つくろう、島の未来

2024年10月30日 水曜日

つくろう、島の未来

日本の島々は、知る人ぞ知るお魚天国。島々会議では、漁業・水産業に従事する「魚食を支える島の仕事人」にお話を伺います。島々会議009の参加者は、沖永良部島(おきのえらぶじま|鹿児島県)の皆さんです。

漁師の職場は海の上。遠洋漁業ともなれば陸で過ごす時間もほんの束の間です。

沖永良部島ではそんな漁師さんたちが17年前にはじめた「みへでぃろ市」が大盛り上がり。毎月第4日曜日に開催されている島のマルシェは、漁師の皆さんはもちろん農家さんや、島で働く外国人の方、福祉の分野で働く方など、業種・世代・国籍を越えた交流の場となっています。中には、みへでぃろ市の横をうっかり(?)通り過ぎたことがきっかけで島に移住した人も……。

今回は、そんな「みへでぃろ市」に携わる漁師さんにお話を伺います。

人物紹介


漁師・島人ぷらざ代表 関根博和さん
キハダマグロとソデイカを扱う漁師歴38年のベテラン漁師、ただいま漁船を新調中。お父さんや山下さんのお父さんの影響で漁師に。みへでぃろ市の主力参加団体「島人ぷらざ」代表。山下安富さんとはいとこ、趣味はカラオケ。


漁師・みへでぃろ市責任者 山下安富さん
漁師歴38年のベテラン漁師。関根さんと同じく専門はキハダマグロとソデイカ。お父さんが亡くなられた跡を継ぎ、追い込み漁の網元になったことが漁師になるきっかけ。関根博和さんとはいとこ、趣味はビリヤード。


旅する料理人・一般社団法人えらぶ手帖探究マネージャー 後藤健太さん
みへでぃろ市で出会った農家さんの仕事を手伝ったことをきっかけに、2020年12月に沖永良部島へ移住。趣味は、釣り、素潜り、無人島探検。島生活をYouTubeで配信中。
Instagram / YouTube


ライター・ネルソン水嶋
合同会社オトナキ代表。ライターと外国人支援事業の二足のわらじ。鹿児島県・沖永良部島在住。祖母と二人暮らし、帰宅が深夜になると40歳手前なのに叱られる。
Twitter


離島経済新聞社 石原みどり
『ritokei』編集・記事執筆。離島の酒とおいしいもの巡りがライフワーク。著書に奄美群島の黒糖焼酎の本『あまみの甘み 奄美の香り』(共著・鯨本あつこ、西日本出版社)。

【前編】業種も世代も国籍も越えた島マルシェ

私もたまに顔を出してますが、みへでぃろ市について教えてもらえますか?

漁師が島の魚を安く売ったり、農家の方が野菜を売ったり、島にはよい演芸もあるからと歌手や演奏者を呼んだりと、「島のよさが島の人に伝われば」と思って毎月第4日曜日に開いているイベントです。

みへでぃろ市の様子

島唄のライブなんかもあるんですか?

はい。大山百合香さん(沖永良部島出身の歌手)や演歌歌手にも出てもらったり、踊りも。

カラオケ大会もやってますよね?

カラオケは共催の障がい者就労支援施設の方が提案してくれました。僕も大好きなんですけど、障がい者の人たちにカラオケ好きな人が多くて交流も生まれていいなと思ってます。

毎年12月には伊勢海老などを賭けて年間チャンピオンを決めるんです。

鹿児島県立沖永良部高等学校エイサー部による演舞

そういえば以前、ベトナム人の子がカラオケで優勝したんでしたっけ。

島で働く外国人と日本人の間で交流がないという話もよく聞くんですけど、こういうみへでぃろ市のような場所でポンと自然に交流が生まれているのはすごいことだなと思います。

女の子ね、うまかったね。日本語がうまくてベトナム人だと思わなかったですもん(笑)。

あとは抽選会もあるよね。

「これはどんな魚でどんな食べ方をする」とか、「これは誰がつくっているもの」とか、その宣伝をしながらやってますね。

抽選会があれば、来ていただいたお客さんに最後まで残って楽しんでもらえるし、お客さんがいれば演芸をしている人にも喜んでもらえるので。

自作ブランコ。このように魚関連に限らず趣向を凝らした出し物が行われる

きっかけは魚が売れないという“危機感”

まさに島の魅力が詰まったイベントですが、どれくらい前に始められたんですか?

17年前に漁協で、漁獲量が減ったけど値段が上がらず、セリでも余って、「仲買人さんに売る分だけだと食っていけない」という話になったことがきっかけでした。

漁師、一部の仲買人さん、漁師の奥様方、賛同してくれる人たちでコンテナハウスを買って漁協の下で始めたんです。

「みへでぃろ」は島で「ありがとう」という意味の方言ですが、どうしてこの名前に?

開催日が近づくと「みへでぃろ市」と書かれた看板が町中に設置される

最初は朝市をやろうという話でしたが、自分たちがやって利益を得るだけじゃ島民の賛同を得られないよねとなって。

島の人が集まる広場のような場所にして、日頃買ってくれる人にお返しするんだ、それなら「みへでぃろ市という名前がいいんじゃないか」となりました。

だから「ありがとう」なんですね、素敵ですね。

漁師側から言えば、ある意味、還元みたいなことですよね。普段買っていただいている人たちに向けて、みへでぃろ市のときは競りより少し安く売って還元しますよと。

だから仲買人に怒られたんですよね(笑)。2年くらい経って会員同士でも運営方針の違いが出てきて、漁協の外でやるようになった。

そのときに「地域の人を巻き込んだ方がいい」と助言をいただき、農家さんや農産物を販売している人たち、さねんさん(障がい者就労支援施設「さねん」)たちとも一緒にやるようになりました。

地元の警察音楽隊員も、ステージで演奏

みへでぃろ市が島の漁師の気質を変えた?

以前、「一番の盛り上がりは打ち上げだ」って話してましたよね(笑)

ははは(笑)

そうそう。でも、主催している僕らも、手伝ってくれた人にそれでしかお返しできないんですよね。

500円だけいただいて、飲み放題と食べ放題の飲み会に参加してもらう。そこでお互いに知ることで、仕事でもなんでもメリットがあればいいんじゃないかなと思ってます。

ときどき行われるソデイカ・マグロの解体ショーは大人気

僕は実は、あの場で出会った人とめちゃくちゃ仲良くなって、何なら仕事の相談にも乗ってもらっているので、本当にありがたい話だなと思ってます。

僕なんか飲み会が好きだからずっと続けていられるようなものだけど、いろんな人と話ができる。漁師たちは陸にいないので、こういう関わりがあるのはよい機会だなと思ってます。

山下さんも関根さんも、私が知るえらぶの漁師さんは優しくてオープンだと常々思ってるんですけども。

でも他の地域の話だとよく、漁師は気が強いとか厳しいとか聞くんですよね。それってもしかすると、みへでぃろ市での交流による影響もあるのかなぁと思いました。

いろんな人と話すので、視野が広くなったというのはありますよね。

昔の漁師はまさにおっしゃるようでしたよ。怖いし、喧嘩っ早いし、朝から飲んでるし(笑)。

うん、30年ぐらい前はそうだったな。

みなさん、そんな怖い感じはしないですよね。

全然怖くないですよ(笑)。

みへでぃろ市が島の漁師の気質を変えたかも、と考えるとすごいことですよね。

マグロ漁から帰ってきた関根さん

二泊三日のつもりが島に移住

そんなみへでぃろ市と関わり、2泊3日のつもりが移住して…しまった、後藤さん(笑)。

かわいそうに(笑)

かわいそうではない(笑)

島暮らしを楽しむ後藤さん

ほんと、みへでぃろ市に出会わなければえらぶに住んでいない。人生のターニングポイントでした。

昼に通り過ぎて「なんかやってるな」とは思ってて、夜に打ち上げをやっているときにまた通ったんだよね。

それで「何かあったんですか?」と聞いたら、「一緒に飲もうよ」と輪に入れてもらって。島の人とつながりができた。観光で、ましてや2泊3日だと出会えない人とも出会えた。

そこで漁師さんや農家さんたちといった、一気に島の重鎮たちと知り合って(笑)。

後列中央が後藤さん。前列右端が、みへでぃろ市で仲良くなった農家の沖田さん。

いろんな人がいるからこそ、ある意味では島の産業の縮図とも言えるよね。島のことを一度にいろんな視点から教えてくれるから、「長めにいてみようかな」って気持ちになるよね。

そのとき後藤さんは2泊して一旦帰ったんですよね?

結局、2泊3日の予定が2週間に延びたんですよね。

2週間に!(笑)

知り合った農家さんから「うちに泊めさせてあげるからおいでよ、車も貸すからレンタカーも返しておいで」と言ってもらって。

農家さんもまさか翌日に僕が訪ねてくると思ってなかったみたいなんですけど(笑)。それから農作業なんかを手伝いながら2週間ぐらいいました。

2週間の滞在後、農業バイト向けのシェアハウスの管理を兼ねて本格的に住むことに。

ひとつの移住メソッドになりそう(笑)。町にみへでぃろ市をまずつくろう!みたいな……。

いろんな地域でみへでぃろ市みたいな場があったらいいですね。旅行者にもその地域らしさが伝わり、仕事のマッチングもできちゃう。

奄美だったらサトウキビの刈り取りとか、「その時期だけ手伝ってほしい」みたいなニーズ、ありますもんね。

>> 島々会議009「魚食を支える島の仕事人」9組目(沖永良部島)ヤギの匂い!?島の漁師はあーばたが好物【後編】


この企画は次世代へ海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。

日本財団「海と日本プロジェクト」

さまざまなかたちで日本人の暮らしを支え、時に心の安らぎやワクワク、ひらめきを与えてくれる海。そんな海で進行している環境の悪化などの現状を、子どもたちをはじめ全国の人が「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、オールジャパンで推進するプロジェクトです。

     

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