つくろう、島の未来

2024年11月23日 土曜日

つくろう、島の未来

現在、国が定義する日本の有人離島は416島。豊かな自然や多様な歴史文化、人と人が助け合う共助社会が存在する島は、いずれも住民やゆかりを持つ人にとって重要な場所であり、海洋資源や国土保全の視点に立てば、すべての日本人にとって重要な拠点ともいえる。

しかしながら、多くの島では戦後から人口減少が続き、離島地域に暮らす0~14歳の人口は、平成17年から27年までの10年間だけで、しかしながら、多くの島では戦後から人口減少が続き、離島地域に暮らす0~14歳の人口は、平成17年から27年までの10年間だけで、20%も減少している現実がある(平成17年、27年国勢調査)。

いくら愛着があっても、島を担う人が不在となれば、その島の文化は途絶えてしまう。

離島経済新聞社では、住民にとって、島を想う人にとって、すべての日本人にとって、重要な島の営みが健やかに続いていくことを願い、「島の幸せ」を「健全な持続」と説き、持続可能な離島経済のあり方を追求。今回は、多くの島で産業の中心を担う「観光」をテーマに、持続可能な観光を考える。

この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』29号「島と人が幸せな観光とは?」特集(2019年8月27日発行)と連動しています。

編集・ritokei編集部

「輸入依存型」の島で主要財源とされる観光収入

周囲を海で囲まれる島は、橋が
架からない限り、人やモノの交流に
船や飛行機が必要になる。

日本の
島を例にとっても、本土から数分で
渡島できる島があれば、アクセスに
丸1日を要する島もある。

さらにそれ
ぞれの島は、人口規模や自然環境などの諸条件が細かく異なるため、「島の経済のあり方」を考える大前提として、島は1島1島が多様であること、経済のあり方も島ごとに正解が異なることを念頭に置き、読み進めてほしい。

とはいえ、他地域と陸でつながらない隔絶性は多くの島に共通するため、人、モノ、お金の流れが本土や都市部と異なることは、多くの島に共通する。

国内外の離島経済に詳しい日本島嶼学会名誉会長の嘉数啓(かかず・ひろし)氏は、著書『島嶼学』で、島の経済のあり方を「第1次産業に依拠した自給自足的な経済」か、「第1次産業や第2次産業など輸出資源に特化した経済」か、「第3次産業に含まれる観光などのサービス業に特化して外貨を稼ぐ経済か」だと説明する。

『島嶼学:NISSOLOGY』(2019年 嘉数啓/古今書院)

自給
自足だけ
で生きていく
ことができる島であれば「外貨を稼ぐ」重要性は低いかもしれない。しかし、食料、消耗品、電化製品等のうち「島で作れないもの」は、すべて島外から購入する必要がある。

そのため、島をひとつの国に例えるなら、その経済は「輸入依存型」で
あり、依存度が高ければ高いほど
慢性的な貿易赤字になるという。

では、国内外の島ではその赤字
をいかに補填しているのだろうか?

嘉数氏は国内外の事例をもとに、多くの島が主要財源としているものを「海外送金の受取(Remittance)」、「政府開発援助(ODA)」、「観光収入(Tourism)」の3つと説明する。

観光は世界の成長産業。政府もインバウンドを推進

それぞれの島が特徴的な自然や文化を持つ離島地域は、島の資源を「売り物」にしやすく、国内でも観光産業に経済活性の期待を寄せる島は少なくない。

そんな観光産業は、世界レベルの成長産業でもある。国連世界観光機構(UNWTO)によると、全世界の「宿泊を伴う国外観光客数」は、2010年の9億5,300万人からの7年間で13億2,200万人になるなど、増加の一途を辿っている。

景気が伸び悩む日本では、政府も観光を地方創生の切り札に位置付け、訪日外国人の受け入れを推進。

2016年に約2,400万人だった
訪日外国人旅行者を、2020年には
4,000万人、2030年には6,000万人
に拡大させ、訪日外国人旅行者に
よる消費額も2016年の約3.7兆円
に対し、2020年に8兆円、2030年
には15兆円とする目標値が掲げられ
ている(※1)。

『季刊ritokei』29号掲載 島を訪れている観光客数

雨後の筍のように急成長をみせる
観光産業だが、急激な変化の影に
は弊害も生まれやすい。

高度経済
成長期に工業化が進む過程でさま
ざまな公害が発現したように、今、国内外の観光先進地から、さまざまな「害」が浮かび上がっているのだ。

観光先進地から聞こえてくる観光公害のうめき声

人口5万人弱の宮古島(みやこじま)では、2011年に33万2,000人だった入込数(※2)がわずか7年で114万3,000人に増加。

宿泊施設の建設ラッシュが続き、地価が高騰。バブルともいえる状況のなか、アパートの家賃が引き上られるなど、人々の暮らしに影響を及ぼしている。

宮古島と伊良部島を結ぶ伊良部大橋 ©️OCVB

このような状況を嘉数氏は「離島のボトルネックが現れた典型」と表現する。例えば、砂を詰め込んだビール瓶を逆さまにしても、砂は出口付近で詰まり、思うように流れ出すことができない。

大きな需要がきても労働力をすぐに増やせない島は、砂を詰め込んだ瓶と同様に、そもそも一定以上の発展にブレーキがか
かる要素を持っているのだ。

年間140万人を超える観光客が
訪れる八重山諸島の石垣島(いしがきじま)では、隣島の竹富島(たけとみじま)にも観光客が集中。

人口わずか360人の島に年間50万人以上の観光客が押し寄せるなか、浮上したリゾート開発問題に島人が反発。紛争状態に発展している。

年間50万人超の観光客が訪れる竹富島の街並み ©️OCVB

島が持続可能な観光を実現するために必要なこと

バブルや紛争により、島の暮らしや文化が脅かされ、島をつないできた人々の愛着や誇りがかき消されてしまうとしたら、その島を幸せと評せるだろうか?こうしたバブルや紛争の解決策について嘉数氏は「一旦、起きてしまうと解決には時間がかかる」という。

国際的な紛争であれば、国際司法裁判所などの紛争解決手段はあるが、竹富島の紛争解決には第三者機関が存在しない。

宮古島や竹富島のように一般住民が観光による弊害を感じている状態は「オーバーツーリズム」や「観光公害」と呼ばれ、国内では観光客の多い京都や鎌倉でも問題が浮上している。

世界を見回すと、スペインやイタリアなどの観光先進地でも観光公害が叫ばれ、影響を抑えるために国や自治体が規制や条例を設け、対策を講じる地域もある。

ところで、観光客が増えるなら島の所得も増えるのだろうか?嘉数氏によると、竹富島は観光客や事業所は増えているが、人々の所得はむしろ低迷しているという。

実際に、全部離島72自治体の所得を調べたところ竹富町が最下位であることがわかった(※3)。

2001年度・2015年度を比較した沖縄県離島市町村の一人当たり所得水準(沖縄県「離島統計資料」より作成)

竹富島のほか西表島(いりおもてじま)や波照間島(はてるまじま)など9島の有人離島からなる竹富町は、沖縄県内で最も広大な自治体でもある。

その分、各島のマネジメントも容易ではないが、オーバーツーリズムといえるほど多くの観光客が、経済的な恩恵をもたらさず、島の暮らしや文化にまで悪影響を与えているとすれば、持続可能とは言い難い。

「島に住む人たちと許可を与える人が、情報を共有し、お互いを理解し合っていないと、竹富島のような状況が起こってしまいます。バブルを起こさずに雇用も確保し、所得も落とさないように調整するマネジメント(管理)が必要です」(嘉数氏)

島の人たちが豊かにならない観光産業は長続きしない

嘉数氏は経済的な観光マネジメントの例としてハワイを挙げる。

「ハワイでは観光客が14%の税金を支払っていますが、日本ではむしろ免税店での買物を推奨する。ハワイも一時期観光ブームがあり、約20年前に観光税を導入して毎年税率を引き上げているような状態ですが、観光客は減っていません」。

そんなハワイも、かつて起きた観光ブームをそのまま放置していたなら、今ごろオーバーツーリズムに陥っていたかもしれない。

もちろん、観光は弊害ばかりではなく、近年注目されている観光客と定住者の中間に存在する「関係人口」や「交流人口」を呼び込む重要コンテンツでもある。

「観光を単体で考えるのではなく、観光を農業や漁業、あるいは教育などと結びつけて総合的に考えるのが大事です」と嘉数氏。

「まだまだこれから」と観光に力をいれる島も少なくないが、インターネットを介して情報が瞬時に世界中へ伝わる時代。何をきっかけに、バブルが起きるかはわからない。

そうした島に対し、嘉数氏は「今のうちに持続可能な観光に対して住民や関係者で合意をとっておくのが重要」と念を押す。

※1 2016年『明日の日本を支える観光ビジョン』
※2 観光地を訪れる人の数
※3 市町村の全域が離島地域である72自治体それぞれの「総所得金額等」を「所得割の納税義務者数」で割った数字では竹富町が223万円と最も低く、青ヶ島村の393万円が最も高い(「平成30年度市町村税課税状況等の調」)

嘉数啓(かかず・ひろし)
1942年沖縄県生まれ。ネブラスカ大学大学院経済学博士号(Ph.D.)取得後、アジア開発銀行エコノミストや沖縄振興開発金融公庫副理事長、琉球大学理事・副学長等を経ながら、ロンドン大学政治経済大学院(LSE),ハワイ東西文化センター・フルブライト上級研究員、ハワイ大学、グアム大学、済州大学校、マルタ大学、コロンボ大学、台湾国立澎湖科技大学などの客員教授等歴任。島嶼学関連では国際島嶼学会創設理事、日本島嶼学会名誉会長、島嶼発展に関する国際科学評議会(UNESCO-INSULA)東アジア代表、内閣府沖縄振興審議会会長代理・総合部会長等を歴任。現職は、台湾澎湖県アドバイザー、琉球大学名誉教授、沖縄キリスト教学院寄付講座教授等。

特集記事 目次

特集|島と人が幸せな観光とは?

現在、国が定義する日本の有人離島は416島。豊かな自然や多様な歴史文化、人と人が助け合う共助社会が存在する島は、いずれも住民やゆかりを持つ人にとって重要な場所であり、海洋資源や国土保全の視点に立てば、すべての日本人にとって重要な拠点ともいえる。 しかしながら、多くの島では戦後から人口減少が続き、離島地域に暮らす0~14歳の人口は、平成17年から27年までの10年間だけで、20%も減少している現実がある(平成17年、27年国勢調査)。 いくら愛着があっても、島を担う人が不在となれば、その島の文化は途絶えてしまう。離島経済新聞社では、住民にとって、島を想う人にとって、すべての日本人にとって、重要な島の営みが健やかに続いていくことを願い、「島の幸せ」を「健全な持続」と説き、持続可能な離島経済のあり方を追求。 今回は、多くの島で産業の中心を担う「観光」をテーマに、持続可能な観光を考える。 この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』29号「島と人が幸せな観光とは?」特集(2019年8月27日発行)と連動しています。

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