つくろう、島の未来

2020年10月01日 木曜日

離島などの過疎地域を舞台に、安定した雇用環境創出を目的として2020年6月に施行された「特定地域づくり事業推進法」。

地域の事業者らが設立する組合組織が移住者らを雇用し、複数の事業者へ「働き手」として派遣する制度だが、今回は組合運営に関する公的支援や組合運営に関する留意点など、前回に続いて実務に触れながら制度内容を深堀りする。

(取材・文 竹内章)

特定地域づくり事業協同組合における就業条件への配慮(総務省自治行政局地域力創造グループ・地域自立応援課地域振興室作成資料「人口急減地域における特定地域づくり事業の推進について」から抜粋

安定した雇用環境と一定水準の給与を確保

特定地域づくり事業推進法(以下、促進法)により設置された組合が雇用する移住者らの職員は、地域の貴重な「担い手」として安心して働き続けることができるよう、無期雇用による安定した雇用環境と一定水準の給与が確保される。

給与は、組合地区内の他の事業所で支払われている給与水準を参考に、一定水準を確保する形で支払われる。また、派遣職員の就業条件の配慮として、社会保険や労働保険への加入が組合認定基準のひとつに挙げられている。

また、制度では職員のキャリアアップを視野に教育訓練の必要性も強調しており、業務を通じて地域との関わりを深めながら腕を磨くことも可能。向上心のある移住者らにとっては、スキルを高められる環境も得られることになる。

組合への財政支援で負担軽減

組合運営に際しては、組合の負担を軽減させるために国や市町村から財政支援が行われる。

運営費は、派遣される職員への人件費と事務局の運営費に大別されるが、人件費は年400万円、事務局運営費は年600万円(社会保険料の事業主負担を含む)がそれぞれ上限で、国と市町村がそれぞれ4分の1ずつを負担。残り2分の1を、職員の派遣を受ける地域の事業者らが組合に支払う利用料で賄う形となる。

派遣される職員の人件費に関しては、仮に派遣先の事業所を確保できなくなり休業させた場合も公的支援を受けられる。ただし、職員の稼働率が一定割合を下回った場合には、稼働率に応じて交付額が減額される。

移住者だけでなく地元住民も雇用可能

組合で雇用する人材は「就労その他の社会的活動を通じて、地域社会の維持及び地域経済の活性化に寄与する人材」と規定されている。

法が規定しているこの「人材」は、地域産業に従事する人だけでなく、例えばNPOなどの社会貢献活動に従事する人など、幅広い人材が含まれる。

人材は、移住者に限らず、組合が定めた地区内でもともと暮らしていた地元民や地区外からの通勤者、高齢者、外国人(在留資格が技能実習生に該当する場合は不可)なども雇用することができる。地区内の人材を雇用した場合でも、公的な財政支援は受けられる。

ただ「できる限り当該人口急減地区外の人材が採用されるよう、移住や定住支援等必要な各種施策を講ずること」が法の主旨であることから、移住者ら外部の人材登用がベースとなるようだ。

同一事業所のみへ派遣し続けると不適正運用に

組合が雇用する人材は、季節ごとの労働需要に応じて複数の事業所に派遣される「マルチワーカー」としての働きが求められている。

島を舞台としたマルチワーカーに関しては、島根県の海士町(中ノ島)の取り組みが有名。季節によって繁忙期が異なる島産業の実情を背景に、町観光協会がマルチワーカーの採用を行っており、例えば春は島特産の岩ガキの出荷、夏は宿泊業、秋は海の幸の冷凍処理、冬はナマコの出荷――などの組み合わせがある。

一方で、雇用した人材をもっぱら特定の事業所のみに派遣するなど、特定事業者のみ利益を受けるような事態が確認された場合は、人件費が公的支援の対象外となってしまう。具体的には、同一事業所への派遣割合(総労働時間)が、8割を超えた場合に不適正と見なされる。

また「地域づくりの人材確保」という法の趣旨に反し、例えば事業所の正社員をいったん退職させた後に組合で雇用し、もともと働いていた事業所に派遣する――といった特定事業所の人件費削減を図るために組合を利用するようなケースも当然不適正。悪質な場合には、認定取り消しもありうる。

国の関連施策との比較 直接的に移住・定住促進を狙う新制度

最後に、都市部から地方への移住促進などを目的に、国が展開している各種施策を参考資料として紹介する。

次の図で比較すれば分かるように、新制度は従来の期限付き制度や「お試し地方暮らし」的な制度と異なり、安定した雇用の場を長期間にわたり提供することで過疎地への移住・定住を、より直接的に狙っていることが分かる(施策①~⑥の概要説明は資料下)。

国が展開している主な移住促進施策(総務省自治行政局地域力創造グループ・地域自立応援課地域振興室作成資料「人口急減地域における特定地域づくり事業の推進について」から抜粋

① 子ども農山漁村交流プロジェクト(内閣官房、総務省ほか)
  農山漁村における子供向け宿泊体験活動。

②    「関係人口」創出事業(総務省)
  移住した「定住人口」でなく、観光に訪れた「交流人口」でもない、地域と多様に関わる「関係人口」が地域と継続的なつながりを持つ機会、きっかけを提供。

③    ふるさとワーキングホリデー(総務省)
  数週間~1カ月程度、働きながら地域に滞在し、地域住民との交流を通じて地域暮らしを体感する。

④    地域おこし協力隊(総務省)
  最長3年の期限付きで、都市から地方へ移住して地域おこし活動に従事する。

⑤    地域おこし企業人(総務省)
  最長3年の期限付きで、三大都市圏にある企業などの社員が、地方公共団体において地域の魅力や価値の向上などに取り組む。

⑥    地方創生起業支援事業・地方創生移住支援事業(内閣府)
  地方公共団体が、東京から「U」「I」「J」ターンし、その地方公共団体が選んだ中小企業などに就職する人に対して、最大100万円を支給する取り組み。

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