つくろう、島の未来

2024年11月12日 火曜日

つくろう、島の未来

離島振興を目的とする5つの法律のうち、一番最初に制定され、最も多くの島々をカバーしているのが「離島振興法」(1953年~)だ。戦後、日本が復興に向け力強い歩みを進めていた時期に「本土から隔絶されていた離島地域も置き去りにしない」という思いが込められ作られた離島振興法の歴史や狙いを探った。

(取材・文 竹内章)

離島振興法の後押しもあり、一昔前に比べ離島地域のインフラ整備は格段に進んだ

島を擁する自治体の要望を起点に制定された「離島振興法」

日本が法整備を進めてきた離島振興策の「原点」で、最も歴史があり、最も多くの島を対象地域としているのが離島振興法だ。

1953年に制定されたこの法律は、「国土の均衡ある発展」をうたい文句とする、いわゆる「地域振興法」のひとつ。多くの有人島を抱える長崎、鹿児島、東京都など5都県の知事が、本土に比べ発展が遅れている離島地域を何とか支援してほしい、という声を上げたことがきっかけとなり、議員によって法律案が発議される「議員立法」の形で誕生した。

離島振興法は「ハンディキャップ法」とも呼ばれるが、同じように地域間格差の是正を目的とする地域振興法は、豪雪地帯や山林、半島などを対象地域とするものなど、いくつもの分野で法整備が進められてきた。

その中でも、有人離島地域を対象とした離島振興法は、ほかの地域振興法に比べ、より早い時期に制定されている。これは、島の重要性が早くから認識されていた証とも言える。

地域振興法の類は本来、格差が是正されれば目的を達したとして必要がなくなるはずなので、一般には法律の有効期限をあらかじめ設定する「時限立法」の形をとる。

離島振興法も、10年間の有効期限でスタートしたが、執行期限が来るたびに、格差是正が実現されていない、として改正・延長され続けてきた。2020年9月時点の離島振興法は、2012年に改正されたものである。

対象地域は当初、外海に面する島を中心としていたが、のちに瀬戸内海など内海の島も含めるようになった。その一方で、橋が架けられるなどして指定が解除された島もあり、2018年4月1日時点では255島が対象となっている。

参考:255島の離島振興対策実施地域一覧(国土交通省)

ハード面からソフト面重視への転換

離島振興法が制定された1953年頃、有人離島地域には、電灯すらない集落も数多く、漁港や道路などのインフラも本土に比べてはるかに遅れている状況だったという。

このような実情を受け、法の目的には有人離島地域の「後進性(進歩が遅れていること)の除去」という言葉が盛り込まれ、電気や水道といった基本的な生活環境の整備をはじめ、港湾や空港、道路の整備といった産業の基盤づくりに主眼が置かれる形となった。

その後、日本経済が高度成長期から安定成長期へと移り変わるにつれて対象離島の生活環境は急速に改善。これに伴い、離島振興法の目的も従来のハード重視からソフト重視へと転換。医療や福祉、教育、観光などの分野にも力が入れられるようになり、「後進性の除去」という文言も、法律の条文から姿を消すことになる。

一方、2003年の改正では目的条項に排他的経済水域(EEZ)の保全や海洋資源の利用などの観点から、国にとって有人離島地域が重要な役割を担っていることを明記。近隣諸国の動向をにらみながら、国益に資する存在としての離島地域の位置づけが明確化された。

地方の創意工夫と自立的な発展を促す

離島振興法をめぐっては従来、関係する都道県がまず離島振興計画をつくり、それを受け、国が離島振興計画を策定していた。

だが2003年の改正法から、それまで国が策定していた離島振興計画の策定主体が都道県に移され、離島を有する市町村が計画原案を作成するようになった。

この変更は、つまり国が地方に対して「地方は、地域の実情に合わせながら、創意工夫して自立的に振興策を考え、進めてください。国も後押ししますよ」と促したものといえる。

地方分権が叫ばれ久しいが、有人離島地域の維持や発展に関しても、政策を国に丸投げするのではなく、現場を一番よく知っている地方自治体や地域住民らの知恵が試されていると言えるだろう。

     

離島経済新聞 目次

島×制度・法律

島で暮らしていくために知っておきたい法律や制度について、長崎県・五島列島在住の島ライター・竹内章が分かりやすく解説します。

竹内 章(たけうち・あきら)
1974年生まれ、富山県出身。元中日新聞社記者。フリーライター。

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