つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

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新聞づくりを通して海と島でできた日本を学ぶ学習プログラム『うみやまかわ新聞』の2015年度版が完成。第4回目は対馬島(つしまじま|長崎県対馬市)の子どもたちによる新聞づくりを紹介します。

小学校高学年向けの総合学習プログラムとして、2014年度からスタートした『うみやまかわ新聞』は、「新聞づくり」を通して海と島でできた日本を学ぶプロジェクト。今年度も全国の小学生が参加し、2月1日に2015年度版が完成した。

新聞づくりを行った離島地域5カ所[利尻島(りしりとう|北海道利尻町)/家島(いえしま|兵庫県姫路市)/弓削島(ゆげじま)・生名島(いきなじま)・佐島(さしま)・岩城島(いわぎじま)・高井神島(たかいかみしま)・魚島(うおしま)など(愛媛県上島町)/対馬島(つしまじま|長崎県対馬市)/津堅島(つけんじま|沖縄県うるま市)]を含む全国12地域の子どもたちが東京に集まり、2月21日に発表会を行った。この連載ではプロジェクトに参加した離島地域を中心に、発表会の様子と実際の記事の内容を全5回にわたって紹介する。

実体験を通した、素直な気持ちが紙面に

九州の北方、玄界灘に浮かぶ対馬島は、長崎県に属する「国境の島」。博多港まで航路で132km、韓国までは直線距離にして49.5kmに位置する。日本人はもちろん、韓国人観光客からみても、自然環境や文化の独自性が魅力の島である。

対馬の新聞づくりに参加したのは、島の最北端に位置する豊小学校の5、6年生8人。テーマは「対馬のうみやまかわの暮らし」で、豊・鰐浦地区の取材に根ざしながらも、対馬島全体の魅力や課題も俯瞰するバランスの良い新聞が完成した。

豊小学校では、8人が2班に分かれて新聞づくりを行った。東京の発表会には、各班の班長2人が参加。そのうち1人は豊小学校唯一の6年生である。

当日は、島に残った児童たちも学校に集まり、スクリーンに映されたテレビ電話の画面越しに「ファイト豊小、前を向いて緊張するな。全国の皆さんも頑張って!」と発表者の2人と他地域の児童たちにエールを送ってくれた。

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発表の冒頭では、「ピアノが得意な○○さん」「歴史が好きな□□さん」と各記事の担当者を紹介。その後の発表も、前を向いてゆっくりと話す姿は堂々たるものだった。引率の先生に聞いてみると、朝の時間を利用し、児童たちの前で練習を繰り返してきたそうだ。島では、地域のおじいちゃん、おばあちゃんから「出来上がった新聞を見せて欲しい」と引き合いがあり、新聞の紹介をすることもあるそうで、その経験も生きているのだろう。

豊小学校の児童たちが、新聞づくりを通して感じた「地域の利点」は、「地域が小規模で自転車で見て回れること」だという。そのおかげで、ほとんどの取材地へは自転車で行くことができた。一方で発見した課題は、お店が少ないことや子どもが遊べる公園がないこと。これらの課題は、人口が少ないことに起因すると考え、4つのキーワード「資源・副業・ボランティア・仲間」を設定し、対馬の暮らしについて考える新聞を制作したことを伝えてくれた。

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発表会で紹介した記事は3つ。

ひとつは、一面記事「対馬で栄えた鯨組(くじらぐみ)」。取材を通して知った「鯨組」という捕鯨船業組織によって、対馬の漁業が発展した歴史が明らかになった。井戸やお墓が残っていることも分かり、児童たちの間では、壊れかけたお墓を修復したいという願いが芽生えたそうだ。

ふたつめは、郷土料理についての「昔ながらのおやつ〜かんころもち〜」。工場が島内にひとつしかないことや、2種類のさつまいもを原料にしていることなどを掲載。実際に工場でかんころもちづくりを体験し、記事を制作したという。

最後は、「日本で対馬にしかいないツシマヤマネコ」の紹介。対馬野生生物保護センターの方に取材し、学校の周辺でツシマヤマネコの調査もしたそう。ヤマネコ自体の姿は見られなかったが、糞を発見。糞の中から、鳥やネズミの骨、蛇のうろこが出てきたそうだ。

その他の記事は、「豊・鰐浦地区でとれる水産物」や、対馬の珍しい植物、ヒトツバタゴやアレチアザミについてなど。対馬独特の風土がもたらすものの豊かさを、ふんだんに盛り込んだ紙面になった。どの記事にも取材者の素直な気持ちが盛り込まれていて、読者は児童らの地域へのまなざしを受け止めることができた。

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他地域の新聞を読んだ感想の発表では、鯨組の記事と同じ「鯨」について取り上げた利尻島のことや、対馬と同様に、他地域にもさまざまな固有種がいることを知ったことを語ってくれた豊小学校の児童たち。会場で聞いていた全国の新聞づくりの仲間にとっても、励みになったに違いない。

特に印象に残ったのは、「いつか対馬を離れるかもしれない私たちは、今の対馬を忘れたくない。出会った人を大切にしたいと思います」という、発表を締めくくる言葉。

ふるさとを離れる日を想像する児童だからこそ切り取れる、残したい、忘れたくない対馬の姿が詰まった新聞が出来上がった。

[#05 津堅島(沖縄県)編へ続く]

【関連サイト】
うみやまかわ新聞公式ホームページ
※実際の紙面に掲載された記事はこちらから読むことができます。

     

離島経済新聞 目次

島と海でできた日本を学ぶ 『うみやまかわ新聞』プロジェクト

『うみやまかわ新聞』は小学校高学年向けの教育プログラムとして、「地域への愛着の醸成」「同年代児童とのコミュニケーション機会の提供」「情報の基本知識(メディアリテラシー)」などを目的に小学校の総合的な学習の時間や地域活動の一環として導入しています。2016年度は7つの離島地域を含む全国14地域の児童が「うみやまかわ新聞」を制作しました。


<2016年度参加離島地域>

利尻島(北海道利尻町)/沖島(滋賀県近江八幡市)/弓削島・生名島・佐島・岩城島・高井神島・魚島など(愛媛県上島町)/対馬島(長崎県対馬市)/口永良部島(鹿児島県屋久島町)/沖永良部島(鹿児島県和泊町)/津堅島(沖縄県うるま市)


<プログラム概要>

このプログラムでは1年間に20コマ(1コマ×45分)ほどを使い「メディアリテラシー」「地域情報のリサーチ」「取材」「原稿制作」「校正」などを学びながら、自らが暮らす地域を紹介する新聞を制作。離島経済新聞社が講師を担当し、学校の先生や地域コーディネーター(※1)と連携して授業を行います。

毎回の授業は「テレビ電話システム」も活用。関東や沖縄など各地にいる講師陣と小学校とを接続して実施。テレビ電話を使うことで、遠く離れた地域ともリアルタイムな授業ができ、参加地域同士を接続した交流授業も行います。

新聞完成後には、東京スカイツリーで「2016年度うみやまかわ新聞完成発表会」を開催。各地域の代表児童が東京に集まり、地域のことや制作した新聞について発表しました。

※1 地域コーディネーター……授業のファシリテーションやICT機材の接続など、小学校と離島経済新聞社をつなぐ役割として、実施地域に詳しい方や地域で活動している方にお願いしています。

詳細は『うみやまかわ新聞』公式サイトをご覧ください
http://umiyamakawashinbun.net/

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