奄美群島(あまみぐんとう|鹿児島県)で行われている島の特産品づくり「奄キャンものづくり事業」。奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島の5島でつくられている産品についてご紹介します。
■規格外のスモモから生まれた特産品。まほろば大和生活研究グループの活動
スモモの旬は6月初旬から2週間ほど。貴重な生の果実を楽しむために奄美大島に遊び行く旅もおすすめ
(写真提供:大和村役場産業振興課)
鹿児島と沖縄の間に浮かぶ奄美群島で行われている島の特産品を育てる取り組み「奄キャンものづくり事業(以下、奄キャン)」では、平成24年度から20事業者が参加し、島の特産品を育てています(事業のはじまりについては #01 をご覧ください)。
今回は、「奄キャンものづくり事業」の前身「農商工連携推進事業」から参加し、今年で3年目となる奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)の大和村(やまとそん)「まほろば大和生活研究グループ」を訪ねました。
このグループは村内の主婦達8名(常時活動は4名)がメンバーで、そのほとんどが60代。大和村の特産品であるスモモを中心とした加工品の製造・販売を行い、「農家が潤うこと」そして「村おこし」を目標に活動しています。
左から、代表の泉 美保子さん、会計・ラベル作りの和泉和香さん、大和村役場の大瀬幸一さんと政村勇二さん
今回は、グループ代表の泉 美保子(いずみ・みほこ)さん、会計や広報・ラベル作り担当の和泉和香(いずみ・わか)さん、そして活動をサポートする大和村役場総務企画課の大瀬幸一(おおせ・こういち)さん、産業振興課の政村勇二(まさむら・ゆうじ)さんにお話をうかがいました。
奄美大島の南西部に位置する大和村は、島内5市町村の中で最も小規模な人口約1,600人の村。奄美群島最高峰の湯湾岳(ゆわんだけ)山麓には亜熱帯の森林浴公園「奄美フォレストポリス」があり、環境省の「奄美野生生物保護センター」も配置されるなど、自然豊かな山々に囲まれています。また村の北部は東シナ海に面し、海岸線には断崖絶壁があるなど、ダイナミックな風景が広がっています。
大和村は「サトウキビ栽培日本発祥の地」として知られていますが、耕地面積が少ないため、奄美群島内各地で基幹作物となっているサトウキビが現在は栽培されていません。
そのため村では、傾斜地や気象条件を活かしたスモモとタンカン(奄美特産の柑橘類)など収益性の高い果樹栽培に取り組んでいます。特にスモモは「奄美プラム」とも呼ばれており、大和村は日本一の生産量を誇っています。
「奄美プラム」は、本州で目にするアメリカ産プラムとは違う、台湾産の花螺李(ガラリ)というこぶりな品種。熟す前には歯ごたえのある食感やさわやかな甘酸っぱさ、また完熟すれば、ねっとりと甘く、濃厚な味わいを楽しめます。鮮やかな深紅色の果肉は美しく、甘い香り漂う南国のフルーツ。
さまざまなスモモ製品。さっぱりとした後味のいい甘さ加減は、おばちゃんたちのこだわり。
スモモならではの酸味もほどよく残っているのがポイント
そんな大和村の代名詞的存在のスモモをたっぷりと使ってグループがつくっている商品は、「すももジュース」、「すももジャム」、コンポート「うん…まま、すもも」、セミドライフルーツ「すももっこ」、スモモの果肉入り「焼き肉のたれ」、スモモの果肉と黒糖入り蒸し菓子「ふっくらかん」などがあります。
他にもヨモギと黒糖入り「かしゃ餅」、トビイカと島味噌和え「いきゃみそ」、大和村産の椎茸と奄美市名瀬大熊の花かつおを使った「めんつゆ」と、どれもシマの素材をたっぷりと使ったものばかりです。
■まほろば大和生活研究グループの歩み
「まほろば大和生活研究グループ」のみなさん。終止笑いの絶えない、明るく楽しいメンバー
「まほろば大和生活研究グループ」の結成は2008年(平成20年)。しかし、その前身に約30年ほど前から活動していた「生活改善グループ」と呼ばれる存在がありました。
スモモは収穫してすぐ出荷しないと、日持ちがしない果実。島内でも出回るのは5月末〜6月中旬にかけての2週間ほどで、旬はあっという間。足が早いため全国市場にもあまり流通せず、出荷するにも名古屋あたりが限界だそう。また皮が薄いため傷つきやすく、規格外の商品が多く出てしまいます。かつては売り物にならない規格外のスモモを肥料がわりに畑に捨てていた時代もありました。
「それを見たら『もったいないよね。なんとかしたいね』って、余ったスモモをジャムにしたり、ジュースや焼肉のタレなどを作ってビール瓶に詰めて保存したり。各集落で自家用に加工するために、みんなで集まっていたのがもともとの始まり。そこから大和村に『生活改善グループ』が生まれたんです」(泉さん)。
生活改善グループは販売用に加工品を作るのではなく、あくまでも商品として出せないスモモをいかに家庭で有効活用するかを考えて、その方法を共有することが目的でした。
当時、旧・農産物加工場では加工品作りも活発化、コツコツと活動を続けていました。ところがグループのメンバーは子育てや仕事などが忙しくなり、だんだんと参加する人数も減少、いつの間にか活動は下火になってしまいます。
実質活動が休止していた平成20年(2008)、大和村制100周年を迎える村から「何かスモモを使って特産品を作らないか?」と声をかけられ、「みんな子育ての手が離れたし、また前のように村おこしのためにも何かやろう!」と、現在の「まほろば大和生活研究グループ」が結成されたのです。
「新たにグループを作ったというよりも『再出発』ですね」(大瀬さん)。「その時の目標は、いつか村の特産品を詰め合わせた『ふるさと便』ができたらいいねって話していました」(泉さん)。
代表の泉さんのお宅は自分たちが食べるぶんのスモモやタンカンは植えているそうですが、出荷する果樹農家ではありません。それでも「誘われて、『加工品を作るの面白そう。いいよ、手伝うよー』」と気軽に参加し、気づけば生活改善グループからトータル20年ほど関わっています。
■グループ待望のヒット商品「すももっこ」誕生秘話
セミドライフルーツ「すももっこ」の天日干し。日傘を差さないといけないほど強烈な奄美大島のティダ(太陽)が
美味しさの秘訣(写真提供:大和村役場産業振興課)
「まほろば大和生活研究グループ」の最初の活動場所は、まだ設備の整っていない旧加工場。村役場を通して入った注文に対応して販売する程度でした。
ある時、スモモに含まれる葉酸やポリフェノールの一種であるアントシアニンなどの豊富な栄養価に着目した全国展開の病院グループから、病院食としてのドライフルーツ作りの依頼が舞い込みます。
実験的に作ったドライフルーツは、奄美群島内の喜界島・奄美大島・徳之島・沖永良部島の各病院で提供され好評を得ることに(現在は提供は終了)。
この病院食用のドライフルーツ製品を元に試行錯誤した結果、グループ待望のヒット商品、セミドライフルーツ「すももっこ」が誕生しました。
大粒で食べ応えがあるスモモのセミドライフルーツ「すももっこ」。ジューシーな果肉感がたまらない
「すももっこ」は、おとなり喜界島産のザラメをまぶして、じっくりと煮詰めては冷やしを繰り返したのち、梅雨明け直後の強烈な夏の日差しの下、ひっくり返しながら2日間半じっくり天日干し。奄美のティダ(太陽)の恵みで、栄養価がぎゅっと凝縮された濃厚な美味しさになります。セミドライだから果肉のみずみずしさや食感も残り、特に女性に人気です。
このセミドライフルーツ「すももっこ」の製造過程で出る大量のシロップや形が崩れた果実を加工することで、さらに商品のバリエーションが広がってゆきます。シロップはジュースに、崩れた果実はジャムにしたり、蒸し菓子に入れたり。グループは精力的に新商品を開発していきます。
2011年(平成23年)には、特産品や地元農家が持ち寄る新鮮野菜の販売所と食品加工場が併設した村営の「大和まほろば館」がオープン。グループの商品がずらりと並び、加工・販売ができる活動拠点ができました。
( #04 へつづく)
(文・写真/しらはまゆみこ)
大和村公式ホームページ>> https://www.vill.yamato.lg.jp/