つくろう、島の未来

2024年04月26日 金曜日

つくろう、島の未来

ごみの代表格であるプラスチック製品は、世界中で年間4億トンが生産されているが、とりわけ多いのがペットボトルなどの「容器包装」である。使い捨て容器包装の廃棄量がアメリカに次いで多い日本は、海ごみ削減に向けて何をすべきか。企業や地方自治体、漁業従事者、NPO・NGO、学術研究者など7,000社のパートナーとともに「海ごみ問題解決を国民全体の活動へ」と意気込む、日本財団の動きに注目する。(文・鯨本あつこ)

海ごみ問題が議論される場で感じた日本の立場の危うさ

2015年、国連の全加盟国が採択したSDG(s持続可能な開発目標)では、17の目標のひとつに「2025年までの海洋汚染の防止と大幅な削減」が掲げられ、海を漂う「浮遊プラスチックごみの密度」が達成の指標として据えられた。

さらに「持続可能な消費と生産パターンを確保する」目標も密接に関係。フランスでは2020年に使い捨てプラスチックを原則禁止するなど、欧州を中心に海ごみ削減に向けた動きが活発になっている。そんな中、日本はどう対応しているのか。

国連をはじめ世界各国の要人と接する日本財団の海野光行常務理事は近年、海ごみ問題が議論される場で日本の立場の危うさを感じてきた。

「関わる機会があれば関わりたい」と思う人は80%

そこで、日本財団は海ごみに関する国民の意識調査を実施。すると3つのポイントが見えてきた。

1つ目は「海ごみ」の実態が理解されていないこと。「海ごみ」という言葉は80%の人に認知されているが、問題の実態を知る人はほとんどおらず、詳細かつ正しい情報が行き届いていなかった。

2つ目は「誰もが主体的に取り組む重要課題」という人が80%にのぼったこと、さらに3つ目として「関わる機会があれば関わりたい」と思う人も80%存在した。この結果をもとに、日本財団は海ごみ対策をオールジャパンで実行することを決めた。

「海」に強い日本財団では、2016年より次世代に向けて海に対する好奇心を喚起するため「海と日本プロジェクト」を開始し、「海の体験機会づくり」「海の安全とそなえ」という二大テーマで各種事業を行ってきた。その動きに「海ごみ対策」を追加し、2018年11月より「CHANGE FOR THE BLUE(海の未来を変える挑戦)」を合言葉に活動を開始した。

海ごみ対策の推進は、問題に絡み合うさまざまな法律や条約が壁となる上、多くの知見と資金が必要になる。対して日本財団は、「海と日本プロジェクト」の推進パートナーとしてすでに7,000社(うち企業は5,240社)のネットワークを保有。垣根を超えた舵取りが可能なのだ。

リサイクル率を上げる「Bottle to Bottle」の取り組み

「正しいことを正しくやっていきたい」と話す海野氏は「社会が情緒に流されている部分もあるが、科学的知見に基づいた行動が必要」とし、行政や企業、学術研究機関など12領域のステークホルダーと連携。海ごみ対策のモデル構築に力をいれる。

そのひとつが、ペットボトルをペットボトルに循環させる「Bottle to Bottle」のリサイクル率を上げる取り組みだ。

日本人1人当たり年間180本を消費しているというペットボトルは比較的リサイクルしやすいが、97%の純度がなければリサイクルできない。「自動販売機横の回収ボックスを見ても分別ができておらず、ぐちゃぐちゃになっていますが、それでは燃やす(熱回収)が中心になってしまいます」(海野氏)。

石垣島に漂着するペットボトル(撮影・水野暁子)

汚れたペットボトルを分別・洗浄するには多大な人件費がかかる。そのため、汚れた廃ペットボトルは中国などに輸出される傾向にあったが、2018年1月に中国が廃プラスチックの輸入を禁止し、2019年5月には汚れた廃プラスチックの輸出入を規制する国際ルールも敷かれた(※)。

(※)有害な廃棄物の輸出入を規制するバーゼル条約。186ヶ国の地域と欧州連合(EU)が加盟

日本のペットボトルは行き場を失った一方、「輸出した先では製造者責任もないため、仮に海に流してもわからない」ため、海ごみをしっかり抑制するには国内での対処が確実といえる。日本財団はセブン-イレブン・ジャパンと提携し、全国各地の店舗に「ペットボトル回収機」を導入。

キャップやラベルを剥がしたペットボトルを投入すると「nanaco」ポイントが貯まる仕組みで、純度の高いペットボトルの回収率を上げていく。

海ごみ問題を、国民全体の活動へ

海ごみの削減に向けて、プラスチック等の供給側である経済界への対応や規制を求める声も大きいが、海野氏は「企業を巻き込んだごみの削減には科学的根拠も必要」と言い、東京大学や海外の大学などと連携し、海ごみの人体への影響などの研究も推進している。

さらに、5月30日から6月8日前後を中心に開催する「海ごみゼロウィーク」や、海ごみ対策の好事例を表彰する「海ごみゼロアワード」、海ごみ対策を議論する「海ごみゼロ国際シンポジウム」を環境省と共同実施していく。

海のように広く深い海ごみ問題は、現代に生きるすべての人の問題である。日本財団は向う3年間で50億円超の資金を投じ「オールジャパン」で海ごみ問題に立ち向かうという。

この動きを牽引する海野氏は「国民のごみに対する意識が変わっていくこと」を切に願い、「政府を動かすためにも、必要なのは国民の力」と力を込めた。

【関連リンク】
日本財団 海と日本プロジェクト uminohi.jp
日本財団CHANGE FOR THE BLUE uminohi.jp/umigomi/index.html

特集記事 目次

特集|島と海ごみ

四方を海に囲まれる海は離島地域では近年、「海ごみ」の急増に頭を痛める人が増えています。 海洋ごみ(本特集では海ごみと表記する)は主に、海を漂う「漂流ごみ」海岸にたどり着く「漂着ごみ」海底に沈み堆積する「海底ごみ」の3つに分類され、いずれも世界規模で解決が迫られる大問題となっています。 なかでも問題になっているのは、人工的に合成され、ほとんど自然に還らないプラスチックごみ。ペットボトル、発泡スチロール、漁業につかわれる網など。都市や田舎に限らず、現代の暮らしに浸透するプラスチック製品が、なんらかの原因で海に流れ出し、海を漂流し続け、島に流れ着いているのです。 紫外線を浴びて変質した微細な「マイクロプラスチック」は回収困難といわれ、多くの恵みを与えてくれる海が「プラスチックスープ」になると警鐘を鳴らされています。 海から離れた地域に暮らす人には、遠い話にも聞こえる海ごみ問題は、その一端を知るだけでも、現代社会の恩恵を享受するすべての人が関係する問題であることがわかります。 本特集では、そんな海ごみ問題を「島」の現状や取り組みを軸に紹介します。 この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』28号「島と海ごみ」特集(2019年5月28日発行)と連動しています。

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