つくろう、島の未来

2025年01月10日 金曜日

つくろう、島の未来

島々で活動するキーマンとリトケイ編集部が共につくりあげた新著『世界がかわるシマ思考-離島に学ぶ、生きるすべ』(issue+design)は、人口減・高齢化・地球沸騰化の時代を心豊かに生き抜くための知恵を、離島地域にある「人と人が支え合うコミュニティ(=シマ)」から見出す一冊。

この本にインスパイアされた実践を、リトケイ編集部の石原みどりがレポートします。今回は、佐渡島で開催された「学校蔵の特別授業2024」について。

「学校蔵の特別授業」ホストの藻谷浩介さん、ゲストのウスビ・サコさん、玄田有史さんと

佐渡島から届いたメール

風薫る5月、佐渡島で酒蔵尾畑酒造を営む尾畑留美子さんから1通のメールが届きました。「今年も『学校蔵の特別授業』を開催します」。授業のテーマはなんと、「『世界がかわるシマ思考(以下、シマ思考)』をもじった『世界の見方を変えるシマ思考』という方向で考えています」と書かれています。

「学校蔵の特別授業(以下、特別授業)」は、廃校となった小学校を尾畑酒造が酒造場と交流・学びの場として再生させた「学校蔵」を舞台に、年に1回島内外から参加者を募り開催する学びの会。

『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』(2013年)著者の藻谷浩介さんを中心に、地域づくりに関係の深いさまざまなゲストを招き、2014年から開催。コロナ禍の休止期間を挟み、養老孟司さんをゲストに再開された2023年の特別授業には、私もおじゃましました。

廃校となった小学校を再生させた酒造場と交流・学びの場「学校蔵」

豊かな自然や文化に恵まれている一方、人口減少などの課題も抱え「日本の縮図」ともいえる佐渡から、日本の未来を考えることができないか?という問いが出発点の特別授業は、いわば「シマ思考」のパイオニア。これは、行くしかありません!

今年は佐渡で、どんな学びや出会いが待っているのかしら……6月15日の朝、期待にわくわく胸をふくらませながら、佐渡島に向かう船に乗り込みました。

歴史の深さも佐渡島の魅力のひとつ。特別授業の前に古刹・清水寺(808年開基)にも参拝しました

島内外からの生徒70人で熱気ムンムンの特別授業

記念すべき10回目となる2024年のゲストは、東京大学社会科学研究所教授の玄田有史さん、京都精華大学全学研究機構長のウスビ・サコさん。島内外から集まった生徒たち老若男女70人が、学校蔵の教室に集結しました。

1時間目は、藻谷さん×玄田さんコンビで語り合う「限界集落の限界」。少子高齢化と地域力の減退が叫ばれていますが、統計によると、実は田舎では高齢者の人口減少が進んでおり、高齢者の割合が高い都会よりも、若い世代によって再生する可能性を秘めているのだそう。

矢継ぎ早に統計を示しながら、聞き手の思い込みを破壊していく藻谷さんのトークは、実に爽快!昨今「消滅危機自治体」などの警句も耳にしますが、地域の未来はそこに住む人たちがつくっていくもの。悲観的になりすぎず、現実を見据えて道を拓く可能性を探っていかねば……と勇気づけられました。

統計を駆使して認知バイアスを外してくる藻谷さんのトークは一度聞くとクセになります

2時間目は、玄田さん×ウスビさんに語り手が交代し、「関係人口の正体」をテーマに語り合いました。

玄田さんは、地域に存在する魅力を「小ネタ」とかわいい呼び方で表現します。文化財に指定されるような大袈裟なものでなくても、それぞれの地域に、そこで生きる人たちが育んできた知恵がある。そんな足元にある文化を知ることで、他者を受け入れることもできるようになる、との言葉が印象的でした。

玄田さんが説く、足元の文化=自分が何者であるかを知っていることの大切さは、個人の付き合いや国際交流などにも通じる教えでした
休憩時間に『シマ思考』や未利用魚を活用する「魚食プロジェクト」などリトケイの活動をご紹介

休憩を挟み、3時間目はウスビさん×藻谷さんの「島国根性のススメ」。「『島国根性』ってよく聞くけれど、どういうことだと思う?」と生徒たちに問いかけながら、コミュニティとは何かを紐解いていくような時間でした。

ウスビさんの故郷マリには、シマの青年団のような「グレン」と呼ばれる幼馴染のコミュニティがあり、親戚同士が江戸時代の長屋みたいな家で暮らしているそう。人類の普遍的な幸せって、やっぱりシマにあるのでは……と思考が巡り始めます。

ネガティブな意味で使われることの多い「島国根性」。実は悪いことばかりではないかも?

4時間目の授業では、島の高校生たちが登壇。校庭にトキが飛来することもあるという学び舎の魅力や、伝統芸能など地元のことを学ぶ活動を通じて知った地元佐渡島の魅力、応援してくれている地域の人たちへの感謝と、本土への進学など島からの巣立ちを見据えた現在の思いを発表。もうじき島を離れる高校生たちへ先生たちから送られる花向けの言葉に、ぽかぽかと温かな気持ちになりました。

特別授業がくれた問いと出会い

今回の特別授業では先生方からたくさんの問いを投げかけられましたが、結論が示されることはありませんでした。授業を終えた頭の中では思考がぐるぐる、問いはモヤモヤとした霧の中……。そんな生徒たちを尻目に、三人の先生方は飄々と笑顔で去っていくのでした。

先生方がさまざまな問いを投げかける特別授業。その答えを探すのが生徒たちの宿題かもしれません

未来は私たちの手でつくるものであり、そこに正解はありません。モヤモヤの答えは各々地元に持ち帰り、暮らしの中で自分なりの答えを探しなさいということなのかしら……あれっ、これぞまさしく「シマ思考」実践への導きでは!

授業に使った椅子や机は、生徒みんなで廊下に運び出し、あっという間に片付けが完了。下駄箱の前で、東京から参加していた女性二人組と意気投合し、翌日の観光をご一緒することに。こんなところも、なんだか学校みたいです。

年一回の授業を楽しみに佐渡島へ来島するリピーターも多く、常連さんの中から運営をお手伝いするサポーターも生まれているという特別授業。10年以上続く活動で培われてきた、島内外にわたるコミュニティの力を実感する一日となりました。

あなたも「シマ思考」で学びませんか?

『世界がかわるシマ思考-離島に学ぶ、生きるすべ』
編・NPO法人離島経済新聞社
著・世界がかわるシマ思考制作委員会
発行:issue+design
発売:英治出版株式会社
価格:1,900円+税

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書店販売、講座利用、研修活用はまとめ買いがお得!issue+designのホームページよりご注文ください。
>>issue+designお問い合わせ


     

離島経済新聞 目次

『世界がかわるシマ思考』実践Report

島々で活動するキーマンとリトケイ編集部が共につくりあげた書籍『世界がかわるシマ思考-離島に学ぶ、生きるすべ』(issue+design)は、人口減・高齢化・地球沸騰化の時代を心豊かに生き抜くための知恵を、離島地域にある「人と人が支え合うコミュニティ(=シマ)」から見出す一冊。この本にインスパイアされた実践を、リトケイ編集部の石原みどりがレポートします。

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