つくろう、島の未来

2024年12月07日 土曜日

つくろう、島の未来

地方の活性化を目指す法律はたくさんあるが、その中でも有人離島地域の暮らしにターゲットを絞ったものは5つ。その「生い立ち」は島をめぐる歴史などによって異なり、目的も時代の移り変わりとともに変遷している。これら5法の歴史的背景や役割をまとめた。

(取材・文 竹内章)

6,800あまりもの島々を擁する日本。5つの法律が離島振興の土台を築いている

戦後、島を擁する自治体の要望を元に制定された「離島振興法」

島国として知られる日本には、6,800あまりもの離島がある。離島全体の面積は領土の約2%にすぎないものの、近年は領海や排他的経済水域(EEZ)の拠点としての役割も重みを増しており、より重要視されるようになってきた。

離島振興を目的とした法律は2020年8月現在、以下の5つがある。
・離島振興法(1953年~)
・奄美群島振興開発特別措置法(1954年~)
・小笠原諸島振興開発特別措置法(1969年~)
・沖縄振興特別措置法(1972年~)
・有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法(以下、有人国境離島法)(2017年~)

この中で、離島振興策の原点と位置付けられるのが、1953年に制定され最も多くの島をカバーしている離島振興法だ。戦後、日本が力強く国を立て直している時期に議員立法により作られ、離島の復興を加速させようという国の強い意思が垣間見える。10年間の時限立法(※)で改正を繰り返しており、現在の離島振興法は2012年改正となる。

※一定の有効期間を付した法令のこと

振興対策実施地域は当初、主に外海に面する島だったが、のちに瀬戸内海など内海の島も含めるようになり数を増やしていった。一方で、本土と橋が架かったことにより指定が解除される島もあり、増減を繰り返しながら2018年4月1日時点で255島が対象となっている。

法制定時、振興対策実施となった島々は、その特殊な地理的環境を背景にインフラ整備の遅れなどが問題化していた。これを受け、島を擁する複数の自治体から離島振興を目的とした法の整備を求める声が上り、これが法制定のきっかけとなった。

当初は電気や水道といった基本的なライフラインをはじめ、港湾や空港、道路など、産業・生活基盤の整備に主眼が置かれた。近年は、医療・介護や教育など、ソフト面への施策がより重要視されるようになったほか、領海やEEZ保全などの観点から無人化を防ぐために定住促進が明記されるようになった。

本土復帰を機に奄美群島、小笠原諸島、沖縄の各特措法を相次いで制定

離島振興法の制定後、時代が進むにつれて、奄美群島を対象とした「奄美群島振興開発特別措置法」(1954年)、小笠原諸島を対象とした「小笠原諸島振興開発特別措置法」(1969年)、沖縄を対象とした「沖縄振興開発特別措置法」(1972年)の3法がそれぞれ相次いで制定され、離島振興法と同様の地域振興策が展開されてきた。

これら3法がカバーするエリアは、いずれも離島振興法の対象からは外れている。ここで、なぜ離島振興法の対象とならなかったのか疑問に思う人もいるかもしれない。

これには奄美、小笠原、沖縄の島々が戦後、アメリカの占領下に置かれていたという歴史が関係する。

奄美、小笠原、沖縄の島々は戦後、本土が順調に復興を果たす中で、ある意味「置き去り」にされていた地域だった。3法が整備された時期は、いずれも各エリアの島々が本土復帰を果たした直後となっており、制定時期に差が出る結果となった。

これら3法は、いずれも時限立法で奄美群島と小笠原諸島は5年、沖縄は10年ごとに改正され現在に至る。

より政治色が強い有人国境離島法

これまで紹介した20世紀に制定された4法に比べ、国境地域にある71島のみを対象とした2017年施行の「有人国境離島法」は、より政治色が強い。

この法律は、人は住んでいるものの人口減が著しい国境付近の離島を「特定有人国境離島地域」に指定。

地域社会が維持されるよう、交付金を使って船舶などの運賃を安くしたり、島での仕事を増やして住む人が増えることなどを強力に後押ししており、その結果として、人々の営みを維持し、領海やEEZの拠点として有人離島が維持され続けることが本来の目的とされる。

法が制定された背景には、韓国との竹島問題や中国との尖閣諸島問題など、近隣諸国との領土問題をめぐる摩擦が問題化した国際情勢があり、純粋な地域振興策というよりは、日本を取り囲む諸問題に対処するために設けられた法と見ることもできる。

これら離島振興関連5法のうち、例えば離島振興法と、奄美群島、小笠原諸島、沖縄の各特措法については、戦後の領土復帰から一定の時間が経つことから、集約してもいいのではないかとの世論もあるが、一本化に向けた動きはみられない。

離島振興法の次期改正が2022年に迫るなか、関係各機関で島の将来を見据えた議論が進められている。この国における島の位置付けが重要性を増すなか、有人離島地域の暮らしや経済、産業に深く関わる5法は本土の人にとっても他人事ではなく、知って損はないだろう。

     

離島経済新聞 目次

島×制度・法律

島で暮らしていくために知っておきたい法律や制度について、長崎県・五島列島在住の島ライター・竹内章が分かりやすく解説します。

竹内 章(たけうち・あきら)
1974年生まれ、富山県出身。元中日新聞社記者。フリーライター。

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