つくろう、島の未来

2024年04月19日 金曜日

つくろう、島の未来

新上五島町地域おこし協力隊 兼 フリーライターの竹内 章による島グルメコラム。観光客目線ではちょっと気が付かない、地元ならではのおいしい五島飯を紹介します。

サカナだけじゃない島グルメ

九州本土の沖合、東シナ海に浮かぶ五島列島。この地を訪れた人が、必ずといっていいほど「食べたい!」と訴えるのは、やっぱり海の幸です。
それはそうでしょう。はるばる離島にまでやってきて、カレーライスや牛丼を食べるのはもったいない。

とはいえ「3食すべて魚介もどうかな……」というのも、よく耳にするせりふ。そんな食にどん欲な人へおすすめしたい島の美食が、五島の特産品「五島うどん」なのです。

二つ名を持つうどん

すーっと背丈ほどに引き伸ばした姿は、うどんとしては細身で女性的。でも驚くほどしなやかで、ねばりがあります。

こがね色に輝く島特産のツバキ油をたっぷり塗り込んで「お化粧」してあるので、表面はつやつや、手触りもすべすべ。色白で品もあり、なかなかの「美人」です。

島を囲む澄んだ海水をじっくり煮詰めてつくった塩も使用。近海で獲れるトビウオ(あご)を使った「あごだし」との相性も抜群です。

離島という特殊な環境でつくられ、生産量も限られていたので、かつては「まぼろしのうどん」とも呼ばれていました。

あの空海も食べた?

その味わいと同じぐらい奥深いのが、五島うどんをめぐる歴史です。

五島が位置するのは九州の最西端。そのため、中国大陸を行き来した遣唐使の寄港地となっていました。

遣唐使はさまざまな文化や技術を日本に持ち帰りましたが、うどんの原型となる手延べ麺も彼らが五島に伝えたものだ、という説があります。

遣唐使といえば「弘法大師」の名でも知られる空海もその一人。真言宗を開き、教科書にも登場する空海が、1000年以上も前に五島うどんのオリジナルバージョンを食べていたかもしれない――。こんな風に空想しながらうどんをすすれば、味わいもまた格別。

食べておいしい、知っておいしい五島うどんなんです。
唐の時代に思いをはせながら、空海が五島うどんをお召し上がりになっている姿を描いた「うどん、喰うかい(くうかい)?」ステッカーを作ってみました。どうでしょうか……。

そして新たなまぼろし伝説

僕が暮らしている新上五島町は五島の北部に位置し、7つの有人島と60の無人島があります。

人口は2万人ほどですが、うどんの製麺所は約30もあります。地元のスーパーに行くと、いろんなブランドのうどんがずらりと並んでいます。

一方、製麺所は多いですが、ほとんどが家族・親族による家内工業で、細々と伝統の技を後世に伝えているのが実情です。

うどんは小麦粉、塩、水のシンプルな材料でつくられますが、職人によって製法や原料はさまざま。それぞれ強い信念とこだわりがあって、ある意味、現代の「まぼろし」を目指して日々研鑽を積んでいるようにも見えます。

また、ネット通販の発達によって、どこにいても五島うどんを購入できる時代になりましたが、「あそこの五島うどんはネット販売もしていないし、店頭に置いてもすぐになくなる。まさに『まぼろし』だね」といった逸話を耳にすることもあります。

まぼろしの五島うどん伝説は、今も五島の地に息づいている、と言ってもいいのではないでしょうか。

離島経済新聞 目次

【島Column】うまいぞ五島

新上五島町地域おこし協力隊 兼 フリーライターの竹内 章の島グルメコラム。観光客目線ではちょっと気が付かない、地元ならではのおいしい五島飯を紹介します。

竹内 章(たけうち・あきら)
1974年生まれ、富山県出身。元中日新聞社記者。フリーライター。2015年、長崎県・五島列島の新上五島町に「地域おこし協力隊」として移住し活動中。趣味は釣り。

関連する記事

ritokei特集