つくろう、島の未来

2022年07月06日 水曜日

つくろう、島の未来

インターネットの浸透に加え、コロナ禍で加速した「新しい働き方」や「新しい生き方」を求めて、離島地域に眼差しを向ける人々がいます。

そんな人々が島と出会い、つながるきっかけとして注目されているのが、地域に滞在しながら自らの仕事も行う「ワーケーション」という滞在方法。

今回は「共創型ワーケーション」をキーワードに、ワーケーションの実証実験を行う「沖縄しまむすびワーケーション」(※)に参加する3地域のキーマンに、受け入れ側の期待やワーケーション利用者の声などについて伺います。

※沖縄県の令和3年度沖縄しまっちんぐ実証事業として「共創型ワーケーション」を展開する実証実験プログラム。令和3年度は国頭村・久米島町・多良間村の3地域が参加


沖縄しまむすびワーケーションのキーマンたち

 
多良間村(多良間島)
波平雄翔(なみひら・かずと)さん

多良間島出身の若きシーサー(自他ともに認める「シーサー顔」)。「好きすぎる島を住み続けられる場所にしたいから、力をつけて30歳で島に帰る!」を目標に活動。大学卒業後は粟国島に移住し、特産品開発を支援。制作プロダクションを経て2021年4月に独立。現在、多良間島を拠点に「地域離島コーディネーター」として、島での生活を極めた島暮らしのプロ(住民)、行政、島外の企業などを巻き込み、様々な共創プロジェクトに取り組む。プロフィール詳細はこちら https://www.shimamusubi.net/index.php/interview/tarama/

 
久米島町(久米島)
石坂達(いしざか・とおる)さん
埼玉県朝霞市出身、久米島在住。東京農工大学農学部卒業後、ITメガベンチャーに勤務。2012年10月、隠岐の島・海士町へ移住・転職し、地域づくり・教育事業コーディネーターとして働く。海士町の学びを他地域で活かすべく2016年5月、久米島町に移住。移住定住をミッションとする地域おこし協力隊として従事後、合同会社PLUCKを起業。「複業型身の丈起業」に取り組む「久米島複業ギルド」を運営。プロフィール詳細はこちら https://www.shimamusubi.net/index.php/interview/kumejima/

 
国頭村(沖縄本島)
久保勇人(くぼ・はやと)さん

東京都出身、国頭村在住。妻の出身地である沖縄本島・国頭村(くにがみそん)の自然や文化、人々と触れ、国頭村が自分の故郷になった気がして嬉しくなる。20年以上勤めた企業を辞め、Uターンに慎重な妻を説得し、移住(嫁ターン)。国頭村役場に提案した、移住体験住宅とコワーキングの複合施設(CAMP HENTONA LOUNGE)が、地域創生加速化交付金事業に採択され、立ち上げから企画運営を務め、現在に至る。プロフィール詳細はこちら https://www.shimamusubi.net/index.php/interview/kunigami/

聞き手

リトケイ編集長
鯨本あつこ(いさもと・あつこ)
2010年に離島経済新聞社を創業。NPO法人離島経済新聞社代表理事兼『ritokei』統括編集長。子育てを機に2014年よりテレワークを開始。那覇出身の夫(ルーツは宮古諸島とやんばる地域)との縁で、自身の地元(大分県)を生活拠点に東京や那覇、全国の島々を飛びまわる。沖縄振興審議会離島過疎地域振興部会や多様な人材育成に関する沖縄万国津梁会議等の委員も拝命。美ら島沖縄大使。

沖縄の島々が”ワーケーション”を受け入れる理由

みなさんこんにちは。今日はよろしくお願いします。

よろしくお願いします。

早速ですが、まずは皆さんの地域がワーケーションを推進しようと考えられたきっかけや、その背景にある地域課題について教えてください。では……一番南の多良間島(たらまじま|沖縄県)から。

南!!めずらしいですね。いつも北からなので油断していました(笑)。

ですよね(笑)。今日は南から多良間島、久米島、国頭の順でお話いただきたいと思います。波平さんはこれまでにも『ritokei』の多良間島に関する記事でも取材に協力していただいています(”守姉”の島。多良間島にみる「人間本来の子育て」【特集|子どもは島で育てたい】インタビュー記事)。今回はワーケーションの話題になりますが、そもそもの多良間島の課題について教えてください。

はい、多良間の課題は人口減少と人材不足が顕著なことです。畜産とか農業のように既存の産業を大きくしていこうという考えだけでは、僕たちのような世代がUターンしたくても職業の幅がない。

だから、もっと選択の幅を広げて、いろんなことにチャレンジできるフィールドをつくれば、島に帰りたいという人が帰ってこれるんじゃないか? と思ったのが最初のきっかけです。

石垣島(いしがきじま|沖縄県)と宮古島(みやこじま|沖縄県)の中間に浮かぶ多良間島。人口は約1,100人。宮古島から飛行機または船でアクセスできる二次離島。大規模な観光開発が行われておらず、豊かな自然や文化的景観が残っている。

それで今回、沖縄県のしまむすびワーケーション事業に参画されたわけですが「共創型」というポイントについてはどう感じてますか?

そうですね。共創型ワーケーションでは、僕らが解決したい課題へのアプローチを(来てくれる人と)一緒にしたいのと同時に、島や人と触れ合うなかで、その人が普段の生活では得られないような体験をして、人生の潤いも得られるようなプログラムにしたいなと思っています。

来てくれる人の人生にも潤いを、ということですね。

それと、キーワードはやっぱり「ひと」だと思っていて、島にはいろんなスキルを持っている人がいるけど、島だけで足りないスキルを得るためには、役場なりが島外に発注をかけて補っているんです。けれど、それではスキルを持った人と島との関係が単発で終わってしまうので、もったいないなと感じていました。

ワーケーションという枠組みであれば、単発ではない縁にできそうですよね。それでは、久米島(くめじま|沖縄県)はいかがでしょう?

僕はそもそも「地域の課題とは何か?」ということが気になっているので、そこからお話したいんですが、地域の課題はそもそもビジョンがあって現状があって、そのギャップが課題だと認識しています。

なるほど。

ですから、人口減少というものが課題になるものもあれば、ならないものもあり、例えばリモートワークで働きたい人にとってはコロナは追い風ですし、空き家に安く住みたい人にとっては人口減少もチャンスになる…….という具合で、何をやりたいか? 何が望ましい状態なのか? によって、地域の課題も違ってくるのかなと考えています。

「生き返った」と感じられる島暮らしを知ってほしい

そのうえで、石坂さんは島でどんなことを感じられているんですか?

僕は以前、隠岐諸島の海士町で暮らしていたんですが、都会から田舎に移住した時に「息が吸える」「生き返った」と感じたんです。ですから、都会暮らしが苦しい人に田舎暮らしという選択肢を渡せたらいいなと思って、移住推進の仕事をしたり起業したりしてきました。

都会暮らしが苦しい人、たくさんいらっしゃいますもんね……。

僕は島でシェアリングエコノミーの考えで生活コストを下げたり、身の丈にあった起業をして生計を立てながら、生き残っていく実践をしていて、自分自身は食べていけるようになりました。

けれど、久米島町にとってインパクトのある状態にするには、こうした活動を広げるための仲間を増やしたいと思い、そのためには自分と同じような生活を体験をしてもらい、島暮らしに可能性を感じてもらうことがいいなと思ったんです。

久米島までは那覇空港から飛行機で約30分、泊港(那覇)から船で約3時間半。美しい景観や豊かな島の様子から「球美(くみ)の島」とも呼ばれている

それで共創型ワーケーションに参加されたんですね。では、沖縄本島の国頭村はいかがでしょうか?

私が(ワーケーション事業の参画に)手を挙げたのは、今まで考えていた「国頭村のファン」を増やす方法 にトライしてみたかったからです。

そう思われていたきっかけはあるんですか?

私は東京出身でふるさとと呼べる場所がなかったので、妻の地元(国頭)がふるさとのようになったことがとても嬉しかったんです。

それで、私と同じように国頭村とつながる人が増えたらと思い、5年間トライしてきたなかで出した答えのひとつが、できるだけ国頭村に長期滞在してもらい、地域の人と1人でも多く出会ってもらうことだったんです。

実は私も夫の祖父が国頭出身なので時々お邪魔するんです。久保さんも、奥さんのご地元という地縁があり、長く滞在することができて地域の方とも触れ合え、観光では分からない魅力も感じられたと思うんですが、もともと地縁がない方に似た体験をしてもらうには、ワーケーションのような手段が欲しいですよね。

そうですね。私も妻を(東京に)置いて国頭に遊びにきてしまう感じになり、友だちとか飲み屋さんで知り合った人とかと交流しながら、やっぱり自分は国頭が好きなんだなと再確認していました。

そういう体験から国頭に興味を持つと「自分も何かしてみたいな」「あの人となら一緒にできるかな」と一歩踏み込んで考えられると思うんです。

沖縄本島の最北端に位置する国頭村へは那覇空港から車で約2時間。約4,500人が暮らす地域に固有の文化や豊かな自然が存在する

なるほど、それでワーケーションなんですね。沖縄しまむすびワーケーション事業では、国頭村はどのような企画にされたんですか?

できるだけ長くいてもらいたいので1カ月間実施する企画にしました。ワーケーションで仕事をしながら地域を楽しむ……という話ではなくて、「地域に長く滞在するのであればワーケーションだよね」という考えです。

1カ月滞在できれば地域ともたっぷり触れ合えますね。

ワーケーションで「来て欲しい人」とは?

では次の質問に。ワーケーションに来られる方のなかには、自分が持っているスキルやノウハウで地域の役に立てたらと考える人もいると思います。そこで受け入れ側のニーズとして、あわよくばどんな人に来て欲しいか?というイメージがあれば教えてください。

僕はウェブデザイナーとか、エンジニアとか、カメラマンなどのクリエイター系のスキルがすごくほしいなと思っていました。

というのも、島で新しくお弁当屋さんとか民宿をはじめる人がいても、PRが苦手だと「場所はどこなのか?」「いつ空いているのか?」とか、基本的な発信ができないことがあるんです。そうした島の人とスキルを持った人がつながれば、情報が届く仕組みをつくれるのではないかと。

おだやかな多良間島の風景のなかで行うワーケーションの様子。多良間島ではこうしたアウトドア環境のほか、インターネット完備のワーキングスペースでも執務にあたることができる

あとはやはり、多良間の持っているポテンシャルを一緒に伸ばしていけるような人ですね。環境とか観光とかSDGsとかいろいろな面でいわれている抽象的な可能性を具体的に描いていけるような仲間が欲しいので、言語化していくプロセスを踏む時に言葉にできるファシリテーターや、事業を進めるディレクター職の人もいるといいなと思いますね。

多良間村にもいろんなスキルを持った方がいらっしゃると思いますが、1,000人規模の島ではどうしても島内のスキルが限られるので、そうしたスキルが集まるといいですよね。久米島はいかがでしょうか?

短期的な目線であれば「リモートワークのできる人」だと思います。中国に「鶏鳴狗盗(けいめいくとう)」(※)という故事があって「結局どのスキルが役に立つか分からない」という話なんですが、僕は町について考えるときにこの話を重視しています。どういうスキルがいつ役に立つかは分からないところがあるので、久米島と関わる人の多様性を高めていくのが重要だと思うんです。

※ 中国戦国時代の政治家、孟嘗君(もうしょうくん)は、一芸に秀でた人なら誰でも食客として招き入れ、その人数は数千を超えていた。学者や武芸者だけではなく、中には何に役に立つか分からない一発芸のような技能を持つ人もいた。ある時、孟嘗君に命の危機が迫った。この有事を切り抜けるのに役に立った食客は、「盗人」と「鶏の鳴き声がうまい人」であった
 

なるほど。久米島と同じ規模(人口約7,000〜8000人)の島には八丈島(はちじょうじま|東京都)、大崎上島(おおさきかみしま|広島県)、喜界島(きかいじま|鹿児島県)などがありますが、この規模になるとある程度のスキルを持つ人がいて、職業の幅も出てくると聞いたことがあります。

つまり、ある程度の基盤がある島でより良い状態を目指していこうとする時に、例えば石坂さんが実践されているシェアリングエコノミーの考えなどを一緒に考え、実践してくれるような、多様な人材がいるといいですよね。それでは国頭村はどうでしょう?

考え方としては石坂さんに近いのですが、国頭村のなかでいろんな人がいろんなカタチでわちゃわちゃしている状態になってほしいです。ものごとが進んでいく時にはいろんなことがわちゃわちゃした状態になっていると個人的には感じているので。

混沌とも言えそうですが、特に地域のものごとは何だかんだそうした状態で進んでいくように感じます。

ただ、外していけないのはその人が「国頭村が大好き」であることです。

久米島でも多良間島でもそうだと思いますが、よく知らない人が来たときに「なんだ?」と変なハレーションが起きることはありますよね。そういった場面を超えていくには「その地域が大好き」なことがベースにあることが大事だと思うんです。地域のことが好きな地域の人と同じくらい、もしくはそれ以上の想いを持っている人なら、ぶつかることがあっても話を続けていけますよね。

確かに。「好き」はめちゃくちゃ大事ですね。

国頭村はないものだらけで、余白があちらこちらにあります(笑)。だからどんな人が来ても、活躍していただけるスペースがたくさんあるのですが、やはり(その人が)やりたいことだけをやり散らかすのではなく、国頭村のことを愛し、地域の方の声に耳を傾けたり会話をしたりしながら、地域と共に歩んでくれる人に来て欲しいです。

>>「沖縄の島々と人がつながる共創型ワーケーションとは?リトケイ編集長が3人のキーマンに聞きました(後編)」に続く

【関連リンク】沖縄しまむすびワーケーション(外部リンク)

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