つくろう、島の未来

2025年07月20日 日曜日

つくろう、島の未来

経営も、地域づくりも、究極の理想はあらゆる方面を笑顔にする 「八方よし」。2024年に開催された「未来のシマ共創アワード」の審査員であり、 持続可能な暮らしを求めて奄美群島・沖永良部島で暮らす石田秀輝先生に、「八方よしのシマづくり」を実現するためのポイントについて聞きました。

※この記事は『季刊ritokei』48号(2024年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

理想の八方よしは 「生態系」

リトケイ

石田先生は「未来のシマ共創アワード」で、奄美大島の障害者就労継続支援B型事業「あまみん」を、「サーキュラーエコノミーの原理」と「循環経済」を叶えるモデルとして評価されていました。いずれも少し難しいので、簡単に言い表していただけますか?

石田

一番簡単に言うと「生態系」と同じです。「あまみん」はハーブティやアロマオイルをつくり、そこで出た不要なものを肥料にしています。何か行動を起こすと、何かが出てくるので、その副産物を活用してごみが出ないモデルをつくることは、まさに生態系を模倣しているのです。

障害者就労継続支援B型事業 「あまみん」 では、 農福連携で島の素材を生かしたジェラートやハーブティーを製造販売。製造段階で発生する加工残渣や余剰作物は蒸留しアロマオイルを採取、さらに残った残渣はボカシ肥料化して畑に還す島内循環型農業にチャレンジしている
リトケイ

なるほど。

石田

ここで大事なのは「ひとつの組織ではできない」ことで、おのずとコミュニティができることです。島のような環境は「自律閉鎖系システム」といえます。

地域づくりでも他地域でやっているモデルをそのまま持ってきてもうまくいきません。よそのモデルをそのまま持ってくるのは他律。その場に合わせた最適解を考えるのが自律です。

リトケイ

そのまま持ってくることはできないとしても、真似できることはありますか?

石田

「植物の搾りかすをアロマにする」など、工業的なものはコピーできます。けれど、その地域の生態系全体を動かす方法は真似できません。それぞれ自然が異なりますし、自然が違えば文化も異なりますから。

リトケイ

なるほど。 農業と福祉分野の連携など、経済的な面ではどうしても成り立ちにくい取り組みもありますが、その点はいかがでしょうか?

人口わずか100人台の東京都・青ヶ島では株式会社青ヶ島製塩事業所が「ひんぎゃ」と呼ばれる地熱蒸気をつかい、海水を温めて結晶化させた塩を販売。環境に負荷を与えない方法でつくった塩は有名レストランでも採用され、雇用や関係人口の創出にも貢献している
石田

「循環経済」の視点で見ると、一部分では成り立っていなくても、どんどんつながることで全体として成り立つモデルはつくれます。経済学の前に資本論があるんです。経済学は、資源が無尽蔵にあることを前提にしていますが、実際はそうではありません。

お金だけが資本ではなく、人間も歴史も自然も資本。それらがぐるぐるまわることで、循環型の社会が成り立つのです。

「エンケルとハレ」 (八丈島) は 「離島「酪農」の確立を目指し、 自然放牧から生まれた生乳をチーズとしてブランド化。景観を観光資源としながらも、温故知新的な視点も大切にしながら、昔からあった産業間の循環を取り戻すことも進めている
リトケイ

「八方よし」を目指すと当然、経済面だけではなく自然や社会への配慮も重要になります。経済的な価値だけにとどまらない循環を目指す必要があるんですね。

石田

もっとみんながよろこぶものを!と追いかけるうちに有形・無形の利益や文化的な価値も生まれ、トータルで見たら利益が出ているというイメージです。

リトケイ

「無形の利益」とは?

石田

達成感やよろこびですね。

「まごとうふ」(宮古島) は、製造中にできるおからや豆乳も無駄にせず、地元飲食店や農家と協力して廃棄物削減に取り組む。おからは惣菜の材料や豚の飼料として活用され、豆乳はソフトクリームに加工されるなど、地域全体での循環型の資源利用を実現

ポジティブに脳をだまそう

リトケイ

先生は「わくわくどきどき」を大事にされていますが、丸徳水産(※)の犬束ゆかりさんはまさに「わくわく」や「よろこび」を大事にされており、その強い意思が周囲に伝播することで、八方よしのプロジェクトが生まれているように感じました。

※参考記事:海も、島も、人々も皆の笑顔を生みだす熱源(対馬島)【八方よしの島づくり】

石田

指針になるような方ですよね。人間の意思には正と負があり、 1日3万回判断していると言われています。そのうち意識的に判断するのは5パーセントくらい。その5パーセントを格好けてポジティブに考えても、無意識の95パーセントがネガティブだと変わらないんです。

けれど、つくり笑いでもいいから笑う練習をすると脳がだまされる。「わくわくどきどき」と私が言い続けているのも、いつも自分をポジティブな思考回路にしておけるように言い続けているんです。

リトケイ

「わくわく」も「よろこび」も自分にはできないと思っている人は、まず自分の脳をだますことから始められそうですね。

石田

「運が良い」とか「恵まれている」という人は基本的にポジティブで笑顔が本物です。パナソニックを創業した松下幸之助さんも採用面接で自ら「運が良い」という人を採用したことで知られています。

新しいことを始めるときは、周囲にハシゴを外されることもあります。けれど、その度に落ち込んでもしかたがない。ポジティブに考えて「そう来たか」「その手があったか」と思うと怒りがなくなる。

「与論オーガニック」 が製造するツマリトビウオを活用したオーガニックふりかけ。現代食で不足しがちなミネラルを手軽に摂取できるよう、与論島のお母さん有志で「ミネラルふりかけプロジェクト」を開発。心身の健康と、地域循環も目指すエシカル商品だ
リトケイ

大崎上島は人口約6,800人の島に高校が3つあり「教育の島」を掲げられています。そういう島だからこそ実現しやすいモデルのように思います。

石田

それが文化なんです。 だから、文化の異なる地域でそのまま真似してもうまくいかない。学ぶことはできるけど、真似することはできないんです。

リトケイ

文化といえば海士町の新しい役場庁舎に使う什器を、島の廃材をつかってみんなでDIYするというエントリーもありました。

石田

みんなでつくり、循環させるという文化が育っている例ですね。

リトケイ

そうやって思考を巡らせ、挑戦を続けることが 「八方よし」のプロジェクトを実現させる秘訣のようにも感じます。

海士町役場(海士町)では新庁舎に使う家具の約8割に、使われなくなった家具や廃材、海岸漂着ゴミ、牡蠣殻やブイなどを活用した、再生家具(リメイク家具)を採用。家具の一部は住民とのワークショップにて制作。のべ150人が参加した

子どもを応援するのも文化

リトケイ

島の小中高生による「地球1個分の暮らし部門」には、大崎上島の「高校生が運営するコミュニティ・カフェ」のエントリーがありました。これは、石田先生が提唱する「日本の文化を創り上げてきた暮らし方の価値44要素」のひとつ「こどもも働く」に入る事例ですよね。

石田

子どもにも社会の役割があるのに、今の子どもたちはあまりに隔離されていますよね。大崎上島のカフェは高校生が率先して働いている価値観が良く、 大人のコミュニティがフォローしているのも立派です。

「ミカタカフェ」(大崎上島)は、大人料金と学生料金が分かれ「1杯のコーヒーから、子どもたちの挑戦を応援できる場所」だ。2023年度は週3日の営業で年間売上金額320万円を達成。夏休みは島暮らしを体験する子どもたちの寺子屋としても活用された

手段が目的にならないように

リトケイ

子どもたちが関わりながら「八方よし」を生み出すポイントはありますか?

石田

まず、従来の延長で社会が動かなくなっているので、大人が言うことが正しいわけではなく、若い人の感性も必要なのかもしれません。ここでは、若者も生きるための役割をもっていることと、若者のほうが未来に対する視点が高いことの2つがポイントですね。

リトケイ

子どもたちが関わりやすいものとして、海ごみから雑貨をつくるように、未利用資源からプロダクトをつくる事例もよく見かけますが、こうしたプロジェクトを 「八方よし」とするポイントは?

石田

手段が目的にならないようにすることです。雑貨をつくることは手段のひとつなのに、それによって何を達成したいのかが描かれていないケースはたくさんあります。学校の探求学習でも、何かをつくるという手段から入ってもいいけれど、それによって「未来の子どもたちにどう役に立つか?」と問いかけることが大事です。

豊かな循環が世界を豊かにかえる

リトケイ

沖永良部島の高校生が、100歳のおばあちゃんの知恵を継承して、お弁当にいれるプラカップを月桃の葉っぱにかえたというエントリーもすてきでした。未来に役立つアイデアには、過去からつながる知恵もありますよね。

石田

それも文化ですね。島のお年寄りは「生きる知恵」を持っていて、エネルギーや資源を使わない豊かさが散らばっているんです。

僕の家では庭のジャングルにある葉っぱをお茶にしています。テレビでは健康に良いサプリのCMが流れ続けているけど、島では近所のお年寄りが 「この葉は身体にいい」と教えてくれるからお茶の葉も買わなくなりました。

沖永良部島の「Happy lifestyle 〜島の植物でQOLを高める〜」は、満100歳の祖母との会話から自然と共生する暮らし方に興味を持った高校生の取り組み。毎日持参する弁当の「仕切り」にお金がかかりごみも増える既製品ではなく、月桃の葉を使用しQOLを高めている
リトケイ

「八方よし」はとにかく幅広い視点でみる必要ですね。

石田

「とにかく稼がなきゃ」ということが第一義にはなりません。自然資源も文化資源も歴史資源も、ぐるぐる循環することで新たな資本となり、その一部で経済が生まれる。人やお金がぐるぐる回ることで経済も豊かになるのです。

沖縄県立八重山特別支援学校(石垣島)の「給食の残食をたい肥化するプロジェクト」は、毎日平均2キログラム程度出る給食の残食を手づくりのコンポストに入れ堆肥化。生ごみを焼却する必要がなく、残食の量も確認できることから無駄なく食べる重要性を知ることができている

話を聞いた人

石田秀輝(いしだ・ひでき)

沖永良部島在住。 地球村研究室代表、東北大学名誉教授、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)理事長、一般社団法人エコシステム社会機構(OPaRL)研究代表、酔庵塾塾長、NPO法人ものづくり生命文明機構理事などを務める





     

特集記事 目次

八方よしのシマづくり

近江商人が掲げた理念 「三方よし」は「買い手よし、売り手よし、世間よし」を意味します。そして三方のみならず、四方八方あらゆる方面に 「良し」とする 「八方よし」。『持続可能な資本主義-100年後も生き残る会社の「八方よし」 の経営哲学』(ディスカヴァー携書)によると、経営者、株主、社員だけでなく、国や地球に対しても利益のある経営を指します。

経営も、地域づくりも、究極の理想はあらゆる方面を笑顔にする 「八方よし」。この特集では、 2024年に開催された「第1回未来のシマ共創アワード」で高評価を得た団体を例に、八方よしのヒントをお届けします。今日、あなたは誰を笑顔にしましたか? ご自身の取り組みと重ねてご覧ください。

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