つくろう、島の未来

2022年12月09日 金曜日

つくろう、島の未来

離島地域で生きるために必要な「お金」の特集。今回はR島のシマノさん一家が、島という社会を維持するために必要なお金について、離島振興の専門家である日本離島センターの小島愛之助さんに聞きました。(制作・ritokei編集部)

※この記事は『季刊ritokei』37号(2022年2月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

>>前回:島の皆さんに聞く 島とお金のリアル【特集|島で生きるために必要なお金の話】はこちら

登場人物

 
主人公・シマノミライさん(18)
人口約2,000人のR島に住む18歳。島唯一の高校を卒業して首都圏の大学に通う予定。小学生の頃に大怪我をして入院した経験から、将来は人助けができる看護師になりたいと考えている

 
弟・シマノサチオくん(14)
R島で生まれ育った中学2年生。サッカー好きだが同級生が少ないため、バトミントン部に所属。夢はYouTuberと起業家。早く島を離れたいと思っているが、島の祭りが大好きなお祭り人間でもある

 
父・シマノタダオさん(50)
R島出身。大学進学のため上京し30歳でUターン。役場職員として働く。子どもたちに帰って来て欲しいと言いたいが、過疎が進む島の未来に不安があり言い出せずにいる。少し気弱な性格。趣味は釣り

 
母・シマノユメコさん(45)
千葉出身。結婚を機にR島へ。島唯一のスーパーで働きながら、島の女性たちと未利用食材をつかったお菓子をつくる活動を楽しむ。将来の夢は、島に帰った子どもたちと孫の面倒をみること

 
小島 愛之助(こじま・あいのすけ)さん
東京都出身。公益財団法人日本離島センター専務理事。1976 年慶應義塾大学卒、77 年旧経済企画庁入庁。内閣府大臣官房審議官や政策統括官、国土交通省国土政策局長を経て現職。

島には 5 つの法律に紐づく補助金・交付金があります

日本には離島地域を振興しようという法律がいくつかあります。最たるものは1953年につくられた離島振興法です。

約70年前だから、親父が生まれた頃にできた法律だよ。

おじいちゃんが生まれた頃?へえ……。

昔は「島に水と光を」というキャッチフレーズでした。
当時は雨水を貯めて生活用水にしたり、本土から船で水を運んでくることもありましたが、この法律のおかげでどの島の水道も電気も、道路も港も空港もかなり整備されました。

そういうお金って国が払ってくれるの?

「補助金」や「交付金」といって国から5〜6割くらいが交付され、それ以外を地元の都道県や市町村が負担します。今ある島の港のほとんどはこの法律のおかげで整備されてきました。道路などまだ不十分なところもありますが、島の社会を維持するためにこの法律が大きく寄与しています。

鹿児島県は口永良部島(くちのえらぶじま)の港。港の整備にかかる費用は、市町村や都道府県と国の予算によりまかなわれる

親父の頃は艀(はしけ)だったな。

隣のおばあちゃんたちも昔は水汲みが大変だったってよく話しているわ。

離島振興法ができた当時の趣旨は「本土の地域に比べて島の地域の人々が遅れを取らないように」ということでした。ですが、インフラが整備されても人口減少が進んでいます。そこで次に何が必要か?と見直すなかでいわゆる「ソフト事業」が必要となって今に至ります。

社会の状況にあわせて法律を組み替え、それに応じて政府の方で予算を立てる。それにより、島の経済社会がまわっていくような仕組みになっているんです。

ソフトってなに?

港や道路、建物のようなものを「ハード」といって、教育や医療などを「ソフト」って言うんだよ。ちなみに、離島振興法の対象と異なる地域があり、奄美群島(あまみぐんとう|鹿児島県)、小笠原諸島(おがさわらしょとう|東京都)、沖縄については違う法律(※)があるんですよね?

※ 奄美群島を対象とした「奄美群島振興開発特別措置法」(1954年)、小笠原諸島を対象とした「小笠原諸島振興開発特別措置法」(1969年)、沖縄を対象とした「沖縄振興開発特別措置法」(1972年)
 

そうですね。奄美、小笠原、沖縄は戦後にアメリカ軍の占領から解放されて、日本に戻った時にそれぞれ法律ができました。

先ほど言い忘れましたが、本土で港や道路を整備するよりも、離島振興法の対象離島の方が、より高い比率で国からお金が回ってきます。沖縄、奄美、小笠原はさらに高く、アメリカ軍の占領下にあった時代の苦労に対する配慮という形がとられています。

「さらに高い」って、どのくらい高いんですか?

整備するものにもよりますが、例えば一般的な本土地域で国が補助金や交付金を5割出す場合は離島振興法対象離島で6割。沖縄奄美では7〜8割という違いがあります。

えー!じゃあR島は?

R島は離島振興法だから、予算をとるのに沖縄がうらやましいと思うことはあったな。

社会を維持するため必要な予算は確保されます

加えて近年は5つめの法律として有人国境離島法(※)もできました。国境地域に人が住まなくなった無人島があると、外国からの脅威など、安全保障上の問題が出てきます。そこで、国境付近の無人島や離島振興対象離島のうち71島については、国からのお金が沖縄や奄美により近い水準で受けられるようになりました。

※ 「有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法」。人口減少が進む国境離島地域の無人化を防ぎ、国境離島を保全していくことを目的に制定された10年間の時限立法。対象地域は、北海道、東京、新潟、石川、島根、山口、長崎、鹿児島の8都道県、計71島。
 

例えば、人口の社会増で注目されている五島列島(ごとうれっとう|長崎県)で立ち上がっているさまざまな新規事業にも、国境離島の交付金が活用されているようですね。

はい。今はまだ住民が島と本土を往来する運賃補助の部分が大きいので、解決しなければいけない課題もありますが、こうしたお金があることで、島に人が増えるような未来が広がるのではないかと期待されています。

だけど、国からのお金ってこの先なくなったりしないの?

よほどのことがない限り変わらないと思います。その時の財政状況にもよりますが、ハード整備については、基本的につくるべきものはつくらないといけませんので、役場が予算をつけていきます。

その他、必要に応じて国土交通省の離島振興課やその他関係省庁が財務省と話し合い、予算をつけていくことになると思います。

船はどうなんでしょう?R島も人が減っているし燃料代も上がっているから船は大赤字だと聞きますし。

航路関連については、離島振興法よりも1年前に施行された離島航路整備法という法律があります。この法律に基づいて、離島航路の赤字が補填されています。

コロナで観光の人も来なくなってたし、赤字は大変だけど航路がなくならないようにする制度があるんですね。

本土の人はよその土地に行くにも自分の足で道路を歩いていけます。けれど、島は海を渡らなければならないので船が住民の足といえます。

ですから、船も道路と同じではないか?という考えに立つべきだと思いますが、今のところはなんとか赤字補填をしていこうという状況です。

ここまでは島特有の法律と交付金のお話でしたが、国からお金をもらわずとも島の社会を維持するために必要なお金を集めている例はありますか?

鹿児島県の長島町に獅子島(ししじま)という島があります。この島は本土と橋を架けることを25年以上前から要望しているんですが、国のお金を待っていたらいつになるか分からないので「夢追い獅子島架橋基金」という仕組みをつくって、自分たちでお金を積み立てています。

2012年からスタートしたのでちょうど10年ほど。昨年3月末で14億6,000万円も積み上がっているそうです。

長島町の島々。右奥に浮かぶ獅子島の架橋に向けて独自に資金を集めている(写真・Yama/PIXTA)

実際に橋を架けるにはもっと大きな金額がかかりますが、それでも一助になりますよね。

長島町はふるさと納税(※1)の使い方にも特徴があります。ふるさと納税は使い道を限定しないのが普通なのですが、長島町のふるさと納税は使い道が明記されています。

1つが景観づくり、2つ目が架橋基金事業、3つ目が島の子どもたちが島外に進学したあと島に戻るなら返さなくていい奨学金制度(※2)に必要なお金、4つ目がその他の地域活性化です。

※1 ふるさとや応援したい自治体に寄付できる制度。控除上限額内の2,000円を超える部分について、所得税や住民税の還付・控除が受けられる

※2 ぶり奨学金基金。出世魚で回遊魚のブリにちなみ、学校等卒業後、地元リーダーとして活躍してほしいとの願いを込めて名づけられた長島町の奨学金制度。卒業後に長島町に定住すれば、奨学ローンの返済を町が補填する
 

そんな奨学金があるの?!R島にもあったらいいのにねぇ。

(ドキッ!)

より良い島を目指して独自の仕組みをつくる島も

子育てや教育に関して、お金の支援がある島はいくつかありますよね。

そうですね。例えば、愛知県の日間賀島(ひまかじま)では子どもが生まれた時にひとり10万円のお祝い金を出しています。地元の漁協がつくっている「島のり会」が、島のりの売り上げの一部を積み立てているんです。

日間賀島では、地元漁協が子どもが生まれた世帯に独自のお祝い金を出している(写真・soraho/PIXTA)

うらやましいわね。

鹿児島県の徳之島(とくのしま)は合計特殊出生率(※)が高いことでも知られていますが、徳之島の住民には「島の子は宝だ」という感覚が染み付いています。

徳之島で私が聞いたのは「俺たちはお金はいらない。それは子育てや子どもにまわしてくれ」という高齢者の声です。もちろん、高齢者福祉をおろそかにするわけではないでしょうが、島のお金を子育て支援に使ってくれという意識が高いんです。

※ 1人の女性が生涯に産むことが見込まれる子どもの数を示す指標。年齢ごとに区分された女性人口に対する出生数の比率を年齢別出生率といい、合計特殊出生率は15〜49歳の年齢別出生率の合計
 

「子は宝」の精神が息づく奄美群島の徳之島では、子育てをサポートする民間団体も活発に活動している

住民の意思がはっきりしていると、限りある予算の使い道でも優先順位を決めやすいですね。

もうひとつ、本土側にある民間の制度として、最近は島から進学した学生の授業料を免除する大学もあります。

大正大学は、地域出身で地域振興を学んで地元に戻ることを前提に、授業料を免除する制度をはじめています。地元の企業とか商工会に所属する人からの推薦で、「この子は東京で4年間学んで帰ってきたらきっと島の力になる」と太鼓判を押してもらうことが前提というのが、おもしろいですね。

サチオにいいんじゃない?祭りも頑張っているし、誰か推薦してくれるよ。

ちょっとプレッシャーだけど(笑)

サチオが帰ってきて授業料も免除ってこと?いいわね〜。

(うるうる)

島という社会を維持するには、お金をうまく使うことはもちろん、島に優秀な人材が存在することが何よりですよね。

国や自治体だけに任せず、島の住民全体で島を担う人材を育てていく意識につながるといいですね。

>>私たちは島に住み続けられるの? 素朴なギモンを財務省で聞きました【特集|島で生きるために必要なお金の話】に続く

特集記事 目次

特集|島で生きるために必要なお金の話

生きていくために必要なものは?そう聞かれて「お金」を思い浮かべる人もいるでしょう。しかしながら、お金とは何か?なぜ必要か?どのくらい必要なのか?と聞かれると、答えに困る人もいるでしょう。

さらにそれが小さな島ならどうでしょう。島で生きるためにはどのくらいのお金が必要なのか?どんなことにどれだけのお金がかかるのか?そのお金はどこから得られるのか?

今回は離島地域で生きるために必要な「お金」を特集。生活のお金や社会を維持するためのお金、島の未来を持続可能にするためのお金の話を中心に、この春、娘が島を旅立つR島のシマノさん一家と考えていきます。

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