リトケイ編集部の島酒担当記者、石原です。「島酒日記」では、取材をしながら出会った島酒や島酒の造り手さんたちのこと、島酒の楽しみ方などを徒然にお話ししています。
今回は、日本最西端に位置する与那国島(よなぐにじま|沖縄県)と島のお酒「花酒」についてお話しします。
沈む夕日と「日本国最西端之地」の碑
先日の「島酒日記」で、与那国島の薬草酒「長命草酒」のことをお話ししました。今回は、2014年の秋に与那国島を訪ねた島酒の旅を、当時の写真を交えつつ振り返りたいと思います。
沖縄本島の那覇から南西へ約500km、日本の最西端に位置する与那国島。約1,700人が暮らしています。島から隣国の台湾までの距離は約111kmと近く、島から年に数回ほど台湾の山並みが見えることもあるそうです。
与那国島の面積は28.95平方キロメートル(※)、車で1時間ほどもあれば1周できてしまいます。島の約3分の2は牧場地になっていて、在来馬のヨナグニウマや牛たちが、のびのびと放牧されている姿を車道から見ることができます。
※2015年10月1日時点 国土地理院調査データ
島内の放牧地区を囲むように、道路に「テキサスゲート」と呼ばれる溝が設置されていて、家畜が集落や空港などに近づけない仕組みになっています。
左:放牧風景。車道と牧草地を隔てる柵はない/右:ヨナグニウマふれあい広場内の看板
ヨナグニウマはかつて、畑を耕し、米やサトウキビなど重い荷物を運ぶなど、人と一緒に働くパートナーでした。
現在は島内に120頭ほどが生息し、「NPOヨナグニウマふれあい広場」などがヨナグニウマの繁殖や調教、ヨナグニウマと触れ合える馬遊びの提供をしています。
餌やりの時間になると、ヨナグニウマたちが続々とふれあい広場に集まってきます。付近で飼育されているのかと思いきや、普段は放牧で思い思いに過ごしていて、夜も森の中で眠るのだそうです。自由!
ヨナグニウマのお散歩乗馬を体験しました。体高120センチメートルほどと小柄で大人しく、女性でも乗馬しやすかったです。海に入れる季節は、ヨナグニウマと一緒に泳ぐ海遊び体験もできるそうです。楽しそう!
左:ヨナグニウマの乗馬を体験/右:餌やりタイム。食べ終わるとすぐに散り散りに
さて、そろそろ「島酒日記」らしい話題を。
与那国島を訪れたらぜひ味わいたいのが、与那国島だけに製造が許された高濃度アルコールの泡盛「花酒(はなざけ)」です。
花酒は、泡盛のもろみを蒸留して初めに出てくる、アルコール度数の高い原酒だけを取り出したもので、その度数たるや、60度以上。国内で製造される酒類の中で最もアルコール度数が高いお酒です。
原料は泡盛と同じタイ米と黒麹。蒸留までの製法も泡盛と同じですが、日本の酒税法で本格焼酎と泡盛のアルコール度数は「45度以下」と定められているため、税法上は「原料用アルコール」に分類されているんですよ。
噂に聞く花酒を味わってみようと、地元の居酒屋を訪ねることにしました。出てきたのは、小さなお猪口に一杯だけの花酒。火をつければ燃える60度です。
香りは大変濃厚で、私好み。口にすると、かぁっと喉が熱くなり、アルコールが腹に落ちていくのが分かります。ちびりちびりと一杯いただいただけで、ほろ酔いに。
与那国島内では、花酒だけではなく25度や30度、43度の泡盛も販売されていますので、安心してくださいね。
与那国島内の居酒屋にて
さて、どうして与那国島だけにこの「花酒」の製造が許可されているのかというと、島では琉球王朝時代に与那国島から「花酒」を献上していた歴史があり、島内で古くから神事に花酒をつかう文化が継承されているからなのです。
花酒をつかう文化の代表的なものが、洗骨葬(せんこつそう)です。洗骨葬では、遺体を埋葬する際に花酒の一升瓶2本を墓の中に入れ、7年後にお骨と花酒を取り出して、お骨を花酒で清めた後に花酒を振りかけて火をつけて燃やしたり、取り出したお骨を火で燃やした後に花酒で清めるそうです。そうして清めたお骨は、再びお墓に納められます。
残るもう1本の花酒は集まった方々に振る舞われ、お酒の飲めない方は花酒を薬として身体の良くない部分に塗り、故人に快癒を祈るのだそうです。お墓の中で共に7年過ごした古酒で故人を偲ぶとは、与那国の方々の先祖への愛情の深さを感じます。
2年前になりますが、2015年に発行された『ritokei』13号「ガジュ下会議vol.13 島酒の造り手たち」で、北は北海道から南は沖縄まで7人の島酒の造り手さんに話を聞き、島酒と島の祭祀との関わりなども教えていただきました。
『ritokei』13号「ガジュ下会議vol.13 島酒の造り手たち」
その記事の中で、与那国島に3蔵ある泡盛蔵の一つ、花酒「どなん」を造る国泉泡盛合名会社の杜氏・米澤恒司さんにご登場いただき、与那国島の昔ながらの結婚式では、花酒と七品の肴を持参して花婿が花嫁の自宅まで迎えに行く「トゥンダンボ」の伝統があることを語っていただきました。
島々にはいろんなお酒があり、それぞれ島の暮らしに結びついているのだなあと、感動しました。思えば、リトケイ島酒記者としての道は、あの号から始まったような気がします。
また「島酒日記」で、花酒「どなん」の蔵・国泉泡盛合名会社の工場見学なども振り返ってみたいと思います。お楽しみに!
それでは、また。良い酒を。