富町内にある西表島で集められた発泡スチロールが、年に4〜5回の頻度で届けられている。4月には1トン袋23袋の発泡スチロールが西表島から届き、鳩間島で油化作業が進められている。大出さんは「西表島で海岸清掃を行っている西表エコプロジェクトや西表島エコツーリズム協会のメンバーと交流を続け、今後の課題などを共有したい」と期待している。
スチレン油抽出というアイデアや、隣島との連携を持って海ごみ問題に立ち向かう鳩間島だが、拾っても拾っても押し寄せる海ごみに終わりは見えない。大城さんは「世界中で話し合う必要があり、企業活動に規制をかけるなどの対策も必要だ。島人が海岸清掃活動などで解決できる問題ではない」と力を込めた。