つくろう、島の未来

2020年12月03日 木曜日

本土から遠く離れた海上に浮かぶ国境離島において、ヒトとモノの往来に要する割高なコストは長年、島の住民の暮らしやビジネスの足かせとなっていた。「有人国境離島法」(2017年~)では、この島特有の懸案を解消するため、運賃や物資輸送費の負担を減らす施策が盛り込まれている。

(取材・文 竹内章)

屋久島 宮浦から口永良部島に渡る「フェリー太陽」

船賃はJR並みに、航空運賃は新幹線並みに

2017年に施行された有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法(以下、有人国境離島法)の主要施策のうち、島の住民の実生活に最もかかわりが深いのは「航路・航空路の運賃低廉化」事業だろう。

本土から遠く離れた国境地域の離島で暮らす住民が、本土を行き来する際の船と飛行機の運賃を一部支援する制度で、島の住民が長年抱えていた懸案に踏み込んだ施策といえる。

事業の対象者は、主に「特定有人国境離島」(8都道県・71島)で暮らしている住民。運賃引き下げの目安とした基準は「船賃はJR運賃並み、航空運賃は新幹線並み」。つまり、本土を電車で移動する際と同程度の料金設定を目指した。

運賃の平均引き下げ率は、限度額まで引き下げた場合の普通運賃(航空路は制度導入直前の住民運賃)からの割引率の単純平均でフェリー40%(JR在来線並み)、高速船33%(JR特急自由席並み)、ジェットフォイル36%(JR特急指定席並み)。航空機は35%(新幹線運賃並みの38円/km)。耳慣れない人も多いジェットフォイルというのは、船尾から海水を噴射し、水中翼で船体を海面の上に浮かせて進む高速船の一種だ。

観光客にはなぜ適用されない? 島の住民から疑問の声も

運賃低廉化事業の導入間もないころ、長崎県の離島・五島列島(ごとうれっとう)で暮らす筆者の周りからは「島活性化の観点では、島の住民だけではなく、観光客にも適用するべきでは」との声も聞かれた。

確かに観光客の運賃を割引すれば、観光客の負担が減り、来島者が増えるかもしれない。

しかし、この法の目的は、島人が継続して島で暮らしていけるような環境を整えること、つまり島の住民の暮らしを支えることで島の人口が減らないようにすることにある。

例えば、本土への通院や買い物など、日々の暮らしに必要な移動であっても、島の住民は本土に比べ割高な交通費を負担することが日常だった。国境離島の場合、本土と近い島々に比べると、本土への通勤や通学なども事実上、不可能である。この負担を考え、島を離れる決断をした人も多いだろう。

現代は、島で暮らす場合でも、本土との関わりは不可欠。島の住民にとっては船も「普段使いの乗り物」で、人によってはライフラインでもあるため、有人国境離島法の運賃支援制度で恩恵を受けている住民は多い。

輸送コストは最大で8割軽減

ヒトが移動する際の運賃と同様に、モノを運ぶ際の輸送費は、とりわけ島でビジネスを展開している人にとっては重要だ。

島では農水産業が基幹産業となっているケースがほとんどだが、価格競争を考えた場合、どうしても割高な輸送費がネックとなる。

そこで有人国境離島法では、加工品以外の農水産品全般の出荷や原材料の輸送にかかる費用を、最大で8割軽減。漁協や農協などの「出荷団体」による輸送費のほか、本土にある卸や商社、メーカーなどからの直接仕入れに要する輸送費も支援対象となっており、幅広い企業・団体が恩恵を受けている。

今回紹介した運賃や物資輸送費の負担軽減により、島の住民の利便性は高まったものの、有人国境離島の人口は依然として減少傾向にある。

この施策は、あくまでも人口減抑制に活用できる手段の一つ。他の支援制度とうまく組み合わせていくことが、施策のポテンシャルを最大限に高めるカギとなりそうだ。

離島経済新聞 目次

島×制度・法律

島で暮らしていくために知っておきたい法律や制度について、長崎県・五島列島在住の島ライター・竹内章が分かりやすく解説します。

竹内 章(たけうち・あきら)
1974年生まれ、富山県出身。元中日新聞社記者。フリーライター。

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