つくろう、島の未来

2025年01月30日 木曜日

つくろう、島の未来

島々で活動するキーマンとリトケイ編集部が共につくりあげた新著『世界がかわるシマ思考-離島に学ぶ、生きるすべ』(issue+design)は、人口減・高齢化・地球沸騰化の時代を心豊かに生き抜くための知恵を、 離島地域にある 「人と人が支え合うコミュニティ(=シマ)」から見出す一冊。

2024年10月某日、本書にも登場する解剖学者の養老孟司先生をお迎えし、 鎌倉市の浄土宗大本山光明寺で行われた特別対談のもようを、リトケイ編集部の石原みどりがレポートします。

左からissue+design筧裕介さん、養老孟司先生、NPOリトケイ鯨本あつこ(提供:issue+design)

語られる 「島がホントで都市がヘン」 の続編

養老孟司先生をゲストに迎えた特別対談では、issue+designの筧裕介代表とリトケイの鯨本あつこが、「人と人が支え合うコミュニティ(=シマ)」を軸に、これからの時代を心豊かに生きるすべについて養老先生に伺います。

材木座海岸に近い光明寺は、養老先生が「子どもの頃に遊んだ」という馴染み深い場所。蓮池に面した座敷に約60人が集まり、リラックスした雰囲気で座談会が始まりました。

『シマ思考』に掲載されたインタビュー「島がホントで都市がヘン」では、南海トラフ巨大地震への警鐘を鳴らしながら「島みたいなところで生きるのが人間の本当」「都市生活者は部分的にでも地域に住むべし」と呼びかけた養老先生。今回は、どんなお話が聞けるのでしょうか……。

開口一番、養老先生は「4つのプレートの上に乗る日本列島では大地震が繰り返されてきた」と語り始めます。日本は北米・ユーラシア・太平洋・フィリピン海の4つのプレートがぶつかる位置にあり、おおむね38年周期で大地震が発生。

江戸時代の文書には、室津港が隆起するほどの大地震も記録されているとのこと。2024年の元日に起きた能登地震とも重なる話は、身近に起こりうることとして、リアリティをもって迫ってきます。

人々の意識が変わるのは「地震待ち」

養老先生は学生時代に『方丈記』(※)を繰り返し読み、 鎌倉時代の記録から大災害が起きると世の中がどうなるのかを学んだといいます。「田舎から都への物資供給が途絶え、インフレが起こる。物資を運ぶ途中に山賊に襲われるなど、暴力が支配する世界になる」。 もしそうなったら私たちはどうすればいいのか……。背筋が寒くなります。

元京都大学総長の尾池和夫氏の予測では南海トラフ巨大地震は2038年に起きると言われ、「そのとき大事になるのは、水・エネルギー・食糧。大震災の後に世界はシマになる」と養老先生。物流が途絶えるほどの災害が起こった際には、支え合い自給できる大きさのコミュニティ(シマ)をつくり生きのびる必要があるといいます。

戦時中、子どもだった先生は毎日、自家菜園のカボチャを食べ、おやつは干し芋。遊び場だったお寺の庭もネギ畑になったというエピソードに、うなずく参加者の姿もみられました。

鎌倉市・光明寺で開催された『シマ思考』特別対談の様子

いつかくるであろう大震災。それでも「自分の身に降りかからない限り、人は考えを変えようとしない」と養老先生。参加者からの「どうやったら意識がかわるか?」という質問には「地震待ちですね」とおっしゃいました。

「最近の台風でも奄美群島で2週間物流が止まることがありました。台風はある意味大災害の予行演習と言えるかも」と話す鯨本。『シマ思考』 にはそんな島の人たちのしなやかさも掲載されますが、それらは海に隔てられた台風常襲地帯で支え合い、手近なもので工夫しながら課題を乗り越えるうちに培われてきたのかもしれません。

そんな離島の暮らしには、やはり現代の都市生活者が学ぶものが大いにありそうです。

天気を当てられる島人はカッコいい

トークに続き、来場者を交えた質疑応答がありました。 無類の昆虫愛好家でもある養老先生。「虫や動物が災害を察知する能力と、人間の違いは」との質問に「人間はコンピューターを使って予測を試みるが、前提となるデータが間違っていたら間違った結果が出る。コンマ以下のデータを丸めて天気予報をさせたら全然当たらなかったという話もある」と回答。

かくも繊細な自然界の事象に対し、「島では天気予報より人の予想の方が当たると聞く」と鯨本。そんな話を聞きながら、取材先の島々で出会った、天気や船の出港可否を見事に当ててのけるカッコいい島人たちの姿が目に浮かびます。

海に囲まれた離島地域では、交通も仕事も自然と隣り合わせ(三宅島・伊ヶ谷港)

「虫取りで島に行くと、都会よりはるかに人間に必要なものを考えて生きている人がいる。何が起こるか分からない方が人生は楽しいのです」と養老先生。その心に描く未来は、離島とよく似ているよう。それなら、私にもできるかもしれない。

「しなやかな生き方の例は離島にたくさんあります。本を読んで、会いたいと思う島人がいる島を訪ねてみてください」と鯨本。いつか来る災害を恐れるだけでなく、今からできることをやっていこう、と希望を感じるイベントとなりました。

『シマ思考』 には養老先生のインタビューのほか、島々の地域づくりの最前線で活動するさまざまなキーマンたちが登場します。身近な地域の持続可能な未来を考える皆さん、ぜひご一読ください。

※ 『方丈記』 鴨長明による鎌倉時代の随筆。 貴族社会が衰退し、 武家勢力が台頭する動乱の時代を生きた著者の思いや出来事が記される

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『世界がかわるシマ思考-離島に学ぶ、生きるすべ』
編・NPO法人離島経済新聞社
著・世界がかわるシマ思考制作委員会
発行:issue+design
発売:英治出版株式会社
価格:1,900円+税

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離島経済新聞 目次

世界がかわる「シマ思考」実践レポート

島々で活動するキーマンとリトケイ編集部が共につくりあげた新著『世界がかわるシマ思考-離島に学ぶ、生きるすべ』(issue+design)は、人口減・高齢化・地球沸騰化の時代を心豊かに生き抜くための知恵を、離島地域にある「人と人が支え合うコミュニティ(=シマ)」から見出す一冊。 この本にインスパイアされた実践を、リトケイ編集部の石原みどりがレポートします。

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