つくろう、島の未来

2024年11月22日 金曜日

つくろう、島の未来

スマホやパソコンなど誰でも簡単に使えるインターネットが身近になった今、ICTという「情報と通信の技術」があることで、島の暮らしがどのように変わるのか? ICTをフル活用しながら奄美大島と本土の2拠点生活を行う、勝眞一郎教授の連載コラムです。

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わたしたちは教育に何を求めているのか?

今回は島の教育分野で活かすことのできるICTを考えてみたいと思います。

まず「教育って何?」と問われると、学び方の習得、知識の習得、社会的集団活動の仕方を身につけるなど答えはさまざまです。その中で、私がとても良い表現だなと思っているのが、教育基本法第一条にある「教育の目的」です。

そこにはこう書いてあります。「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない」

「人格の完成」というと、少し難しく感じますが、単に勉強ができる子を育てることが教育の目的ではありません。子どもたちが社会の一員として活躍できるよう、その手段としての知識を獲得してもらうことが大切であり、家族や地域、広くは社会とのつながりの中で、価値を生み出せる人を育てる。それこそが真の目的なのです。

島における教育の機会

教育の機会で考えると、教育は「時間」と「場」に分けることができます。まず、勉強するには時間が必要。何かを学ぶにはある程度の時間を要するもので、パソコンのようにプログラムを一気にインストールすることはできません。また、時間といっても長さだけでなく、濃さや集中度も重要。良質な時間を確保することが教育機会を増やす第一歩になります。

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次に、教育の「場」。知識は、テキストや先生を通じて伝達されるもので、具体的な場所として、学校や塾が想定されます。学びには到達目標に達するためのガイドとなるべきカリキュラムやシラバス(学習計画)が必要になります。

義務教育である小中学校は、児童・生徒が住んでいれば、基本的に開校されます。しかし、高等学校はある程度の生徒数が見込めない場合、設置されません。日本の離島地域には、高等学校がない島も多く、高校のない島には、進学か就職かで子どもたちが島を出て行く「15の春」が訪れます。同じように、大学がない島では「18の春」で多くの若者が離島。教育の機会が都会に比べて少ないという不利性が叫ばれる理由がここにあります。

ICTが広げる教育の機会

教育の機会を広げよう。どんな人にも教育の機会を。ということで、近年では世界中でさまざまな活動が行われています。貧しい地域では学校に行くと給食が出るというインセンティブを与えたり、教室がない地域では学校建設が行なわれたり、教師がいない地域には教師を派遣したり。

そんななか、ICTを活用した動きとして2010年代初頭から世界的な脚光を浴びてきたのがMOOCs(ムークス|Massive Open Online Courses)という仕組みです。MOOCsは、塾の講師や大学が授業の動画をクラウド上で公開し誰もが受講できる教育システム。モンゴルの山奥の少年がMOOCsで勉強してマサチューセッツ工科大学に入学したことで有名になりました。

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大学ばかりではありません。IT系のエンジニア向けにICTを介して授業を行なう「Schoo(スクー)」などのセミナー系コンテンツや、「東大ネットアカデミー」のように、ライブで東京の教室と島の公営塾をつないで授業をしている形態もあります。

いずれの方式も、ICTを使って授業コンテンツを配信するので、インターネットさえつながっていれば、都市部も島も「場」としての違いはなく、全く同じ条件になります。

ICTの発展により、これまで離島地域で叫ばれてきた「島では良い教育が受けられない、受講できない」という事態が解消されつつあります。私が教鞭をとっているサイバー大学の講義では、日本だけでなく海外から聴講する学生もいます。

これからの島の教育

ICTの発展により、働き方や学び方は変革期にあります。教育の内容は、これまでの記憶型の学力偏重から解放され、よりコミュニケーション能力や、発想力、企画力にシフトとしていくと考えられています。

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豊かな自然環境に恵まれる島の日常では、都市部よりも人生に影響を与えるような自然体験を数多く得ることができます。そんな教育の「場」としての島の価値に、いち早く気づいた親たちのなかには、子どもたちを連れて島に移住する人も出てきました。ICTの利活用が進む社会において、教育の「場」としての島がますます脚光を浴びると、私は考えています。

教育は子どもたちにはもちろん、大人にとっても最も効率の良い投資と言えます。島の暮らしのなかで、ICTを上手に取り入れることで、より良い教育の「場」づくりや「時間」づくりが進み、島の教育のレベルがより向上していくことを期待しています。

     

離島経済新聞 目次

【連載】島の暮らしとICT

ICT(Information and Communication Technology)技術で、島の暮らしはどう変化してきて、これからどう変化するのかを探る、サイバー大学教授の島×ICTコラム。

勝眞一郎(かつ・しんいちろう)
1964年生。奄美市名瀬出身。NPO法人離島経済新聞社理事、サイバー大学IT総合学部教授、奄美市産業創出プロデューサー、バローレ総合研究所代表。著書に『カレーで学ぶプロジェクトマネジメント』。現在は奄美大島と神奈川県の藤沢の二地域居住。

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