つくろう、島の未来

2019年07月22日 月曜日

九州北部と朝鮮半島のほぼ中央に位置する対馬は、南北約120キロメートル東西約17キロメートルと細長く、複雑なリアス式海岸が延々と続く離島。海流・季節風の影響を受け、大量のごみが漂着する対馬は、海ごみにどう向き合っているのか。島暮らしのなかで海ごみを目の当たりにしている対馬在住ライターがレポート。(文・佐々木達也)

総延長911キロメートルの海岸線に流れ着く対馬の海ごみ

対馬で漂着ごみ(以下、海ごみ)が目立つようになったのは約30年前。現在、対馬市は海ごみの量を年間2万立方メートルと推計していますが、実態は掴めていません。

なぜなら対馬市の周囲をつないだ総延長は911キロメートルに及び、市町村の外周では日本一。入り組んだ地形に阻まれ、確認できない場所も多いのです。

複雑に入り組む対馬の海岸線(撮影・佐々木達也)

2万立方メートルのごみは、深さ1.5メートルの25メートルプールで例えると200杯分に相当します。

回収される海ごみは、ペットボトルなどの家庭ごみをはじめ、プラスチック製の漁具や発泡スチロール製のフロートなどさまざまで、ボランティア団体が行う清掃活動でも一般的なごみ袋では歯が立たず、1立方メートルのコンテナバック(トン袋)を使用。搬出や輸送には重機や大型車両が使われています。

海ごみの回収作業で使用されるトン袋(提供・対馬CAPPA)

国全体の年間予算のうち1割を活用

そんな対馬では島の有志がNPO法人などの団体を立ち上げ、海岸清掃を行なっていましたが、回収やごみの保管にかかる費用は重たく、各団体の運営を圧迫していました。

2009年に海岸漂着物処理推進法が成立すると、対馬市は海洋漂着物処理事業補助金を活用し、海ごみの回収を地元の漁業組合へ委託。国全体の年間予算30億円のうち、1割にあたる3億円を使い(2018年度実績)、1万立方メートルが回収されるようになりました。

対馬に流れ着く海ごみ。清掃活動が行われている海岸は全体のわずか5%(提供・対馬CAPPA)

しかし、ここで新たな問題も浮上。海ごみの回収で日当や船の借り上げ料が支給されることで漁業者にとってはごみ拾いが仕事になりましたが、それに伴いボランティア活動を行える場が減少。一部でボランティア団体が清掃を拒否される事態も発生したのです。

そこで、2017年に行政・水産関連業者・市民をつなぐ一般社団法人対馬CAPPAが誕生。対馬出身で、25年前に島へUターンした理事長の上野芳喜さんは「市民と行政が同じ方向を向き、知恵と心を持って、一歩ずつ解決に向けて取り組んでいきたい」という思いを胸に、海岸清掃活動や海ごみに関する情報発信、市の協議会運営等を行っています。

「誰が悪い」ではなく「美しい海岸を取り戻したい」想いで活動

対馬に押し寄せる海ごみには外国語表示のごみも目立つため、島の人たちの中には「海ごみによって一方的に被害を被っている」という思いを持つ人も少なくありません。

しかし、島内各地を見渡すと、空き缶やプラスチック製の弁当の空き容器、大型家電などの不用品などが不法投棄され、日本の漁業者も使用する発泡スチロールのフロートは海岸に打ち上げられ細かく砕けている現状も見受けられます。

島に暮らしている私たちの生活も見直す必要があると感じています。海ごみという世界規模の問題に対して、対馬では韓国の市民団体による海ごみの清掃活動や、両国の高校生や大学生による海ごみ削減に向けたワークショップも盛んに行われています。

日韓ビーチクリーンアップの風景(提供・対馬CAPPA)

なかでも「日韓ビーチクリーンアップ」は規模が大きく、2018年で16年目を迎えました。このイベントが生まれたきっかけは、かつて国際交流員として対馬に赴任した韓国人男性が、対馬に流れ着く膨大な漂着ごみにハングルが書かれたごみを見つけ、ショックを受けたことでした。

彼は帰国後、母校の大学生らを連れて対馬を再訪。海岸清掃を始め、2018年には、約270名の日韓市民ボランティアが清掃に参加し、国籍に関わらず「膨大な漂着ごみを取り除き、美しい海岸を取り戻したい」という想いを抱きながら作業を行っていました。

終わりの見えない対馬と海ごみ。しかし、清掃活動やワークショップ、回収後の海ごみの再利用についての議論など、対馬は今、年齢や立場、さらには国境を越えて海ごみをについて考え行動するフィールドとなりつつあります。

世界規模の問題に、日本の端に位置する離島が取り組む姿に注目していただきたいです。

特集記事 目次

特集|島と海ごみ
四方を海に囲まれる海は離島地域では近年、「海ごみ」の急増に頭を痛める人が増えています。 海洋ごみ(本特集では海ごみと表記する)は主に、海を漂う「漂流ごみ」海岸にたどり着く「漂着ごみ」海底に沈み堆積する「海底ごみ」の3つに分類され、いずれも世界規模で解決が迫られる大問題となっています。 なかでも問題になっているのは、人工的に合成され、ほとんど自然に還らないプラスチックごみ。ペットボトル、発泡スチロール、漁業につかわれる網など。都市や田舎に限らず、現代の暮らしに浸透するプラスチック製品が、なんらかの原因で海に流れ出し、海を漂流し続け、島に流れ着いているのです。 紫外線を浴びて変質した微細な「マイクロプラスチック」は回収困難といわれ、多くの恵みを与えてくれる海が「プラスチックスープ」になると警鐘を鳴らされています。 海から離れた地域に暮らす人には、遠い話にも聞こえる海ごみ問題は、その一端を知るだけでも、現代社会の恩恵を享受するすべての人が関係する問題であることがわかります。 本特集では、そんな海ごみ問題を「島」の現状や取り組みを軸に紹介します。 この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』28号「島と海ごみ」特集(2019年5月28日発行)と連動しています。

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