【vol.8「高台の集会所ライブ 90歳のおばあちゃんと僕」】東京から南に1000kmの小笠原諸島・父島で、ウクレレ弾き兼ポストマンとして活躍中のホマレさん 。連載コラムでもおなじみのホマレさんは年に1度は本土へライブツアーへ出掛けるのがライフワークです。今年3月、昨年の震災で甚大な被害をうけた石巻へライブツアーへ行ったホマレさんの特別ルポです。
[8]「山の上の仮設住宅 90歳のおばあちゃんと僕」
小雨が降ってきた。これから伺うところは高台にあると聞く。
ということは、僕がライブの拠点にしている「ボランティアベース」より
更に冷え込むのだろうか。
腰に使い捨てカイロを貼って出掛ける。
フジコちゃんのBMWは四駆を活かして高台へと駆け上がっていく。
バーベキュー場の看板がある。
そうここはバーベキュー場だった所に建てられた仮設住宅なのだ。
行政は更なる津波を想定し、
お年寄り優先でこの高台の仮設住宅へ入居してもらったそうだ。
しかし普段の日常生活においては、街へ行く公共の交通手段がなく、
生活物資を買いに行くこともできない。
ということは、ここへ尋ねてくる人も少ない。
まさに孤立しているとのこと。
周りを見渡すと外灯も設置されていない。
夜は真っ暗闇になり獣も出没するという。
やはり小雨がパラつく。スタッフの心配は、
果たしてこの集会所へ皆さんが集まってくださるかということだ。
コの字型に設営された仮設住宅の奥、
集会場の引き戸を開ける。誰も居ない!
しばらく使用されてなさそうなので、
スタッフと窓を開け空気を入れ替える。
座布団を並べているとフジコちゃんの携帯が鳴る。
ここの世話役さんからで、どうしても抜けられない用があったらしく
「声を掛けてあるみんなを連れて、今からそっちへ向かう」とのこと。
つまり世話役さんが皆さんを車で集会所にお連れする段取りになっていたのだ!
開演の予定時間を二十分ほど過ぎて、皆さんが集まってくる。
「久しぶりだね」とか「居たのかい」との会話が聞こえる。
10人ほどの方が集まった。
いつの間にかハーモニカのてっちゃんも来てくれている。
世話役さんも頭を掻き掻き入ってきた。さあライブ開始だ。
僕はまた日本地図を空に描き小笠原の位置から話し始める。
島の交通事情を話すと、一人のおばあちゃんが「大変だ」と
僕の生活を心配してくれた。
演奏を開始。小笠原の小学生と作った「夏休み」や
「みんなのウクレレ」など
数曲を披露したところで、前回の仮設ライブと同じく
桜餅とお茶の時間だ。皆さんと一緒に桜餅を頬張る。
美味しいものはみんなを笑顔にする。
ここでも京都の華道の先生が用意されたお花をお配りし、
特別ゲストに「てっちゃんどうぞ!」と声を掛けると、
今回は手際よく先に歌集も配られ、
唱歌の演奏に合わせ会場全員での大合唱となる。
もう終演の時間、僕が締める番だ。
手拍子をお願いしてオリジナル曲「ランデヴー」を唄いお開きとする。
最後は皆さんと握手し別れを惜しむ。
そして僕の生活の心配をしてくださったおばあちゃんはなんと90歳だった!
「あんたに逢えて良い冥土の土産になったよ」と僕に言う。
戦争、そして震災を経験されながらもしっかり生きてこられた方に、
そんな声を掛けていただくなんて、目頭が熱くなる。
また来ることをお約束した。