全国規模で使用されなくなった休眠空間が増えるなか、それらを有効活用する動きも広がっている。リトケイではフリーペーパー版『季刊リトケイ』の2号に渡って島の休眠空間利活用について特集。今号では、主にこの10年間で5,000校以上が廃校となっている学校施設をはじめとする、公共系空間の利活用を紹介する。
この特集は『季刊リトケイ』26号「島の休眠空間利活用」特集(2018年11月13日発行)と連動しています。
地域から学ぶ姿勢を尊重。みんなが集う「しまのテーブル」に
伊予柑など「かんきつの島」として知られる興居島(愛媛県松山市)の南端、泊港のほど近くにあるカフェ・イベントスペース「しまのテーブルごごしま」がこの夏、開業6年を迎えた。
2009年に統廃合で閉校した泊小学校を再活用し、松山市の四国本土出身・在住の藤内宏次郎さんが中心となって開設。現在は藤内さん夫婦が運営している。
藤内さんはシェフで、これまでホテルやオーベルジュ(宿泊施設付レストラン)などに携わってきたキャリアをもつ。地元の愛媛県砥部町で新しいオーベルジュを立ち上げるため、全国各地を視察する中で興居島を訪れ、島の魅力に触れたことが大きな転機となった。
2012年、藤内さんは協働メンバーの建築士らとともに旧泊小学校の利活用事業者の募集に応募。同事業を主催する松山市に企画案をプレゼンした結果、採用となり、2013年に「しまのテーブルごごしま」がスタートした。
この名称には、島内外のみんなが集まることができる「新たなテーブル」を作り、島に賑わいをもたらす新たなプラットフォームにしたいという藤内さんの思いがあった。
施設を使うにあたって、まずは水道や電気、ガスなどのライフラインに関する設備投資を重点的に行った。学校には3階建ての校舎2棟があり、かつて数百人の生徒が通っていた時期もある校舎は浄化槽をはじめとしたすべての設備の規模が大きく、今後のランニングコストなども考慮して適切なサイズにする必要があった。
教室をカフェやイベントに利用するためにじゅうたんの張替えやペンキの塗替えをしたほか、廊下や空き教室をキッチンにした。また外の景色が見えるようにすりガラスから透明なガラスに入れ替えた。窓の一部を大きく広げて出入り口を作り、その外側にはテラスを設置した。費用は自己資金を中心として、松山市の賑わい創出事業に関する補助金も活用した。
藤内さんは2013年のオープン後、約2年はシェフの活動と並行しながら運営し、2015年から専業になり現在に至っている。
土日祝日営業のカフェでは特産の柑橘類を使ったジュースやオリジナルキーマカレーなどのフードメニューを提供。バーベキューは観光客だけでなく島の住民も利用する。展示やライブなどのイベントスペースとしても活用できる。シェフの腕を活かして柑橘類などを加工した調味料の企画や販売にも取り組み、新たな収入源にもなっている。
「その地域に溶け込むためには、他所からやってきて何かをすると大々的に打ち出すだけでは絶対にだめだと思っていた」と話す藤内さんは、当初から島に教ろうとする姿勢を貫いてきた。
島の自然や文化、食、コミュニティ、経済基盤など、様々な面で失われつつある島のアイデンティティを知り、その素晴らしさに直に触れた。都市部では効率が最優先される一方で、海で隔たれた島にはまた違ったコミュニティがあり、ゆっくりした時間が流れ、物々交換などで助け合い、笑い合う文化があった。
この6年を「早かったですね」と述懐し、「島の皆さんにとっての母校であり、地域の財産である学校をお借りすることで、親近感をもっていただけました」と振り返る藤内さん。
愛媛県や松山市が島でのサイクリングやマラソン、ウォーキングなどを推進していることも重なって、島外からの利用者は増えている。その一方で藤内さんを喜ばせるのは、島の住民の間で「しまのテーブル」の認知度が向上し、理解者や支援者が増えていることだ。
藤内さんは自らの身体を島に馴染ませるように、着実に「しまのテーブル」を運営してきた。今後は島内外を移動するキッチンカー導入の構想も思い描いている。島を尊重し、情報発信をしつつ「単なるリゾートにならない観光振興を心がけていきたいですね」(藤内さん)
(文・竹内松裕)
●施設概要
愛媛県松山市泊町618-10 営業日は土日祝日を基本とし、イベントなどでは場合に応じて柔軟に対応。営業時間は11時から夕暮れまで。島外出張もあるため利用には要事前確認。詳しい営業日はホームページでも掲載している。
【関連リンク】
しまのテーブル ごごしま