つくろう、島の未来

2024年04月25日 木曜日

つくろう、島の未来

「有人国境離島法」(2017年~)の大きな目的は「島の無人化を防ぐこと」にあるが、人が島に根を張り暮らし続けていくには仕事が必要だ。現実的にはデメリットが生じてしまうことも多い離島地域でのビジネスを支援するため、同法には働く場の提供につながる創業や、事業拡大に関する支援策が盛り込まれている。

(取材・文 竹内章)

有人国境離島法に基づく交付金を活用し、廃校リノベーションで開業した長崎県五島市・福江島(ふくえじま)の宿泊施設「田尾フラット」

離島地域における雇用機会の拡充を重視

人々の営みに欠かせないのが、収入を得るための「仕事」。営みの舞台が島となると、自給自足に近い生活様式をイメージする人もいるようだが、実際は何らかの形で現金収入を得て暮らしている人がほとんどである。

急激な人口減や高齢化などに伴い、離島地域の経済基盤が大きく揺らいでいることを背景に、2017年に施行された「有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法」(以下、有人国境離島法)では、「雇用機会の拡充」を図ることを重要視。民間事業者などが創業、または事業拡大に必要な資金をサポートする雇用拡充支援制度を設けた。

特に重要と認められる事業は最長で5年間支援

支援対象は、特定有人国境離島地域(8都道県・71島)に事業所があるか、事業所を設置しようと計画している事業者など。

資金援助の対象となる経費は、設備費や改修費といった、いわゆる「設備投資資金」のほか、広告宣伝費や人件費などの「運転資金」も対象で、島の地域社会を維持するうえで特に重要と認められた事業に関しては、1年ごとに延長が認められている(最長5年間)。

補助率は4分の3で、事業費の負担割合は、国が2分の1、地方公共団体4分の1、事業者4分の1となっている。

支援事業費の上限は「創業」600万円、「事業拡大」1,600万円

事業費の上限は、創業支援が600万円、事業拡大が1,600万円(設備投資を伴わない場合は1,200万円)。資金面に関しては、利子補給制度により最大3年間の元金据え置き・実質無利子の融資策も用意している。

創業支援の主な対象者は、UIターンをはじめとする移住者や、都市部から地方に移住してまちおこし活動に従事する「地域おこし協力隊」の任期(最長3年)満了者などで、島への移住・定住を後押しする。

支援策活用例として、長崎県小値賀町の小値賀島(おぢかじま)では、元地域おこし協力隊のIターン女性が、空き家を改装して島に一軒もなかったパン屋を開業。同県五島市の福江島(ふくえじま)では、調理師の男性が妻子とともにUターンし、イタリアンレストランを開業した例などがある。

一方、事業拡大支援は、新たな雇用を伴い、生産能力の拡大やサービスの付加価値向上を図ろうとする事業者を支援するもの。島内の既存事業者がUIJターン者や「地域おこし協力隊」の任期満了者を雇い入れることなどを想定している。

具体的な活用例としては、長崎県新上五島町の中通島(なかどおりじま)の製麺所が同じ五島列島内にある福江島で「五島うどん」の生産拠点・飲食店を整備したほか、福岡市のWEBコンサルティング会社が長崎県壱岐市の壱岐島(いきのしま)にサテライトオフィスを設置した例もある。

また、2020年に入り猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症対策への支援策も新設。過去、国や自治体の支援制度を利用したものの、コロナの影響で売り上げが落ちた事業者を対象に、必要経費の一部を支援する制度が設けられた。

行政や地域社会も応援を

手厚い印象のある創業・事業拡大支援制度だが、制度開始から数年を経て、支援を受けた事業所の経営が困難になったり、倒産したりする事態も生じ始めている。

企業経営は、もちろん「自走」が基本ではあるが、決して容易ではない離島ビジネスの分野で、補助金を活用し一歩踏み込んだチャレンジ精神を、行政や地域社会が一体となって応援していく姿勢も望まれる。

離島経済新聞 目次

島×制度・法律

島で暮らしていくために知っておきたい法律や制度について、長崎県・五島列島在住の島ライター・竹内章が分かりやすく解説します。

竹内 章(たけうち・あきら)
1974年生まれ、富山県出身。元中日新聞社記者。フリーライター。

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