消防法施行令の一部が改正。救急車1台につき救急隊員3人の義務付けを緩和、離島振興対策実施地域や過疎地域などで救急隊員2人と准救急隊員1人で隊が編成できるようになる。施行日は2017年4月1日。
離島や過疎地域における救急業務の空白を改善
総務省消防庁が2016年12月16日、離島や過疎地域などで生じている救急業務の空白を改善するために、消防法施行令の一部を改正する政令を公布した。これまでは救急車が出動する際、1台につき救急隊員3人の編成が義務付けられていたが、今回の改正により現行基準が緩和し、救急隊員2人と准救急隊員1人で救急隊が編成できるようになる。緩和の対象となるのは過疎地域と、離島振興対策実施地域、奄美群島(あまみぐんとう|鹿児島県)、小笠原諸島(おがさわらしょとう|東京都)、沖縄本島を除く沖縄の離島。施行日は2017年4月1日。
具体的な要件は、各自治体が、総務省令で定める事項に基づく実施計画(准救急隊員を含めた救急隊による救急業務を行う地域や時間帯など)を定めた場合、救急隊員2人、准救急隊員1人以上の救急隊を編成できる。准救急隊員の対象は常勤の消防職員で、92時間の救急業務に関する基礎的な講習を受けた者か、医師、保健師、看護師、准看護師、救急救命士、250時間の救急科を修了した者に限っており、自治体の役場職員を併任させるなどの運用が想定される。また、准救急隊員は、喉に詰まった異物を吸引器で取り除くような危険度の高い応急処置は単独ではできない。
背景に市町村合併と自治体の財政難、新制度は2017年度より施行
改正のきっかけとなったのは2015年夏、内閣府が募集する「地方分権改革提案」に対し、愛媛県西予市が提案をしたことだった。同市の明浜町と城川町では、それぞれの出張所における救急隊の配備が平日8~17時までで、夜間や休日は隣の署所から救急隊が出動するため到着に時間がかかっていた。そこで救急隊を2人で編成できるようにして、軽症患者を搬送したいという内容だった。この提案を受けた総務省が消防庁と検討し、同年12月、消防職員以外の救急業務を検討するよう閣議決定していた。
2004年、宇和町と野村町及び三瓶町と合併して西予市となった明浜町と城川町だが、財政難で両町の出張所に救急車を配備できるのは平日昼に限られた。やがて住民からは「夜は救急車がいないので、病院まで家族の車で行ったが、途中で具合が悪くなり亡くなった」「夜に救急車を呼んだ。城川出張所に救急車があれば約5分だが、(救急車のある)野村支署から到着するまで30分かかった。そのこともあり脳に障害が残ってしまった」などの声が届き、市では救急業務を最重要課題と位置付けていた。
写真左:西予市消防本部 明浜救急出張所/写真右:同 城川救急出張所
西予市消防本部消防総務課の担当者によると、これまで市議会などで問題提起がされてきたが、中央まで届かなかった。「地方分権改革提案」により、市が総務省に直接提案したことで、消防庁の対応に結びついたという。今回の施行令改正を受け、同市では2017年度の予算に計上し「一刻も早く」導入しようとしている。
同担当者は「今回の施行令改正では、消防庁が非常に迅速に対応してくれたので感謝している。全国の過疎地域で西予市のような事例が増えないように、さらにスピード感をもって進めてほしい」として、「救急業務に関する講習は消防学校で行うことが決まっているが、消防学校側の受け入れ体制が不明確である。准救急隊員の教育など、細かい課題を消防庁と協力して解消していければ」と話した。
消防庁救急企画室の担当者は「ここ10年以上連続して救急出動件数が増えている反面、人口減少などで自治体の財政が厳しくなっている現状などがあり、今回の施行令改正につながった」として、「新しい制度について不明点が多いと思う。気軽に問い合わせていただければ」と新制度の周知徹底に意欲を示した。