つくろう、島の未来

2019年10月17日 木曜日

海から離れた地域で暮らす人にとって「海ごみ」は「遠い問題」とも感じられがちだが、それを間近に見つめる島々の人たちは、問題解決の糸口を日々探っている。ここでは「島と海ごみ」にまつわる注目の取り組みをご紹介。(文・竹内松裕)

将来もまた美しい島であるように。海ごみと向き合う子どもたちが映像を通じて世界に問いかける

鹿児島県南部の大隅諸島に属し、屋久島の西に浮かぶ口永良部島。ひょうたんの形にたとえられる島には約100人が暮らしている。

2019年3月、島の小学生グループ「口永良部島子ども会」が制作した映像作品が、パナソニック株式会社(大阪府)が展開する教育支援プログラム「キッズ・ウィットネス・ニュース(KWN)2018」の小学生部門でKファクター賞(キッズファクター、子どもらしい目線で描かれた作品)を受賞した。

パナソニックが主に小学生から高校生を対象としてグローバルに展開しているKWN。1989年にアメリカで始まった同事業は国や地域ごとに運営され、2003年から日本でも活動を開始。映像制作活動により創造性やコミュニケーション力を育み、チームワークの向上を目指している。

「子ども会」が手がけた映像作品のタイトルは「口永良部島 雪はふらぬが星はふる」(※)。収録時間約5分の映像作品では、海とともに生活する島の小学生たちが、島の海岸に漂着する海ごみの清掃作業に取り組むうちに、島の環境を大切に思い、ごみを出さない取り組みを進める様子が描かれている。

(※)映像作品「口永良部 雪はふらぬが星はふる」はKNWの公式サイトやyoutubeで視聴できる

口永良部島に漂着する海ごみはペットボトルや先の尖ったプラスチック、ガラス、注射針、絡まったロープなどがあり、中国語や韓国語が書かれたものも多い。全部を拾い切れないほどの大量の海ごみに直面した子どもたちは、ごみの量を減らし、できるだけごみを出さないようにしようと考える。

こうした意識はやがて「虫取り網など使えるものは修理して再利用する」「面倒がらず自宅で麦茶などを用意してマイボトルに入れて飲む」などの実際のアクションに変わっていく。

そして映像の最後は「それでも、海を渡って流れ着く大量のごみはどうしたらいいのでしょうか。島の人だけで処理するには限界があり、いずれ島がごみで埋め尽くされてしまうのではないかと心配しています。太平洋に囲まれた口永良部島が将来もまた豊かな自然に囲まれた美しい島であるように、願いを込めて」という真摯な言葉で結ばれている。

映像制作を発案したのは、島で民宿「夕景」を営む貴船恭子さん。貴船さんが島に移住してきた2000年頃はそれほど問題になっていなかった海ごみは、ここ5年ほどで大幅に増え続け、島の北部にある西の浜に漂着する。西の浜では金岳小中学校の水泳が始まるため、毎年6月と9月に島の住民が総出で清掃を行わなければならない状況となっている。

一方、貴船さんはKWN2016小学生部門で、小笠原村・母島の子どもたちの映像作品が最優秀賞を受賞したことを知る。「同じ島として、その作品には共感するところがたくさんありました」と貴船さん。そこで口永良部島でもこういう映像を作ろうと呼びかけたことが「雪はふらぬが~」が生まれるきっかけとなった。子どもたちの間にも「海ごみ問題を扱うが、島のいいところもたくさんPRできるような作品にしたい」という方向性が生まれた。

KWNのサポート制度として、初年度は現地の子どもたちを対象とした映像制作ワークショップを開催している。口永良部島でも同様のワークショップが開かれ、参加した子どもたちは手探り状態の中で、収録用機材の使い方や映像編集方法、シナリオ作成などに着手。2年目で見事にKファクター賞を受賞している。

貴船さんの長男の梗(こう)さんは、映像制作に取り組んだときの「子ども会」で会長を務め、KWNの授賞式にも参加した。受賞について「これでいろんな人に映像を見て、聞いてもらえる」と喜びを感じている。「雪はふらぬが~」にもあったとおり、島の子どもたちは意識的にごみを減らすようにしている。

梗さんの家庭でも木製の本棚を壊して鉛筆箱を作るなどリサイクルを行っている。こうした取り組みが広がっている現状については「いいことだと思います。ですが、そもそもそうした取り組みをすることがおかしくて。大元のごみを減らすところからやらないといけないのかなと思います」と梗さん。

海外から漂着するごみに対しては無力感を覚えながらも、子どもたちは自分にできることをしようとしている。梗さんは「島の人が完全にごみを捨てていないとは言い切れないので、この映像を通したり、話をしたりしてみんなにごみのことを考えてもらい、やめてもらえたらいいなと思っています」と話す。

子どもたちはごみに対する意識に世代間の格差があることも敏感に受け止め、それを一本の映像作品にまとめて「将来もまた豊かな自然に囲まれた美しい島であるように」と願いを込めた。

「雪はふらぬが~」は島の総会で上映予定だという。口永良部島の内外に向けて発信した映像作品が、島の未来を変えようとしている。

特集記事 目次

特集|島と海ごみ
四方を海に囲まれる海は離島地域では近年、「海ごみ」の急増に頭を痛める人が増えています。 海洋ごみ(本特集では海ごみと表記する)は主に、海を漂う「漂流ごみ」海岸にたどり着く「漂着ごみ」海底に沈み堆積する「海底ごみ」の3つに分類され、いずれも世界規模で解決が迫られる大問題となっています。 なかでも問題になっているのは、人工的に合成され、ほとんど自然に還らないプラスチックごみ。ペットボトル、発泡スチロール、漁業につかわれる網など。都市や田舎に限らず、現代の暮らしに浸透するプラスチック製品が、なんらかの原因で海に流れ出し、海を漂流し続け、島に流れ着いているのです。 紫外線を浴びて変質した微細な「マイクロプラスチック」は回収困難といわれ、多くの恵みを与えてくれる海が「プラスチックスープ」になると警鐘を鳴らされています。 海から離れた地域に暮らす人には、遠い話にも聞こえる海ごみ問題は、その一端を知るだけでも、現代社会の恩恵を享受するすべての人が関係する問題であることがわかります。 本特集では、そんな海ごみ問題を「島」の現状や取り組みを軸に紹介します。 この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』28号「島と海ごみ」特集(2019年5月28日発行)と連動しています。

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