奄美群島(あまみぐんとう|鹿児島県)で行われている島の特産品づくり「奄キャンものづくり事業」。奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島の5島でつくられている産品についてご紹介します。
「大和まほろば館」の目の前には、東シナ海が広がる。休憩スペースもあり、ゆっくりとできる
鹿児島と沖縄の間に浮かぶ奄美群島で行われている島の特産品を育てる取り組み「奄キャンものづくり事業(以下、奄キャン)」では、平成24年度から20事業者が参加し、島の特産品を育てています(事業のはじまりについては #01 をご覧ください)。
今回は、「奄キャンものづくり事業」の前身「農商工連携推進事業」から参加し、今年で3年目となる奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)の大和村(やまとそん)「まほろば大和生活研究グループ」訪問の後編をお届けします。
■「奄キャンものづくり事業」に参加したキッカケとは?
結成以来、順調に活動しているようにみえる「まほろば大和生活研究グループ」が、「奄キャンものづくり事業」に参加したキッカケはなんだったのでしょうか?
そのサポート役が大和村役場総務企画課の大瀬幸一さん。この事業を主催する奄美群島広域事務組合との橋渡し的存在です。
「今まで商品をつくって販売はしてきたけれど、実は原価など机上の計算ができていなくて、利益などが見えず、儲かっているのかいないのか分からない状態だったんです。自立運営するためには足腰の強い経営体をつくっていかなければならない。まず販売実績から数値分析ができると、売れ筋や利益率の高いものが分かる。経営の基礎をしっかりと勉強してもらうために、『奄キャンものづくり事業』にエントリーしてもらいました」(大瀬さん)。
グループの人気商品でもある「かしゃ餅」。繊維がたっぷり残るほどのヨモギと、黒糖が入ったお団子。
くるんでいるカシャ(和名:クマタケラン)の葉は、爽やかで甘い香りを放つ。抗菌作用もあり
この事業では、首都圏のスーパーでバイヤーなどの経験を持つ方を先生に、年6回の研修を開催。先生は東京から毎回来島し、「個別の年間売上げ算出」「販売計画表の作成」「商品の原価計算」「農家の写真撮影」「スモモ商品を中心とした店内ディスプレイ」など、常に宿題が課され指導を受けています。
泉さんも、最初は「原価計算なんて、意味うつらん(分からない)!っていう状態だった」と笑います。「今までは『あんたならこの商品をいくらで買う?』『じゃ、500円にしようかい』なんて、テゲテゲ(適当)な発想で値段をつけていた。原価計算してみたら『なんじゃ、こりゃー!!』って。採算が取れてない。値段を急に高くしても誰も買わないし。それで原価計算が大事っていうのが分かって。売れ筋で力を入れる商品や、原料をより安く仕入れる方法はないかなど、先生にいっぱい教えてもらって、とっても勉強になっています」。
現在、事業の一環で新商品のスモモのフルーツソースとゼリーを開発中。フルーツソースは、「くいぐい」と商品名についているように、スモモ感がとっても「くいぐい(濃い濃い)」です。
「奄キャンものづくり事業」で開発中のゼリーと「すももの『くいぐい』フルーツソース」。
この鮮やかなワインレッドは、もちろん無着色。スモモの天然の色がなんとも美しい
和泉さんのおすすめの食べ方は「甘酸っぱいので、パンケーキにホイップクリームと一緒にかけると、クリームの甘さとスモモの酸味のバランスがとれて美味しい」。
フルーツソースは、ほぼ完成形。あとは、「くいぐい」とつけてるだけに、どこまでとろみや濃さの割合を調整するかの最終段階です。一方、ゼリーは「味は先生に太鼓判をもらった」ところ。こちらはスモモの風味を損なわずに固めるため試作を重ね中。パッケージもこれからです。
もちろん、これらもセミドライフルーツ「すももっこ」の製造過程に出るシロップを利用しての商品。以前はジュースをつくっても残るほど、シロップが大量で捨てていたことも。「先生からアドバイスをもらって、2つの商品が生まれました」という泉さん。余剰シロップを利用しアイデアの幅を広げることで、廃棄するどころか利益を生み出すことにつながっているんですね。
「生のスモモを食べられるのは短い期間。収益のことも考えると、年間を通してスモモを味わってもらうには、どうしても加工が必要。売れ筋の加工商品を増やすことが大事なんです」(和泉さん)
泉代表(左)と和泉さん。「おっきいイズミと、ちっちゃいイズミです(笑)」。親子のような、女友達のようないい関係。
若い和泉さんが加わり、グループにいい刺激を与えている
■ 首都圏の消費者の反応は?青山ファーマーズマーケットに出店
来る3月7日(土)・8日(日)、東京・青山のファーマーズマーケットにおいて、「奄キャンものづくり事業」に参加する各事業所がテストマーケティングを開催。「まほろば大和生活研究グループ」も出店します。代表の泉さん、会計の和泉さん、大和村役場の大瀬さんが、2日間現地に行く予定です。
「売るのがメインというよりも、まずは首都圏のお客さんが大和村の商品に対して、どんな反応をするのか、受け入れてもらえるのかを知りたいです」と3人。
「それまでに何とかして新商品のフルーツソースとゼリーも完成させて持っていきたいところです」(大瀬さん)
「首都圏のお客さんが『こういう食べ方もあるよね』って、逆に提案してくれることもあると思うんです。そんな食べ方のネタ探しも見つけられれば」(和泉さん)
来場者にはアンケート調査も実施。
「そのデータをもとに商品改良したい。外の視点で商品の売りに気づくと思うので、その売りをどんどん表に出していけるようにつなげていきたいですね」(大瀬さん)
都市圏でのイベントや物産展で出店した後は、ネットでの販売問合せが多く寄せられます。現在は大和村のサイトに商品紹介はありますが、ネット購入はできない状態です。「村として、今後はネット販売あたりも整備の協力をしていく予定です」(政村さん)。
■ 今までになかった課題や目標に向かって
「もったいない」「スモモの里として、スモモで『村おこし』したい」と始まった、大和村の女性たちの活動。
ほとんどのメンバーが子育ても終わっているため、ボランティア状態になっている部分も。「これからの大和村のことを考えると、若い人たちが働ける場として、ちゃんとグループを残していきたい。そのためには利益をあげて、確実に雇用を生み出していかなければ。あと5〜6年のうちにはその基盤をつくっていきたい」(泉さん)
この日は、村で開催される県のPTA大会のために、なんと約400人分のお茶菓子をつくっていた
今年はコストを下げるため、農家から直接スモモを仕入れます。「生産者の顔が見える=より安心安全なものづくりができるからでもあります。自分が安心して食べられる材料や島の素材を使いたい、というのが原点だから」(和泉さん)
「一番嬉しいのは、買ってくれた人が『美味しい』って言ってくれること。もちろん、気心しれたメンバーで楽しくやれるのがなにより。体力的に辛くなってきているけど、作業中はいつもキャハキャハ笑って最高のメンバー。みんな地でいく太っ腹だしね。自分ひとりでは、こんなことはできない。支えあっているから活動も続いてるんです」(泉さん)
「おばちゃんたちにとって、ここは加工しながらも『ユライ(寄り合い)の場』。生き甲斐づくりになっている。それぞれが役割を分かっているので、キャハキャハしながらも自分の作業をキチンとこなして、いつの間にか商品になっている。あ・うんの呼吸は見ててスゴいと思います」(和泉さん)
グループの活動には、大和村役場のサポートも含め、村民の温かい応援、奄美のシマッチュ(島の人)の「結(ユイ)=なにごとも協力し合う」精神が生きています。
大和村の特産品・農産物販売所と食品加工場が併設する複合施設「大和まほろば館」
活動拠点の「大和まほろば館」は、目の前に海が広がり、ドライブがてらに立ち寄るのにピッタリなロケーション。この夏はスモモかき氷に加えて、新たにスモモのソフトクリームも販売を検討中です。
「『大和まほろば館』を『人・もの』が集まる場所にしたい。いつかは島の素材を使った惣菜がいっぱい詰ったお弁当をつくって、最高の見晴らしを目の前に食べてもらいたい。そういうのがあったら、わざわざ大和村にも立ち寄ってくれますよね。これはおばちゃんたちの『夢』じゃなくて、最大の『野望』なんですよ」(和泉さん)
「大和まほろば館」には、地元の農家が届ける新鮮野菜もいっぱい
商品パッケージも統一する方向。全ラインナップができたら、スモモづくしの詰め合わせ「ふるさと便」を完成させ、大々的に売り出したいと意気込んでます。そこには大和村の近況報告やおばちゃんたちの活動が載った手づくり新聞も添えて。
「奄キャンものづくり事業」に参加することで、今までになかった課題や目標が見えてきた「まほろば大和生活研究グループ」のみなさん。
「素材もいいのを使っているし、どれも美味しいでしょ。あとは売り方。おばさんたちは営業ってのが一番苦手なのよ…。でも『大和村はスモモで何かしないといけないよね』って思ってた10のうち、6〜7はできてきているような気がする。営業もがんばっていきたい」と、泉さんの力強い言葉がありました。
「まほろば」という言葉は、日本の古語で「素晴らしい場所・住みやすい場所」という意味。大和村が「まほろば」となるように、再出発したおばちゃんたちの活動は、少しずつ歩みを進めています。
(文・写真/しらはまゆみこ)
大和村公式ホームページ>> https://www.vill.yamato.lg.jp/