つくろう、島の未来

2024年10月18日 金曜日

つくろう、島の未来

日本の島々では、日々さまざまな取り組みが生まれています。 そんな島々から届くニュースをキャッチしているリトケイ編集部。2024年の春から夏にかけて編集部に届いた4つのメールから、リトケイ編集長がミライに向けた島の可能性をみつめます。

今回は、鹿児島県・奄美群島の沖永良部島と、瀬戸内海に浮かぶ広島県・佐木島からのお便りです。

文・鯨本あつこ

※この記事は『季刊ritokei』46号(2024年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

文明崩壊の回避には環境負荷「4割」が必要

リトケイ編集部には、さまざまなメールが届く。島の人々から届く困りごとや、新たな取り組みのニュースなど、心ときめく便りが混ざっていることも多い。5月に届いた石田秀輝先生からのメールも、そのひとつだ。

東北大学名誉教授である石田先生は、リトケイが島のキーマンとまとめた著書『世界がかわるシマ思考 – 離島に学ぶ、生きるすべ』でも、持続可能な暮らしのあり方について論じた研究者。メールには、沖永良部島のライフスタイルを調査した結果、おどろきのデータがまとまったと記されていた。

例年にない酷暑となった今年は、誰もが気候変動(温暖化)問題を肌に感じたことだろう。それに加えて「生物多様性」「チッソの循環」「マイクロプラスチック」の課題に対し、2030年頃までに具体策をとらなければ「文明崩壊の引き金を引くことになる」と石田先生は言う。

唯一の具体策は「自然の修復能力以下で暮らすこと」。世界中の人々が日本人と同じ暮らしをすると、地球2.8個分の環境負荷がかかるため、地球1個分で暮らすには環境負荷を約4割に引き下げる必要がある。

すでに「低環境負荷」な島の暮らしをモデルに

「地球1個分の暮らし」とはどのようなものなのか。環境負荷を現在の6割減にするならば、節水や節電などありとあらゆる場面で我慢が強いられるようにも感じる。石田先生は沖永良部島の住民に協力を求め、消費支出・食料・被服などの10カテゴリ、55要素で家計簿をつける環境調査を実施。その結果、沖永良部島の暮らしはすでに、平均「地球1.2個分」だったのだ。

東北大学名誉教授・沖永良部島在住の石田秀輝先生

数日後、詳しく聞いてみると「だからといって島の人たちに、爪に火を灯して暮らしているような悲壮感は全くありません。離島であるがゆえ、多くの制約のなかで心豊かに暮らすためには、自然に生かされていることを知り、自然を活かし、自然をいなすという基本的な足場が必要なので、それらと融合するかたちで家族やコミュニティがある結果、環境負荷の低い暮らしが生み出されているのでしょう」と教えてくれた。

知名町、和泊町の2町合わせて約1万1,000人が暮らす沖永良部島では、資源の利用や人々の交流など多様な場面で古き良き生活文化が残っている。その上で、2町共に2030年までにカーボンニュートラルを実現するモデル地域「脱炭素先行地域」に選定されている。

「大切なのはわくわくどきどきできること。求めるべきは、我慢ばかりを強いるものではない低環境負荷な暮らし。島の事例は持続可能な世界をつくるための下敷きになります」(石田先生)

空き家をクリエイティブに解体 世界各国の学生が佐木島に

4月に届いたメールは、 東京大学大学院修士課程で建築を専攻していた正林泰誠くんからだった。

なんでも「佐木島でクリエイティブに空き家を壊すプロジェクトを行っている」という。空き家は全国各地で深刻化している大問題だが、「クリエイティブに」とはどういうことだろう。

彼は一昨年まで、大学院を休学し三重県の答志島で、空き家から子どもたちの交流スペースをつくるプロジェクトを主導していた。そんな彼が注目する佐木島のプロジェクトは、三原市出身の建築家・河野直さんが主宰する建築の学校「The Red Dot School(以下、RDS)」。5月、佐木島を訪れると正林くんや多国籍の若者が空き家となった市営住宅の解体作業をしていた。

解体しながら資源の再循環を研究する空き家の解体現場

佐木島は新幹線も停車するJR三原駅のそばにある港から船で15分の瀬戸内海の島。1950年代には3,000人が暮らした島も現在は約600人に減少し、小学校は島外からの離島通学生によって成り立っている。

人口減少問題のモデルにもみえる島を、河野さんと共にRDSを運営するブライアンさんは「小宇宙」と表現する。サンフランシスコから佐木島に移住したブライアンさんは、河野さんと共に東京大学の設計スタジオで講師を務めている。

そんな二人が立ち上げたRDSは、三原市と包括連携協定を結び、解体する空き家のアップサイクル(創造的再利用)の研究と、島内の鷺浦小学校と建築学生の交流等を通じ、空き家の活用促進や地域活性化に向けて取り組んでいる。

建築前に行われる地鎮祭に習い 「解体祭」と命名

「三原市や島の建設業者と連携し、空き家解体を題材に日本建築が勉強できる土台をつくりました」と河野さん。建築を学ぶ学生にとって、解体を行うことには深い意味があるという。「普段、教室で建築を構想する彼らにとって、解体はクリエイティブな学習になります。つくられた順番の逆で壊さないとうまく壊れない。土壁や竹小舞などを手で壊すことができ、今後の空間づくりの構想が始まるのです」(河野さん)

RDSは1期あたり2週間。今期はコーネル大学、バークレー大学、ハワイ大学、レディング大学、東京大学などから16人の学生が集まり、共同生活を行いながら学びを得ていた。カリフォルニアからやってきたイアンくんは2度目の来日。興味を持ったきっかけは、大学に掲示されていたプロジェクトのポスターを見かけたことだ。

「普段は都市に住んでいるから、自然と人間との関係が学べると思った」とイアンくん。島での共同生活はおもしろく、島の住民は歴史や文化の知恵袋のよう。昨年は島の小学生と仲良くなりインスタや手紙で交流を続けながら、再会を果たすという特別な経験も得た。

RDSのメンバーと学生たち

地元行政や小学校とも連携 島はハーモニーを学ぶ研究所

プロジェクトをきっかけに東京藝大を休学して佐木島に住んでいるという鶴居くんは最初「軽い気持ちで来た」という。今は島の人から寄贈を受けた家に住み、「誰の手もつかない田畑や森林を建築物に使えたら」と、解体した空き家の資材で資材置き場をつくった。

島の人に教わりながら島の素材で「シュロ縄」を編み始めると「こんなに大変だと思っていなかった」と実感。ハワイやモンゴルからやってきた学生たちには、編み方や素材が異なるものの、よく似た手法が世界各地にあることも教えてもらった。

解体した空き家から運び出した資材とシュロ縄でつくった資材置き場

「手間と時間をかけることで人との関わりが増える」と鶴居くん。午前中はトマト農家でバイトし、島の若者たちとバレーボールを楽しむ日々のなか、半年で体つきまで変化したという。建築の世界で当たり前となっているスピードへの違和感や、新しい未来の可能性を、島暮らしの中で学んでいる。

ブライアンさんは言う。「佐木島は隣人と助け合って生きていける。地域活動に参加したりすると、次の日には地域通貨のようにみかんが届く。島の暮らしはどうすれば助け合えるかを教えてくれ、それによって豊かに生きていける。自分が持っている時間とか労働をGiveすることで、サステナブルになる。ハーモニーを持って生きるということを学生たちに知ってもらいたい。島はハーモニーを学ぶ研究所みたいなものだ」。

空き家をクリエイティブに解体するプロジェクトは、持続可能な世界をクリエイティブするミライの人材に大きな学びを与えていた。

特集記事 目次

なつかしくてあたらしいミライの島を共につくろう

この特集では、日本の島々で進む、あたらしい未来を模索する具体的な取り組みをピックアップ。

海に囲まれ、土地にも資源にも限りがある離島は、解決が必要な社会問題や、その対策の良し悪しを把握しやすいのが特徴。社会の一歩先をいく取り組みが、各地で進んでいます。

大自然や人と共存する古き良き知恵や生きるすべと、最新テクノロジーや画期的なアイデアを掛け合わせた未来は、あたらしいだけなく、なつかしいだけでもない。心豊かに生きることのできるミライの島をつくるヒントを探求しましょう。

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