奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)では、1990年(平成2年)に瀬戸内町で最初の松くい虫被害が発生してから、被害区域が徐々に拡大しています。被害状況や対策について、大島支庁林務水産課の方にお話を聞きました。
[奄美市内のリュウキュウマツ(2013年11月撮影)]
奄美大島の山中や海岸端に自生するリュウキュウマツに、近年、一見紅葉のようにも見える“松くい虫”被害が拡大している。
これは「マツ材線虫病」という侵入病害の一種で、媒介虫のカミキリムシによって樹内に侵入したマツノザイセンチュウが松の細胞を破壊、感染後は葉が赤くなり、次第に樹皮を失って「白骨化」し、枯死する病気である。
鹿児島県大島支庁林務水産課によると、1990年に加計呂麻島(かけろまじま|鹿児島県)で確認されて以降、被害は年々北上しているという。
現在は奄美大島南部を侵食し、新たに島北部のほか、徳之島(とくのしま|鹿児島県)や沖永良部島(おきのえらぶじま|鹿児島県)で被害が拡大しているという。同課の統計で、2013年9月末の奄美全体の被害合計は70,542㎥。昨年同時期と比べ約9,000㎥も増加していることについて、同課の担当者は「夏場の渇水が影響。通常より早い7月頃から松枯れが見られた」と説明する。
薬剤の空中散布は希少な動植物などへの配慮から実施せず、被害木を伐倒して薬剤薫蒸する伐倒駆除が主流となる。かつて燃料や建築材として広く利用された松材も、現在はそれほど利用されておらず、対策は被害の拡大を抑えるに留まっている。
また、一連の被害を「広葉樹林に戻る自然の流れ」と見る専門家の意見もある。奄美の植物写真家・山下弘さんは「この拡大の速さは異常」と懸念しつつも「これは自然遷移の段階とも取れる。松が枯れた山には椎や樫などの広葉樹が取って代わる。また、松も害虫に耐性のある個体がでてきて、全滅は免れるのではないか」と長期的な視点での見通しを語った。