つくろう、島の未来

2019年11月17日 日曜日

鹿児島最南端の与論島では、2017年2月よりごみ箱ならぬ「拾い箱」が設置されている。「拾い箱」とは拾った漂着ごみを入れる専用箱のこと。同じく奄美群島の沖之永良部島や喜界島にも広まる「拾い箱」が設置された背景には、役場やボランティアなどが柔軟に連携する体制があった。与論島の海ごみ対策を知る誇れるふるさとネットワークの池田龍介さん、与論町役場環境課の光俊樹さん、商工観光課の山眞貫さんの3人に話を伺った。(写真・文 鯨本あつこ)

与論島に設置されている「拾い箱」

人が来るほど、きれいな浜へ

ritokei

旅先で海ごみが気になっても、拾った先の処分に困るので拾えないことがありますが、与論島に設置されている「拾い箱」は画期的ですね。

池田

僕も「365日ごみ拾い(※)」を始めた当初は拾ったごみを家に持ち帰っていたので、両親に「どうするんだ?!」と怒られていました(笑)。2017年には「拾い箱」も設置されるようになったので、めちゃくちゃありがたいです。

※「美ら島プロジェクト365」。与論島にUターンした池田さんが2014 年4月より始めた海岸清掃活動

与論島のビーチで海ごみを拾う池田さん

ritokei

そんな与論町にはその名も「環境課」という部署があるとのこと。どのようなお仕事を担当されているんですか?

平成21年に町民生活課と商工観光課の環境系業務をひっぱって環境課ができました。クリーンセンター、焼却炉、中間処理場、最終処分場、植栽、海岸、公衆トイレの美化などを担当している職員4名、臨時18名の大所帯で、平日5日間は2名体制で海岸清掃に当たっています。午前中はボランティアが集めたごみを回収して分別し午後は直営(役場が独自に行う清掃)作業を行なっています。

左から誇れるふるさとネットワークの池田龍介さん、与論町役場環境課の光俊樹さん、商工観光課の山眞貫さん

ritokei

与論島は観光のイメージが強いですが、環境課と観光課はどのような連携をされているんですか?

池田

もともとは観光課が「拾い箱」を設置してくれ、ヨロンマラソンの時にごみ拾いのことを伝えるようになりました。

与論島では34~35年前の離島ブームの時に起きた問題を繰り返さず、持続可能な観光発展をするために、島に来る人と島の人と一緒にごみの問題も考えていきましょうというスタンスなんです。

与論島のビーチに漂着した海ごみ

池田

「365日ごみ拾い」は1人からスタートして、1年目は3,185人が参加してくれ、2年目は3,600人のうち588人が観光客だったんです。そのことが「拾い箱」のきっかけにもなったんですが、ごみ拾いに参加してくれる人は「やってやった」という感じはなくて、ただ楽しそうだったんです。

ritokei

楽しそうっていいですね。

池田

僕は一時期「ごみ拾いの池田」といわれていたんですが、僕が注目されたいわけじゃなくて「1人の100歩じゃなくて、100人の1歩」にしたいと思っていたので、イベント的にごみ拾いを開催するのやめました。でも、一緒にやっていた人たちが自然発生的に「感謝美(うんじゃみ)」というグループをつくり、今も毎朝ごみ拾いを続けています。

海ごみにはいろんな事業が絡んでいて、ボランティアのグループや、行政のグループ、民間のグループなどがいるなかで、行政は明らかに行政がやるべきことをやりながら、ボランティアや民間のじゃまにならないよう助け舟になり、自発的な部分は積極的に協力していきたいです。

ritokei

素晴らしいですね。

池田

僕たちが目指すところは「環境と観光の両立」なんです。2016年にブループラネット賞を受賞されたマルクスボルナーさんの言葉に、“人間には無垢の自然が必要だ。しかしながら、多様な自然は、地元の人々が経済的なつながりを持っていかなければ、それを守ることは難しい”というのがあり、東南アジアのマングローブ林で地元の方が環境保護に動かなかったところ、マングローブ林に住んでいるカニが高値で取引されていることが分かると「マングローブ林、大事だよね」となったことを例に挙げられていました。

1羽の海鳥を死に至らしめるプラスチックごみのサンプル

ritokei

海ごみ対策を円滑に進めるには、暮らす人の価値観や行政の考え方などにも左右されそうですが、与論島の皆さんはいかがですか?

連絡は早いですね。「ここにこんなのが漂着していた」とか、「漁業に協力してもらって船でひっぱり出した方がいいんじゃないか?」とか。発見が早くて、連絡も早い。昔はそのまま(ごみを)置いていてもなんとも思わなかった人も、池田がごみを拾い始めたことで意識が変わってきて、自分たちでできない部分は連携しようという体制に、どんどんなってきているように思います。

与論島に設置された「拾い箱」は沖永良部島や喜界島にも広がっている

ritokei

海ごみを軸に地域のつながりが深まっているんですね。

広がったような気はしますね。これまで環境問題に触れていなかった人が、地下水や海への影響とかも注視するようになってきていますが、そのきっかけも海ごみだったように思います。すごいですね。

拾い箱の中に下がるのは地元小学生による「拾ってくれた人」への感謝のメッセージ

池田

毎日ごみを拾って、朝日がのぼってきて、家に帰ってきたときの味噌汁はめちゃ美味しいんです。観光の人も同じと思いますが、やっぱりきれいになるのは気持ちがいいですからね。

特集記事 目次

特集|島と海ごみ
四方を海に囲まれる海は離島地域では近年、「海ごみ」の急増に頭を痛める人が増えています。 海洋ごみ(本特集では海ごみと表記する)は主に、海を漂う「漂流ごみ」海岸にたどり着く「漂着ごみ」海底に沈み堆積する「海底ごみ」の3つに分類され、いずれも世界規模で解決が迫られる大問題となっています。 なかでも問題になっているのは、人工的に合成され、ほとんど自然に還らないプラスチックごみ。ペットボトル、発泡スチロール、漁業につかわれる網など。都市や田舎に限らず、現代の暮らしに浸透するプラスチック製品が、なんらかの原因で海に流れ出し、海を漂流し続け、島に流れ着いているのです。 紫外線を浴びて変質した微細な「マイクロプラスチック」は回収困難といわれ、多くの恵みを与えてくれる海が「プラスチックスープ」になると警鐘を鳴らされています。 海から離れた地域に暮らす人には、遠い話にも聞こえる海ごみ問題は、その一端を知るだけでも、現代社会の恩恵を享受するすべての人が関係する問題であることがわかります。 本特集では、そんな海ごみ問題を「島」の現状や取り組みを軸に紹介します。 この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』28号「島と海ごみ」特集(2019年5月28日発行)と連動しています。

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