つくろう、島の未来

2018年12月10日 月曜日

人口減少に転じた日本では、各地で空き家や廃校を見かけることもめずらしくなくなった。離島地域にも、にぎわいを失った建物に草木が生い茂り、割れた窓や崩れ落ちた屋根に、さみしさを感じる人は少なくないだろう。

全国規模で使用されなくなった休眠空間が増えるなか、それらを有効活用する動きも広がっている。リトケイでは2号に渡って休眠空間の利活用について特集。今号では、主にこの10年間で5,000校以上が廃校となっている学校施設をはじめとする、公共系空間の利活用を特集。冒頭では、公共空間の再生を促進する「公共R不動産」の菊地マリエさんに話を聞いた。

この特集は『季刊リトケイ』26号「島の休眠空間利活用」特集(2018年11月13日発行)と連動しています。

休眠空間が生まれた背景と、未来に活かすアイデア

日本国内で休眠状態にある公共空間の利活用が盛り上がりはじめたのは2010年頃と、菊地マリエさんは振り返る。さいたま市(2010年)や浜松市(2011年)などの自治体が全国に先駆けて遊休公共施設の一覧化や活用検討を開始していたところ、2012年に山梨県内でトンネル崩落事故が起き、全国の自治体にも火がついた。「公共インフラのメンテナンスをちゃんとしていないと人命に関わり、自治体の責任になってしまうことが明らかになったんです」(菊地さん)。

その後、2014年に総務省が全国の地方公共団体に対して、2016年度までに「公共施設等総合管理計画」をまとめるよう要請。「当時、新しかったのは『つくる』ことだけでなく『壊す』ことにも補助金がつきはじめたこと。遊休公共資産をリスト化する作業にもお金がつきました」(菊地さん)。

菊地マリエ(きくち・まりえ)
フリーランス。1984年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。日本政策投資銀行勤務。在勤中に東洋大学経済学部公民連携専攻修士課程修了。日本で最も美しい村連合特派員として日本一周後、2014年より公共R不動産の立ち上げ、その他フリーランスで多くの公民連携プロジェクトに携わる

当時、日本政策投資銀行に勤めていた菊地さんは、「次に投資するべきところ」をリサーチするため自治体の財政分析を担当していた。「日本の公共施設は高度経済成長期からバブル期にかけて半分以上が一気に整備されています。コンクリートの耐用年数が同じなら、一気に老朽化して更新需要が高まってしまうため、47都道府県をまわりながら公共施設の調査を行っていました」(菊地さん)。

そこで都市に比べて効率化を図りにくい小規模自治体の現実を知るとともに、そうした地域に残る独自の文化に興味を持った菊地さんは、日本で最も美しい村連合(※)に加盟する人口1万人以下の小規模自治体を行脚。小値賀島や喜界島、多良間島にも足を運んだ後、2015年に「公共R不動産」(※)の立ち上げに加わった。

先進的な自治体ではリストを公開

「公共施設等総合管理計画」は2017年度時点で、ほぼすべての市区町村で計画策定済となり、国や各省庁も公共空間の再生や民間との連携を推し進めている。

ただ、リスト化された公共施設を見て、自治体担当者は頭をかかえる。どう活用すれば上手くいくのか、自治体の職員だけで考えるには限界があるからだ。

「自治体の人が良いと思う空間と、私たちのような民間が良いと思う空間には乖離がありますし、自治体の人が『カフェにしてください』という施設が、実は宿泊施設にした方が良い場合もあります」(菊地さん)。元が公共空間であっても、再生後に民間人が経営するなら、当然、経営手腕や市場ニーズに対する感度が求められる。そのため、公共空間の再生に民間の目利き力を求める自治体も多いという。

ただ、そこは公共空間。公的な財産を活用する場合、自治体には“住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げる”責務があるため(地方自治法第2条)、公募が基本となる。「でも、日本はそんな悠長なことをしていられる段階じゃないんです」と菊地さん。実際、離島地域に限らず、全国各地で膨大な施設が休眠状態に陥り、立ち入り禁止のロープが張られたまま、風化を待つ建物もある。

「小さな自治体では、使いたいという人がいるだけでもありがたい状態かもしれません。民間のスピードに合わせて意思決定を早くできるよう、先進的な自治体では、活用可能な物件リストを公開し、使いたい人に手を挙げてもらえるような仕組みをつくる動きも広がっています」(菊地さん)。

公共空間の約1/3が学校。10年で約5,000校が廃校に

公共空間の再生事例には廃校が目立つが、それもそのはず。日本の公共施設のうち約1/3が学校で、1/3が公営住宅、1/3が図書館や役場などの公共施設になるという。この10年間で、廃校になった学校は5,000校以上。離島地域の事例では、2012年に小・中学校の統廃合が行われた喜界島で、小学校が9校から2校に、中学校が3校から1校に統合されたことで、一気に9校が廃校となった。

「廃校の活用は難しいんです。住民にとっては思い出が詰まった場所なので、変な風に使われたくないという思いも強く、教育委員会にとっても教育は聖域のようなイメージがあるため、違う目的で使われることに恐れを感じられていることがあります」(菊地さん)。

自らや我が子が学び、巣立った学校は地域住民にとって一番身近な公共空間と言える。そこで廃校活用では、さまざまな機能を集約してコミュニティの中心とする流れが生まれ、文部科学省も「みんなの廃校」プロジェクトを掲げ、活用を推進。全国の廃校活用事例を紹介する政府広報サイト『廃校Re活用』も立ち上がり、その活用が促されている。

実際に生まれ変わった廃校には、カフェやレストランなどの飲食施設に宿泊施設、ワークショップなどの体験施設、アート作品を集めた美術館、サテライトオフィスなどのビジネス拠点、介護福祉施設、野菜づくりや養殖を行う生産拠点などバラエティに富む。

「栃木の旧那珂川町では塩分まじりの温泉が湧き出ているため、廃校の教室にプールを置き『温泉トラフグ』を養殖していました。現在は教室から移転していますが、学校だった場所で地産品をつくって地域に貢献するというのもおもしろいですよね」(菊地さん)。

誰が、何に使いたいか。前提があると進みやすい

明かりの消えた学校が息を吹き返す背景には、地域外からやってくる「よそ者」が存在することも多いという。「地元の人は思い出が詰まりすぎているせいか、学校は学校としか見えていないことも多いんですが、外の人だと単純に『物件として可愛い!』と、思い出と切り離して考えられるんです」。

「離島地域の事例では、八丈島の熱中小学校や、佐渡島の学校蔵などもおもしろいですね」と話す菊地さんが、全国の廃校活用の中でも注目するのは、人口約7,000人の鳥取県智頭町の事例だ。

この事例では、廃園となった保育園を地域の振興協議会が管理していたが、肝心の活用方法については長く考えあぐねていた。そんな時、役場の若手職員が、移転先を探していた有名パン屋に声をかけ、地域総出で迎えいれたのだ。僻地とも呼べる山奥にある旧保育園にできたパン屋では、クラフトビールの醸造も行われ、カフェも併設される。

かつて園児たちが集った園庭には子どもたちの姿が戻り、パンに使う小麦や、カフェで提供される料理の食材には、近隣の食材が使用されるなど、小さな地域全体のにぎわいが創出されている。

廃校活用のハードルになるのは「住民合意」というが、「何に使いたい」「誰が使いたい」という前提がある場合は、スムーズに進みやすいと菊地さんは語る。智頭町の事例では、地域循環型の経済を目指していたパン屋オーナーの思想や真摯な態度に共感が集まったことでトントン拍子に進んだという。

「公共空間の中には旧保育園のように地域に権限が委譲されている物件もあるんです。こうした公共空間は、地域住民が『この使い方ならいいね』といってくれれば、彼らの意思決定だけで活用できるケースもあります」(菊地さん)。

壊すか、朽ちるか、にぎわいの拠点とするか

休眠空間であっても、活用するには耐用年数は気にしたい。菊地さんは「それが一番のハードル」といい、地震が多い日本では建物の耐震性能がネックとなり、使えない空間も多いという。「耐震性能を高めるための補助金メニューもありますが、建物の一部を取り壊す『減築』をすれば耐震性能をクリアできる建物もあります。人口が減っているなら、建物も半分のサイズにして小さく使うのもいいですね」(菊地さん)。

人口減少により増えている休眠空間だが、前述の通り公共物件の多くが高度経済成長期である1970年代に建てられていることから、耐用年数を60年程度とすれば、あと十数年で更新時期が訪れる。待ったなしの状況下で、離島地域の空間をいかに活用できるか。

壊すか、朽ちるか、再生するか。本特集に並ぶ島々の事例に、あなたが暮らす島の未来を照らし合わせてほしい。

※公共R不動産
行政主導だけでは進みにくい公共空間の有効活用を促進するため、メディア事業とプロデュース・コンサルティング事業を展開。ウェブサイト『公共R不動産』や著書『公共R不動産のプロジェクトスタディ公民連携のしくみとデザイン』(学芸出版社)などで、公共空間情報や活用事例、ノウハウを公開している
https://www.realpublicestate.jp/

※日本で最も美しい村連合
平成の大合併時期である2005年に「フランスの最も美しい村」運動を範に、北海道の美瑛町など7町村が設立した団体(2018年1月現在63地域が参加)。各地域が、地域資源である美しい景観、環境及び文化を守り育て、小さくとも輝くオンリーワンに誇りを持つことを趣旨に活動を展開
http://utsukushii-mura.jp/

特集記事 目次

特集|島の休眠空間利活用

人口減少に転じた日本では、各地で空き家や廃校を見かけることもめずらしくなくなりました。

離島地域にも、にぎわいを失った建物に草木が生い茂り、割れた窓や崩れ落ちた屋根など、寂しさを感じる風景が増えてきています。

全国規模で使用されなくなった休眠空間が増えるなか、それらを有効活用する動きも広がっています。

リトケイではフリーペーパー26号・27号に渡って休眠空間の利活用について特集。26号『島の休眠空間利活用」では、この10年間で5,000校以上が廃校となっている学校施設を中心に、公共系空間の利活用事例を紹介します。

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