つくろう、島の未来

2024年03月28日 木曜日

つくろう、島の未来

【離島マンガ「南国トムソーヤ」うめ先生鼎談】コミック@バンチに連載中の『南国トムソーヤ』。沖縄諸島の架空の島「羽照那島」を舞台に、少年少女たちのリアルな島暮らしを描くマンガです。作者のうめ(小沢高広・妹尾朝子)先生と、弊誌編集長・鯨本あつこが鼎談を行いました。「シマナイチャー」の目線から島を描きたいという作者のお二人と、島々の魅力から、島を想う島外の人間として「離島の今」を伝えることの意義までを熱く語り合いました。

2012年7月9日に発売された、コミック@バンチに連載中の『南国トムソーヤ』。

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“沖縄のさらに南にある最果ての島”という設定の、
「羽照那島(はてなじま)」という架空の島を舞台にした少年達の物語です。

タイトルから連想される“無人島を舞台にした冒険活劇”
かとおもいきや…。
描かれるのは、島の小学生の日常。
島の食文化や海遊び、そして神事など、リゾートではない
「普段の島らしさ」があるがままに描かれています。

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その一方、登場する小学生がスマートフォンやTwitterなどを
使いこなすシーンなどでは、想像のユートピアではなく
現実に着地した「離島の今」も伝えています。
また、考古学ミステリーの要素もストーリーに盛り込まれ、
主人公が謎解きの鍵を握るなど、一筋縄ではいかない、
練りあげられた物語が読み手を架空の島へと引き込みます。

作者の「うめ」先生(小沢高広、妹尾朝子の二人ユニット)は
前作『大東京トイボックス』が昨年マンガ大賞2位を受賞するなどの実力派。
離島に魅了され、これまで何度も足を運んでいるお二人。
「ぜひ、“離島の今”を伝える人間同士、ぜひ語り合いたい」と、
本誌編集長・鯨本との鼎談をお願いしました。
表現者として、お二人は離島をどのように見ているのでしょうか…?

「楽園」じゃない離島の描き方

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左:小沢高広(うめ)中央:妹尾朝子(うめ)右:鯨本あつこ (聞き手=小野)

鯨本:今日は、離島マンガ『南国トムソーヤ』を描こうと思われたきっかけや、
取材時のエピソード、「離島」というテーマを描くからこその苦労などを
お伺いできたらと思います。

小沢・妹尾(うめ):よろしくお願いします。

鯨本:もともとお二人は色々なジャンルのマンガを描かれていますが、
今回はどうして“島”を選ばれたんですか?

小沢(うめ):僕はもともと石垣島が好きで。

鯨本:八重山諸島(やえやましょとう)ですね。

小沢(うめ):そう、あの辺りの島に何度か通っていたんです。漫画家って結局、
自分の持っている引き出しの中からネタを出してると思うのですが、
担当編集さんに「なんかネタないですか?」と聞かれた時に、
開けられる引き出しがそこだった、という(笑)

鯨本:一番はじめから八重山諸島に?

小沢(うめ):最初はバリだったんです。

鯨本:バリ?

小沢(うめ):バリ周辺、ロンボクとかギリとかそのあたりの島を巡っていて。
昔行った島で、宿を出て、ずっと右に行ったら気がついたら島を一周していた!
みたいな(笑)

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鯨本:ありますね(笑)

小沢(うめ):そういったような、島のミニマム感、四次元空間感、それが
僕のツボだったんです。

鯨本:一度行ったら長い間滞在して、という旅のスタイルなんですか?

小沢(うめ):プチ引っ越しみたいな感じで、2週間くらい行って、荷物も送って、
猫も連れて行って、猫と一緒にあのあたりの島をウロウロしたりしていました。

鯨本:猫まで(笑)

妹尾(うめ):波照間島(はてるまじま)にも連れて行ったんですけど、
猫を連れてきた人は初めて、って言われましたね(笑)

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小沢(うめ):JALで、動物を運ぶとスタンプがもらえるんですけど、
波照間のスタンプを持ってる人はけっこうレア(※)だと思います。
(※波照間空港は2007年11月より路線廃止)

鯨本:それはレアですね(笑)
このマンガにはずっと島に居た人なら分かるような、
おじいちゃんたちの普段の感じとか、島の普通の雰囲気が良く描かれていて、
観光じゃなくてちょっと、島に“居着いている”方の感覚で描かれているなと。

小沢(うめ):東京に住んでいるのに、島の累計滞在時間は
渋谷にいる時間よりも長いですよ(笑)

鯨本:渋谷よりも(笑)

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「シマナイチャー」だからこそ描ける

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鯨本:お二人の体験したエピソードもマンガに多く盛り込まれているんですか?

小沢(うめ):はい。船酔いから始まって、トラックの荷台で移動したりとか…。

—マンタでダイブするのは…。

小沢(うめ):マンタがジャンプするのは本当です。
今は保護の観点から禁止されていますが、マンタに捕まって泳ぐ、
というのも昔からありました。あわせたのはさすがにフィクションですが(笑)
あ、でも生徒会費をヤギ売って作るというのは本当です!

—へー!どこからフィクションなのか分からない(笑)

鯨本:引き出しが豊富ですね〜。

妹尾(うめ):作中に出てくる、結願祭(神行事)も実際に見せてもらいましたし。

—島の人にとって大切な神行事をきちんと描いているのがすごいですよね。

妹尾(うめ):うん。島の生活に神事が組み込まれているので。
この島に滞在すると、描かないわけにはいかない。
描かないと、ただのリゾート生活マンガになっちゃう。

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鯨本:島ならではのネタが色々な所に出てくるな、と。
島の人は天気図が読める、とか。
ゴーヤチャンプルー弁当380円とか、リアル。(笑)
そういうネタがたくさん出てくるのが面白いですね。

妹尾(うめ):そう、向こうのコンビニ弁当やたら美味しいんですよね〜。(笑)

小沢(うめ):このマンガは、「シマナイチャー」の視点で描こうと思っていて。

鯨本:内地から来て、島に移り住んだ人のことですね。

小沢(うめ):絶対に島の人にはなれない、かといって観光客の立場で描くのもいやだ。
だったらシマナイチャーで書こうと。
あの言葉って面白いんですよね。内地から来た人にも使うけど、
逆に、島の人に「最近、アイツ内地かぶれしてるぜ」って時にも使う。

—へー!そうなんですね。

小沢(うめ):で、内地の人に使う時は「半分、島の人間」という、
仲間意識を表すようなポジティブな意味で使う。
だから僕はシマナイチャーとして描きたいという気持ちを強く持っています。
その視点しかないだろうな、と。

鯨本:そういう感じの「シマナイチャー」層って、都会にもけっこういると思います。
島の方とじっくり話したことや、島に長期で滞在したことがあると、
島々独自の事情がわかってきますよね。
島なりのルールとか、この情報は島外に出すと島に迷惑がかかるな、とか。
そういうのがこのマンガにはあるので嬉しいです。
島のそのままの姿や島人が大事にしていることを、
外に伝えてくれる作品になってくれたら嬉しいなと思います。

小沢(うめ):そうですね。

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(明日のその2に続きます)。

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