日本の島々は、知る人ぞ知るお魚天国。島々会議では、漁業・水産業に従事する「魚食を支える島の仕事人」にお話を伺います。
島々会議第8回は、大分と宮崎からゲストをお招き。
今回お話を伺うのは人口14人の屋形島(やかたじま|大分県)でゲストハウス運営と緋扇貝(ヒオウギガイ)の養殖業と、二足のわらじを履く後藤猛さん。島野浦島(しまのうらしま|宮崎県)の食堂で島の海鮮物などを提供しながら特産品を開発する岩田大志さん。お二人の共通点は九州の島からEC販売をされていること。取り組みを紐解くと、「人をつなぐ場所をつくる」という、とても大きなつながりも浮かび上がってきました。
人物紹介
後藤緋扇貝 後藤猛さん
人口14人の屋形島(大分県佐伯市)で緋扇貝の養殖と「屋形島ゲストハウス」を運営。インドのダラムサラにあるチベット人コミュニティを訪れたことをきっかけにUターン。
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日々とデザイン株式会社 岩田大志さん
島野浦島(宮崎県延岡市)で、デザインの力を活かし満月食堂の運営と特産品の開発に取り組む。食堂の名前は、満月の週は漁師たちが船の修理や体を休めるかつての日常にちなむ。
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ライター・ネルソン水嶋
合同会社オトナキ代表。ライターと外国人支援事業の二足のわらじ。鹿児島県・沖永良部島在住。祖母と二人暮らし、帰宅が深夜になると40歳手前なのに叱られる。
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離島経済新聞社 石原みどり
『ritokei』編集・記事執筆。離島の酒とおいしいもの巡りがライフワーク。著書に奄美群島の黒糖焼酎の本『あまみの甘み 奄美の香り』(共著・鯨本あつこ、西日本出版社)。
海の幸と向き合いながら場所づくり
後藤さんは、ゲストハウスと緋扇貝養殖の二足のわらじ。繁忙期が重ならないのがいいなぁと思いました。
夏は出荷も多いので若干は重なりますけどね、でもやっぱり緋扇貝が忙しいのは冬ですね。緋扇貝養殖は父の代からはじめたもので、「屋形島ゲストハウス」は知人の古民家を改装して2018年4月にはじめました。
岩田さんが取締役を務める会社は、飲食店の経営と特産品開発の二本柱なんですね。
はい。もともとはデザイン会社なんですが、「満月食堂」という飲食店の運営と、島の養殖業者さんの鯛を使って、「濃厚鯛ほぐれ」というふりかけのような調味料をつくっています。
満月食堂をはじめられたきっかけはどのようなものだったんですか?
オーナーと遊びに来たときに島の方から相談されて、2019年に開かれたビジネスプランコンテストで入賞したことがきっかけです。コロナの影響でなかなかはじめられなかったんですが、3月にようやくオープンできました。
すごく喜んでもらってますね。もともとこの島に15年間、飲食店はゼロだったんですよ。イートインやお惣菜があるのですが、一人暮らしの高齢の方から「助かった」という声や、「帰ってきた親族と集まれる場所があるのはうれしい」という声をいただいています。
そうなんです。映画館やカフェもあったそうですが、よく聞くと30年も40年も前の話で。そんな月夜に休むのはおもしろいなと思って。漁法としては全国にあるみたいなんですけど、月夜に休む風習はどこでも同じなのかな、島特有なのかな、と思っていました。
屋形島は蒲江湾にありますが、本土側で満月の日に休むことを「月よくい」といいますね。
うちの島は休みのことを「よこい」って言うんですよ、ちょっと近いですね。
そうですね。見えるんじゃないかな、みたいな距離ですよね。
海の幸、どう食べている?
後藤さんのゲストハウスではご飯を出されることはあるんですか?
提供はしていないですね。キッチンで自由に料理できるので、食材は島外から買ってきてもらっています。緋扇貝だけはうちで買えるので、バーベキューで焼いて食べたり、知り合いが来たらいっしょに料理して食べることもあります。
はい。酒蒸しは発送するお客さんに一番オススメしている食べ方で、自分も緋扇貝を広めるためにいろんな食べ方を知っておきたいので、料理人の方が泊まられたときにはいろいろとアイデアをもらって知見を広げていますね。
いいですね!ゲストハウスと緋扇貝の相乗効果が生まれてる。
そうですね!どっちともすごいつながってくるので。県外で緋扇貝を食べたお客さんが泊まりに来たり、泊まりに来た方から注文を受けたり。
緋扇貝って、見た目もすごくきれいですよね。ワイン蒸しにしたりハーブと合わせたり、小さいのをパスタ料理にしても華やかになりそう。島ではどのように食べられているんですか?
緋扇貝養殖はうちだけなので、島の人たちが食べるときは自分たちが配ったときだけで、酒蒸しとかおすすめした食べ方くらいしかしないですね。うちは形が悪いものをフライにして食べるけど、一個150円するものなのですごい贅沢ですよね。
島外の方は海鮮丼を食べたいとおっしゃいますね。あとは7月にはじめたばかりの日替わり定食、刺し身とフライを出しています。2回目の方は鯛茶漬けを頼まれます。ほかにも500円からある、うどんとか、チキンカツ丼とか、こちらは島内の方が食べられますね。
島の方からすると日常的に食べられるものがほしいですもんね。
はい、「飾らなくてもいいから安いものがいい」と(笑)。
島の方がふだん、食堂以外で食べられているものは何ですか?
漁師町なので、水揚げのときに漁師さんが配った魚を食べる習慣はありますね。保存方法やちょっと傷んだ魚をおいしく食べる文化があって、醤油に漬けたりすり身を揚げる「たたっこ」とかがある。後藤さんの話のように食べ方が贅沢で、ブリを一本丸々炭火で焼いて七味じょうゆで食べたりして。酒と合わせるとたまらんのですよ。
緋扇貝って、色分けを養殖業者さんができるって聞きましたけど本当ですか?
うちは四国から天然物の貝の赤ちゃんを買っていますが、色はそれで決まりますね。人工ならできると聞いたことはあるけど、ぜんぶきれいに揃った緋扇貝は見たことがなくて、赤やオレンジが多くて黄色と紫が少ないというのはどこを見ても変わらないです(笑)。
牡蠣とかって淡水が混ざらないとおいしくならないっていうじゃないですか。緋扇貝は完全海水ですか?
海水ですね!淡水に弱いです。でも山からの養分は必要なので、山際のプランクトンは大事だと思います。四国に比べても成長速度が早いっていわれています。
>> 島々会議008「魚食を支える島の仕事人」8組目(屋形島/島野浦島)場所が生まれたことによる島と人の新たな関係【後編】
この企画は次世代へ海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。
日本財団「海と日本プロジェクト」
さまざまなかたちで日本人の暮らしを支え、時に心の安らぎやワクワク、ひらめきを与えてくれる海。そんな海で進行している環境の悪化などの現状を、子どもたちをはじめ全国の人が「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、オールジャパンで推進するプロジェクトです。