つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

島にゆかりがない皆さんの中には「どうして島が特別なの?」と疑問を感じる人がいるかもしれません。また、島で生まれ育っても「どうして島が優先されるの?」と聞かれた時に、どのように答えていいか分からない人もいるかもしれません。ここではそんなキホン的な質問への回答例を紹介します。

※この記事は『季刊ritokei』42号(2023年5月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

Q1 どうして島は優遇されるの?

A1 海洋国家・日本にとって人が暮らす島々はどれもが重要な要所。島の無人化や人口減少を防ぐために法律・制度によって支えられているのです。

日本は排他的経済水域等の面積(約447万平方キロメートル)では世界6位の海洋国家。人が暮らす島は「我が国の領海、排他的経済水域等の保全」「海洋資源の利用、自然環境の保全」「食料の安定的な供給」のためにも、重要な役割を担う要所とされています。

しかしながら戦後以降、離島地域では人口減少が続き、離島振興対策実施地域(※)の人口は1955年から2020年までに約65%も減少しました(図1)。

※離島振興法、奄振法、小笠原特別措置法、沖振法の対象離島

図1 離島の人口減少率|昭和30(1955)年を100とした場合

(出典)令和2年度国勢調査結果
※令和5年1月25日時点における離島振興対策実施地域の256島を対象にしたデータを一部編集

また、経済の中心地から遠く離れた離島地域では、交通費や輸送コストなどの費用が多額になるなど、経済活動におけるハンデも多様に存在します。

行政区のすべてが離島にあたる「全部離島」市町村の人口規模は、日本最小人数自治体でもある青ヶ島村の160人台から佐渡市の5万人台までと大きくなく、それぞれの財政力指数(※)は全国の半分以下。

※ 地方公共団体の財政力を示す指数で、基準財政収入額を基準財政需要額で除して得た数値の過去3年間の平均値。財政力指数が高いほど財源に余裕があるといえる(総務省HPより)

高齢化率も顕著であることから(表1)、島々の生活環境や産業基盤を「本土並み」とできるよう、法律や制度によって支えられているのです。

表1 離島とその他地域の比較

(出典)人口増減率および高齢化率は国勢調査結果、財政力指数は総務省「地方公共団体の主要財政指標一覧」(令和3年度)
※令和5年1月25日時点における離島振興対策実施地域の離島256島を対象にしたデータを一部編集
※沖縄地域については沖縄本島も含めた数値
※離島の財政力指数については、市町村区域全域が離島である35市町村、86島の平均値
※過疎地域の高齢化率は平成27年、財政力指数は平成30年度の数値

Q2 島特有の法律はどんなことを支えているの?

A2 「本土での営み」と「島での営み」ではどうしても「差」が生まれます。島特有の法律はその差を埋めながら、島の営みが続くようにサポートしています。

法律によって多少の違いはありますが、離島地域では人々の往来や、生活に必要な物資を運ぶための費用が他の地域と比較して多額になります。

そこで、無人島の増加や著しい人口減少を防ぐため、離島振興法をはじめとするさまざまな法律によって本土との差を埋め、公平な条件をつくりだしているのです。離島振興法に記載されるさまざまな施策や特例措置は下記をご覧ください。

施策や特例措置の例(離島振興法)

補助率のかさ上げ
港湾、漁港、道路、空港、義務教育施設、災害復旧事業、簡易水道、教員住宅など

離島広域活性化事業の実施
定住促進住宅やシェアオフィス、冷蔵倉庫、荷捌き施設、避難施設の整備など

離島活性化交付金の交付
雇用創出のための戦略産品開発や輸送費支援、企業誘致促進
U・I・Jターン希望者のための情報提供、デジタル技術等新技術活用促進事業
交流人口や関係人口拡大のための仕掛けづくりなど

税の特例
所得税・法人税の特別償却、地方税の課税免除に伴う減収補填

各種配慮事項
●公共事業予算の明確化
●地方債への特別の配慮
●医師などの確保、妊婦支援、遠隔医療の実施
●介護・障害福祉サービスの提供、高齢者・児童福祉施設整備支援
●交通の確保、人の往来・物資の流通に要する費用の低廉化
●高度情報通信ネットワークの充実、維持管理および先端的技術の活用推進
●産業振興、人材の確保、職業能力の開発・向上
●住宅の確保(空き家活用を含む)、水の確保などの生活環境整備
●島外通学への支援、教職員の確保・処遇改善、遠隔教育、離島留学の推進
●再生可能エネルギーの供給体制整備および利用促進
●事前防災、減災などに資する国土強靭化の観点を踏まえた防災対策の推進
●小規模離島における日常生活に必要な環境の維持など

Q3 補助金ではどのくらい優遇されるの?

A3 例えば離島で港を整備する場合、本土に比べて10〜45%増の国庫補助を受けることができます。

港を整備するために1億円がかかるとすると、本土地域の港であれば、そのうちの4,000〜5,000万円分を国からの補助によりまかなうことができます。

同じ費用が離島地域でかかる場合、離島振興法対象地域では6,000〜8,000万円分、奄美群島や小笠原諸島では9,000万円分、沖縄では9,000〜9,500万円分が国から補助されます(表2)。

表2 離島の公共事業においてかさ上げされる国庫補助率の比較

この金額を「高い」と思う人もいるかもしれませんが、(表1)でも示されるように財政力を「本土並み」とできない離島地域にとっては、けして高くはないのです。

Q4 島特有の6法以外にも島を支える法律はあるの?

A4 島特有の法律を根拠として、さまざまな法律に島を守る条文や支える条文、島ゆえの環境に配慮した条文や配慮事項が記されています。

<島を守る条文・支える条文・配慮事項が書かれた法律例>
●海上保安庁法
●医療法
●海上運送法
●測量法
●一般職の職員の給与に関する法律
●漁港漁場整備法
●地方税法
●北海道開発のためにする港湾工事に関する法律
●へき地教育振興法
●海岸法
●租税特別措置法
●国民健康保険法施行法 抄
●公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律
●高齢者の医療の確保に関する法律
●介護保険法
●使用済自動車の再資源化等に関する法律
●武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律
●海洋基本法
●美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境並びに海洋環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律
●子ども・子育て支援法
●交通政策基本法
●災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する法律など

>>次回:「有識者に聞く 島のなりたいを叶える仕組みと活用ポイント(日本離島センター 小島愛之助さん)」に続く

特集記事 目次

特集|島を支える仕組みのキホン

1万4,125の島からなる日本には421島の有人島があり、そのうち416島が有人離島と呼ばれています。 人の営みがある島のそれぞれに、自らが暮らす地域を支える人がいて、島の外から島を支える人や、島を支えるさまざまな法律や制度があります。 この特集では、離島特有の法律や制度を中心に、島を支える仕組みのキホンを紹介します。

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