つくろう、島の未来

2022年01月18日 火曜日

つくろう、島の未来

日本の海に浮かぶ全ての有人島を踏破した島旅作家・斎藤潤さんと、訪れた日本の島は109島という松鳥むうさんに、全国の島を旅しながら肌で感じた島文化について語っていただきました。

聞き手・石原みどり イラスト・松鳥むう

※この記事は『季刊ritokei』36号』(2021年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

島々には古い日本文化が残るといいますが、島で感じた古き良き日本人の姿があれば教えてください。

僕が若い頃の話ですが、口永良部島(くちのえらぶじま|鹿児島県)には混浴温泉があって、おばちゃんたちがおっぱいプルプルさせて入っていました。東北では今でも一部混浴温泉がありますが、裸を恥ずかしがらずに平気で混浴しているなど、昔の日本人のことはイザベラ・バードの『日本奥地紀行』(※)にも書かれています。島も観光客が入ってくる前は知り合いばかりだったので、裸を気にしなかったのかもしれませんね。

※ イギリスの旅行家、イザベラ・バードの日本旅行記。1878(明治11)年に行われた日本への視察旅行報告を元に編纂された。日本語訳は複数の版が出版されている

温泉といえば、屋久島(やくしま|鹿児島県)の海中温泉は水着NGでバスタオル着用でした。式根島(しきねじま|東京都)やトカラ列島(とかられっとう|鹿児島県)でも海中温泉や露天風呂に入りましたが爽快ですよね。湯に浸かりながら誰もいない海に向かって「わーっ!」って叫んだりして。

式根島には月や星空を眺めながら湯治する「夜潮」の習慣や、夏の夕暮れはお風呂の前に「夕浜」といって、おにぎりやトウモロコシなどを持って浜で夕涼みを楽しむ習慣もあったようです。復活させたら閑散期の観光にもいいと思います。

私が行った時は、朝風呂の時に島の人が温泉卵をつくってくださいました。

露天温泉で月や星を眺めながら湯治が行われてきた(式根島)

神津島(こうづしま|東京都)や式根島では、冬場の伊勢海老漁の後、仲のいい人や親戚が集まって網から魚を外すのを手伝って、網にかかっている雑魚やサザエなどを分けてもらうおすそわけ文化があるんです。雑魚には甘エビみたいな味のするオニヤドカリなど、見てくれは悪いけどおいしいものも多い。民宿で、何が食べられるかはお楽しみで雑魚を提供してもいいんじゃないかな。

それいいですね〜。若い世代が雑魚を食べようという運動をされているのも見かけますし、地域独特のものを楽しむことに興味持つ人も増えていますし。漁師さんと民宿が協力して、網から雑魚を外すところから料理していただくまでを体験メニューにしても楽しいのでは。

食文化は訪れる人にとっても魅力的ですよね。

新潟の粟島(あわしま)では漁師料理の「わっぱ煮」が有名ですが、知る人ぞ知る保存食もあります。フグの卵巣を雑魚の身と一緒に塩漬けしたもので、20年位前までは民宿で出していたそうですが、2019年に再訪した際は見つけられませんでした。誰か地元の方がつくっているのかもしれませんが。

食べてみたいですね。

汁物に焼いた石を入れて温める豪快な漁師料理「わっぱ煮」(粟島)

宗像大島(むなかたおおしま|福岡県)ではトウヘイ(クロアナゴ)の脂身や身の味噌煮が冬の風物詩です。骨っぽい魚ですが癖がなくて湯引きがおいしかった。ウツボみたいに大きい魚で、ヨキ(マサカリ)を使って解体するんです。対馬でも漁師の間で食べられていますが、東京湾ではたくさん捕れても、釣り捨てられ、食べる人はいないんです。島の優れた食文化を東京に輸入して、捨てられている命をおいしくいただけないだろうかと思っています。

釣って捨てるだけじゃかわいそう。大切な命だから、食べてあげたいですね。

ところで、母島(ははじま|東京都)のガジュ下(※)や沖縄のゆんたくなど、日中の仕事を終えてほっとする夕暮れ時、自然と人が集まる文化がさまざまな島にありますが、体験されたことはありますか?

※ 母島の海辺にある大きなガジュマルの木の下は「ガジュ下」と呼ばれ、人々が集い語り合う場となっている。

六島(むしま|岡山県)では夕方、港にあるドラム缶の周りに人が集まってきて、焚き火をしながら酒を飲みます。「ドラム缶会議」と呼ばれていて、地ビールの銘柄にもなっています(※)。

※ 麦芽、ホップに六島産ひじきを加えて醸造した、燻製香とひじき由来の旨みが特徴のクラフトビール「六島ドラム缶会議」(六島浜醸造所)

いろんな島で、飲み屋でもないところでお酒を飲んでる姿を見かけますよね。出羽島(てばじま|徳島県)では、個人商店の店先によく飲みに来るおじさんがいて、店のおばちゃんが相手をしていました。

佐柳島(さなぎじま|香川県)の商店でも、地元のお父さんたちが昼間からワイワイ酒盛りしていましたし、御蔵島(みくらしま|東京都)や利島(としま|東京都)でも夕方になると商店の前に集って飲んでいる人の姿を見ました。皆さん長居はせずにビール1缶でさっと帰るようです、あまり長居すると余計なことを話し始めたりするからね(笑)。

塩飽諸島(しわくしょとう)の粟島(あわしま|香川県)で出会った元材木屋さんは、昔お酒も出していて、大工さんと飲みながら商談していたそうです。今、コロナで飲兵衛は肩身が狭いけど、島では商店でお酒を飲みながら交流するのが普通の光景でしたよね。飲んでいるところに入っていって話好きな人たちに奢っていただいたこともありました。

上:夕暮れ時に人々が集い、酒を酌み交わす六島の「ドラム缶会議」(六島)/下:中甑島(なかこしきしま|鹿児島県)のコミュニティ

島ならではといえば、比較的飲酒に寛容な文化もありますね。多様な人が共に社会を営むための最低限の制度が法律だとすると、島には島を営む掟(ルールや価値観)があってコミュニティが保たれている。価値観は全国一律ではないんです。移住者が増えるなか、価値観のずれからちょっとした軋轢も生まれていると聞きますが。

そんな時、奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)では「ケンムン(※)の仕業じゃが」や「ええが」と言ってスッと終わらせる場面を見かけました。白でも黒でもどちらでもいい場合もありますし、些細なことであれば白黒を突き詰めないことも島の知恵ですね。

※ 奄美大島の妖怪。沖縄ではキジムナーと呼ばれている

いくら頑張っても逆らえない大自然に囲まれていますし。島の人は自然から人づきあいも学んでいるんじゃないですかね。海が荒れたら船は出ないから諦めるしかない。ちょっと電車が遅れたくらいで怒っている人は、一度島に行ってみればいいのに、って思います。

晴天にも関わらず、遠くで発生した台風のうねりに直撃される青ヶ島(あおがしま|東京都)の港

でも、関東に帰ってきて信号待ちをしていると、つい「チッ」って舌打ちが出る自分に気付くんです。場が変わると心持ちも変わってしまうのかなぁ。ところで、島では鍵をかけていない家が多いですよね。親しい人の家であれば勝手に入っていくこともありますし。

沖島(おきしま|滋賀県)で会った移住者の方は、近所の方が冷蔵庫にお惣菜を入れておいてくれるのを喜んでいました。

移住者だとおすそわけやお節介に慣れていないので、最初は警戒するかもしれませんが、だんだん「甘えてもいいんだ」「私も何かしたい」と思えるようになるのかもしれません。

小さな島ほど、身近な人同士で自然に助け合える文化がありますよね。

生活する上でお互い様の文化は大切ですよね。店がない島もあるから。

大工仕事なども、最低限のことはできる人が島には多いですね。自分で全部できない大掛かりなことも、周りの人と技術を持ち寄って助け合ったりして。

滋賀でも父の世代くらいの人たちは、各々自分で道具をつくったり建物を建てたりしています。

20年ほど前の宝島(たからじま|鹿児島県)で、当時70代半ばくらいだった方が「私たち世代くらいまでは、いま日本が消えても生きていける」と言っていました。電気やガスがなくても生活できるスキルを持っていたんですね。

大工仕事までは無理でも、食べるものくらいは自分でつくれるようになりたいです。自分で何でもできる島の人たちは、本当に……すごい!


斎藤潤(さいとう・じゅん)
島旅作家として日本の海に浮かぶ全ての有人島を踏破、現在も毎年数十島を巡る。『日本《島旅》紀行』『東京の島』『沖縄・奄美《島旅》紀行』『吐噶喇列島』(光文社)『好きになっちゃった小笠原(双葉社)など著書多数。


松鳥むう(まつとり・むう)
訪れた日本の島は109島。『島旅ひとりっぷ』(小学館)『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)『あちこち島ごはん』(芳文社)『トカラ列島秘境さんぽ』(西日本出版社)など著書多数。

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