つくろう、島の未来

2024年03月28日 木曜日

つくろう、島の未来

国境地域に位置し、人が暮らしている島のみを対象とする「有人国境離島法」(2017年~)。離島振興を目的とする5つの法律のなかでは最も新しく、純粋に島人の生活環境改善を目指した他の4法とは大きく目的が異なっている。有人国境離島法の狙いや概要をまとめた。

(取材・文 竹内章)

離島振興法の「附則」が起点となり進んだ法整備

国境付近にある離島には、領海や排他的経済水域(EEZ)の範囲を決める際の基準となる「領海基線」がある。国の主権が及ぶ範囲などを決めるベースとなるため、国境離島が持つこの「拠点機能」は国からも重要視されている。

有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法(以下、有人国境離島法)は、議員によって法律案が発議される「議員立法」の形で2017年に施行された。他の離島振興関連法と同様、10年間の「時限立法」(法律の有効期限をあらかじめ設定するもの)となっているが、少し毛色が異なるのは、国境離島の「拠点機能」を守るために、無人化を防ぐなど国が責任を持って総合的な施策を展開する根拠となっている点だ。

この法律が制定された経緯をたどると、2012年改正の離島振興法にたどり着く。

離島振興法の改正議論が進められていた当時、海を挟んだ近隣諸国との領土問題が年々、深刻化していたことを踏まえ、「拠点機能」の観点から国境離島を法整備する形で保全しようという機運が高まった。

従来の離島振興法でカバーすることも考えられたが、離島振興法は国境に面していない内海離島も対象にしていたこともあり、無理があると判断された。

ただ、法整備に向けた道筋だけは立てておこうと、2012年改正の離島振興法の附則(※)に「特に重要な役割を担う離島の保全、振興を検討すること」を明記。これを元に法制化に向けた準備が進められ、有人国境離島法が誕生した。

※法律の規定は「本則」と「附則」から構成され、本則には、 法令の本体的部分となる実質的な定めが置かれるのに対して、附則には、本則に定められた事項に付随して必要となる事項を定めた部分のこと

有人国境離島地域と特定有人国境離島地域[有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する基本的な方針(概要版)より/内閣府総合海洋政策推進事務局作成]

より重要な「特定有人国境離島地域」には手厚い施策

国境付近にあり人が暮らしている「有人国境離島地域」は13都道県に148島あるが、有人国境離島法では、このうち「地域社会を維持するため特に環境整備が必要」とされる8都道県71島が「特定有人国境離島地域」に指定される。同エリアには、長崎県・五島列島や鹿児島県・吐噶喇(とから)列島、北海道・利尻、礼文島などがある。

同法には「有人国境離島地域」全体に対して、保全施策の一環として国による土地買い取りや行政機関施設の設置、といった措置を講じるよう記されている。

一方で、より重要な「特定有人国境離島地域」に対しては、上記の保全施策に加え、地域社会を維持するため、つまり「人に住み続けてもらい無人化を防ぐこと」を目的に、交付金制度を活用したさまざまな施策を用意。この非常に手厚い施策こそが有人国境離島法の目玉となっている。

運賃低廉化や雇用企画拡充事業などが主要施策

交付金制度に基づき、特定有人国境離島地域で展開されている施策には、以下の4分野がある。

・離島住民向けの航路・航空路の運賃低廉化
・創業・事業拡大支援などによる雇用機会の拡充
・物資の輸送コストの負担軽減
・「もう一泊」を目指した滞在型観光の推進

これらの施策は、島で暮らす人たちの日々の暮らしやビジネスに対し直接影響するものばかりで、島の経済や暮らしにも大きなインパクトをもたらしている。

制度導入から間がないため、現時点での評価は難しいが、離島関係者からは「制度をきちんと活用することができれば、様々な効果が期待できそうだ」との声も多く聞かれる。

対象離島地域で同法がどのように活用されているのか。次回、具体的な活用例を紹介する。

離島経済新聞 目次

島×制度・法律

島で暮らしていくために知っておきたい法律や制度について、長崎県・五島列島在住の島ライター・竹内章が分かりやすく解説します。

竹内 章(たけうち・あきら)
1974年生まれ、富山県出身。元中日新聞社記者。フリーライター。

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