つくろう、島の未来

2024年11月10日 日曜日

つくろう、島の未来

九州と沖縄の間に浮かぶ奄美群島の沖永良部島(おきのえらぶじま)は、知名町(ちなちょう)、和泊町(わどまりちょう)の2町合わせて約1万2,000人が暮らす中規模の島。実は「ワーケーションにおすすめ」という沖永良部島に暮らす宮澤夕加里さんが、島のワーケーションスポットや滞在方法について全5回の連載で紹介します。(前回の記事はこちら

(取材・宮澤夕加里)

沖永良部島でのワーケーションに役立つ情報をお届けしてきた連載も、今回で最終回となりました。目に焼き付けておきたい絶景や、過去を今に伝える歴史遺産、手塩にかけて育てられた農産物など、沖永良部島にはまだまだ伝えきれない魅力がたくさんあります。

そして忘れてはいけない、この島の最大の魅力が「人」です。出会う人、出会う人、とにかく明るくて気さくな人ばかり。初対面でも古くからの知り合いのように話しかけてくれるので、旅行者でも“よそ者”という雰囲気を感じることはないでしょう。世話好きの人も多いので、もしワーケーション滞在中に困ったことや知りたいことがあったら、躊躇せず誰かに尋ねてみてください。

連載最終回は、そんな沖永良部島・知名町の「人」が挑む「豊かな島づくり」についてご紹介したいと思います。環境、教育、農業、地域振興など、それぞれの角度から思い描く持続可能な島の未来とは?

魅力的な教育環境づくりを推進する地域おこし協力隊

すべての子どもたちが安心して、思いっきり学ぶことを楽しめる場をつくりたい―。

そう話すのは、知名町地域おこし協力隊として活動する“きみちゃん&ちかちゃん”こと、かまゆきみさんと地下智隆さん(かまさんは2021年3月で任期終了)。教育現場で経験を積んだ二人は、2020年7月に「一般社団法人えらぶ手帖」を設立。

2017年から運営しているe.lab<放課後のまなび場>のほか、漂着ごみやシーグラスを集めてアクセサリーや雑貨を制作し、その販売利益を環境保全活動や教育支援に活用する<うみのたからものプロジェクト>など、豊かな自然環境をフィールドに子どもたちが遊びながら学べる場づくりに取り組んでいます。

そんな二人は2020年9月から、教育に関心のある大学生を対象にした<e.lab長期教育研修>を開始。教員志望や教育関係の仕事に内定を決めた大学生が、全国から参加しています。

二人が企画する独自の研修は、子どもたちの幸せな自立を育むとして注目される北欧の教育メソッドを前提に、“地域に根差した新しい教育のカタチ”を模索するというもの。個別コーチングや北欧教育の事例紹介をフィンランドでの教員経験を持つ地下さんが担当し、PBL(課題解決型学習/プロジェクト型学習)等の探究学習の手法を用いた研修をかまさんが担当します。

オンラインを活用した長期研修の最後には、沖永良部島での「現地研修」を実施。例えば海で拾ったゴミを楽器にした演奏会など、研修生が考えたオリジナルの教育プログラムを島の子どもたちと実践し、互いに楽しみながら学びを深める場を提供しています。今後この研修は年2回開催する予定で、随時インターン生の受け入れも行っているそうです。

また現在は、シェアハウス開設のために空き家をリノベーション中。2021年4月からスタートする離島留学生親子の受け入れや、地域教育コミュニティの拠点として活用していく計画です。

子どもたちの学び場づくりが、大人にとっての気づきの場にもなる。新しい教育のあり方を模索する二人の活動に、今後も目が離せませんね。

資源の地域循環と「憧れられる農業」を目指す若手農家

島の面積の約半分を農地が占め、“農業の島”という印象の強い沖永良部島。実は畜産業も盛んで、200軒を超える畜産農家で約3,500頭(2018年現在、親牛のみの頭数)もの牛が育てられています。しかもそれらすべてが、あの高級食材「黒毛和牛」なんだそう。

と言っても、島で育てられた牛の牛肉を買ったり食べたりすることは今のところできません。現在、沖永良部島で行われているのは子牛を生後約8カ月まで育てて出荷する「繁殖農家」経営のみ。その後島外の「肥育農家」の元で大きく育てられ、食用として販売されるのです。

そんな繁殖農家の若手のホープが、要ファーム・要秀人さんです。要さんは東日本大震災を契機に「田舎で農業がしたい!」と思うようになり、2015年、両親の出身地である沖永良部島へ移住。知り合いから牛舎を引き継ぎ、現在は34頭の黒毛和牛を飼育しています。

要さんが約2年前から取り組んでいるのが「沖永良部島産キクラゲ牛」の開発です。宮城県南三陸町のさとうみリファイン株式会社、和泊町の沖永良部きのこ株式会社との共同プロジェクトで、これまで大量廃棄されていたキクラゲ収穫後の廃菌床とキクラゲの茎を発酵させて飼料をつくり、経産牛に食べさせて再肥育するというもの。

そもそも沖永良部島産のキクラゲはサトウキビを搾った後に残るバガスを菌床にして栽培されているので、さらに牛の飼料として再資源化できるようになれば、環境負荷の少ない高度な資源循環システムが完成すると期待されています。また、発酵飼料で牛が健康になる、飼料のコスト減などのメリットもあるそうです。

要さんが試験的に飼育した「沖永良部島産キクラゲ牛」第一弾。島内で販売したところ、「濃厚な味わいがある」「経産牛でも黒毛和牛はおいしい」と好評だったそう。一般発売される日が来るのが待ち遠しいですね!

前述の通り、農業に憧れて島に移住した要さんでしたが、目の当たりにした現実は後継者不足による農業人口の減少でした。シニア世代が孫たちに「農業は辛くて汚い仕事」「都会の方がいい仕事がある」という先入観を植え付けていると感じたそうです。―ならば自分たちの世代が「農業は面白くてカッコイイ」というイメージに変えていかなければ!

要さんは2018年、若手農家や沖永良部島の農業を盛り上げたい人たちを集めて「エラブネクストファーマーズ」を結成(現在は20名ほどが所属)。「農業を子どもたちの憧れの職業に」を合言葉に活動をスタートさせました。島外から講師を招いての勉強会や研修旅行の受け入れ、食品ロスと海ごみを考えるバーベキュー、島の歴史を楽しく学べるスタンプラリー企画など、農業の枠にとらわれないさまざまな活動を展開し、島内での認知度も抜群です。

その活動費はどこから出ているのかと聞くと、メンバーで育てたジャガイモなどを販売した利益から捻出しているというから、さすがファーマーズですよね。島の農業を盛り上げたいと願う彼らの熱い想いは、きっと子どもたちに届いているはずです。

クレヨンで島の自然と農作物の魅力を発信するママさんプロジェクト

最後に僭越ながら、私が取り組んでいる「えらぶ色クレヨンプロジェクト」をご紹介させていただきます。2018年、沖永良部島に移住してまもなく始めたこの活動は、同じく移住したばかりのママ友と子どもたちと過ごす時間の中から生まれたものです。

移住者の目に映るこの島の自然、農業を中心とする人々の営みはとても素晴らしいものでした。一方で、それは2~3日滞在するだけの旅行者にはなかなか伝わりづらい、住んでみないと分からない魅力のようにも感じました。

この“もったいない”魅力をうまく伝える方法はないのか。私たちはよく、そんな雑談をしていました。そして、「島の自然や農作物の魅力を伝えるストーリー性のあるおみやげ」をつくってみようかという話になったのです。

活用されていない資源や廃棄されてしまう“もったいないもの”を活かし、なおかつ出来上がったもので子どもたちと遊べるものが理想! たどり着いたのが、島の自然で着色したクレヨンでした。

赤土・シマ桑・島みかん・イカ墨・琉球藍・コーヒーなど、沖永良部島の自然や農作物をそのまま色素にし、それを島内産の蜜蝋(みつろう)で固めてつくる「えらぶ色クレヨン」。商品化までの道のりには語り切れない苦労がありましたが、地域の方々から多くの協力を得て2020年3月、ようやく誕生しました。

クレヨンの自然由来の香りとやさしい色から、「離れていても島を感じてもらえるように」「来たことがなくても島の魅力を知るきっかけになるように」と願い、一つひとつ丁寧に手づくりしています。

また、天然色素や蜜蝋を活用したワークショップを定期的に開催しています。土のクレヨンづくりや自然から絵の具をつくるペイント体験、蜜蝋の食品ラップづくりなど、いつもとは違うアプローチで自然にふれることで、当たり前にそこにある自然のすばらしさに気づいてもらうことが狙いです。

2020年夏にはクラウドファンディングにも挑戦。たくさんの方からのご支援を元手に、島の特産品であるジャガイモのフードロスを活用した「ジャガイモねんど」の商品化を進めています。こちらも完成間近! 観光協会などの店頭やオンラインショップでぜひチェックしてくださいね。

このほかに、離島経済新聞本誌で紹介した家族でビーチクリーン活動をしている「うじじきれい団」も同じく知名町の「人」です。

小さなコミュニティに暮らしているからこそ見えてくること、身近な自然と共生する離島だからこそ生まれるアイデアがあって、それを形にしようと奮闘する「人」がいる。それがこの島の美しさなのだと日々感じています。

企業研修などを受け入れている団体もありますので、興味があればぜひ問い合わせてみてください。

     

離島経済新聞 目次

ここがおすすめ。沖永良部島×ワーケーション

鹿児島と沖縄の間に浮かぶ奄美群島の沖永良部島。知名町(ちなちょう)、和泊町(わどまりちょう)の2町があり、両町合わせて約1万2000人が暮らす中規模の島は、実に「ワーケーションにおすすめ」という。知名町在住のライター宮澤夕加里さんが、沖永良部島でおすすめのワーケーションスポットや、滞在方法について全5回の連載で紹介します。

関連する記事

ritokei特集