つくろう、島の未来

2025年09月14日 日曜日

つくろう、島の未来

リトケイでは、理念や取り組みに共感した仲間たちのコミュニティ「うみねこ組」を運営しています(詳しくはこちら)。仕事や活動はもちろん、島に住んでいたり、行き来していたり、いつか住みたかったり、島との関わり方もさまざま。本記事は、そんなうみねこ組メンバーによる週替りのミニコラムです。

第2回は、お祖父さんから佐合島(山口県)の家と土地を相続し、知人友人を関係人口として仲間に加えながら東京との二拠点生活を送る、梅本将輝さんがお届けします。


私が活動している佐合島は、人口わずか5人の小さな島です。生活に必要な基礎インフラはひととおり残っていますが、都市では検針票を見るときにしか意識しないような「生活の安心」は、ここでは当たり前ではありません。どう守るかは、日々の工夫にかかっています。

佐合島にStarlinkのアンテナを設置する妻

水を支えるローテク

佐合島では本土からの送水ではなく、深井戸の地下水で水道をまかなっています。水道局に問い合わせると、送水量や貯水量まで丁寧に教えてくれました。小さな島でも適切に管理・点検されていることがわかり、心強く感じます。

地下水を使うということは、貯水量がそのまま「使える量」になるということ。いまは人口が少ないため困る場面は多くありませんが、観光客で賑わった昔の夏には断水もあったと聞きます。

各家には浅井戸があり、生活用水を補っています。定期点検やポンプの保守は自分たちの仕事。97歳の祖父も、不具合が起きると空き家から集めた古いポンプを納屋から引っ張り出し、部品取りをしながら直して使い続けます。規格の合わない継手はヤスリで削って合わせ、なんとか水を汲み上げる。壊れたら捨てるのではなく、手を動かしてよみがえらせる。島ではそんな小さな手仕事が、暮らしを支えています。

離島では、新品の調達に時間も費用もかかります。船便を待ち、取り付けの段取りも必要です。だからこそ「直して使う」「あるものを生かす」ほうが結果的に合理的です。水量の確認や定期点検を続けてくれる水道局に感謝しつつ、最後は私たち自身の手入れと工夫が要になります。

古いポンプから部品どりして整備する祖父
古いポンプから部品どりして整備する祖父

ハイテクが開く新しい通信の可能性

一方で、インターネットも現代に欠かせないインフラです。海底ケーブルが通っているため有線でもつなげますが、いつ途絶えるかはわかりません。いまやネットが途切れることは、生活や仕事に直結する死活問題です。

佐合島は本土まで約2kmと近く、携帯の電波自体は届きます。ただ、島内に基地局がないため海越しの電波を拾うことになり、仕事をするには心もとない場面がありました。

そこで衛星インターネット「Starlink」を導入しました。アンテナを空の開けた場所に設置し、スマホアプリで向きを調整するだけ。設置からおよそ15分で開通し、電源さえあればどこでも通信を確保できます。持ち運びもでき、離島にとって理想的なインターネット基盤といえます。

ゲームのように分かりやすいアンテナ設定
離島でもビデオ会議ができる快適な速度

設置して気づいたのは、空き地が多く、屋根に上らずとも空が抜けたスペースを確保しやすいということ。人口の少ない島ならではの強みでした。

「何もない」時間を過ごすのも、島ならではの良さです。一方で通信が安定すれば、平日はリモートで働き、合間に島の手入れをする――そんな新しい過ごし方や、島との関わり方が開けていきます。

開けた空き地に設置したStarlinkのアンテナ

ローテクとハイテクの共存

人口が少なくなっていく島では、都市スペックの「当たり前」をそのまま維持し続けることが次第に難しくなっています。便利なシステムを導入して“あとはお任せ”にしたほうが楽に見えるかもしれません。でも祖父と一緒に井戸を自分の手で直してみてわかったのは、ローテクこそがローカルの安心であり、壊れても立て直せる堅牢さだということです。

とはいえ、昔の不便さに戻ろうという話ではありません。私たちはハイテクも積極的に取り入れます。島のサイズに合ったやり方で、自分たちの手でインフラをつくり、手入れし続ける。その土台の上に、必要なときだけ外とつないでくれる新しい技術を重ねる――それがいちばん現実的で、しなやかな解だと考えます。

これまでの暮らしの在り方から学びつつ、時代に合った快適さを試していける場所として、離島はとても面白い。都市の「当たり前」でもなく、「不便な田舎」でもない第三の選択肢をゼロから考えられるからです。井戸やポンプのように直しながら長く使える仕組みを手元に置き、そこに通信衛星などの最新技術を重ねておく。ローテクとハイテクの掛け合わせこそ、島の未来を静かに、しかし確かに前へ進めるカギだと感じています。

瀬戸内の小さな島から宇宙とつながる

梅本将輝(佐合島)





     

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