伊豆諸島北部に位置する伊豆諸島最大の島、伊豆大島(いずおおしま|東京都)。移住から5年経つ今も、島の魅力発掘の冒険にいそがしいデザインユニット「トウオンデザイン」。彼らが運営しているコミュニティースペース『kichi』での活動や日々の出来事をつれづれに。
椿がつなげる人々の心
伊豆大島といえば、まず思い浮かぶのが「椿」かもしれません。
島のいたるところに咲くやぶ椿は300万本とも言われ、伊豆大島を象徴する木として昭和43年には「大島町の木」として制定。さらに平成2年には「大島町の花」としても制定されました。
「椿」は古くから島の人々に愛されてきました。
ホテル椿園の敷地にも閑静な椿の林が広がっていましたが、昨年の台風26号による土砂災害により椿林はほぼすべてを失いました。
あの災害発生からもうじき半年が過ぎようとしています。
今ではテレビや新聞といった各メディアから「伊豆大島」という言葉が聞こえてくることはなくなりました。しかし、まだまだ島内は復興に向けて必死で動いている方々が多くいらっしゃいます。どんなにしつこいと言われても、災害によって以前の生活を取り戻せない人がいる以上、声を出し続ける必要があります。
そんな中、また新たな出会いがありました。はじめてお会いしたのは今年の1月初旬。
その方は書と生花を組み合わせた作品を制作・発表されているアーティストの佐々木久枝さん。
ご紹介してくれたのは前回のコラムにも登場した中小企業診断士の川口さん。
佐々木さんの作品の第一印象は“かっこいい!”でした。
美しい花を包むように、そして、静かに踊るように走る書が実にクール!
華道の世界にも通じるような精神性も強く感じられました。
そして、彼女の提案により伊豆大島の椿の花を使った作品制作の企画が持ち上がりました。
「椿」の花は島の人々にとっては大切な生活の木。椿の木を多く失ったホテル椿園さんの敷地にかろうじて残って咲く椿の花を使った作品ができないだろうか。
早速、ホテル椿園の女将さんである清水勝子さんにお話したところ、快くご了承いただき、作品制作は実行に移されることになりました。今年の伊豆大島は例年になく多くの椿が咲いたようで、ホテル椿園の敷地内に残された椿の木にも多くの花が咲きました。
伊豆大島に到着して早々に現地へ向かい、佐々木さん自ら椿の花を選定、kichiで作品制作と撮影を行いました。
そして、撮影された写真を素材にポストカードを制作しました。
5つの作品をセットにしたもので、いずれも椿の花を題材にした作品写真です。
パッケージの裏面には以下のような言葉を記しました。
『この作品は、伊豆大島で2013年10月16日未明に発生した台風26号集中豪雨による土砂災害で被災したホテル椿園の敷地に残った椿の花を摘み取り制作したものです。椿は、古くから伊豆大島の生活になくてはならないものとして愛されてきました。被災した地に美しく咲き誇る椿の花はまさに“復興のシンボル”であり、人々の心に響くものと信じます。』
『This artwork made use of a camellia found in the premises of a hotel in Oshima island. In the early dawn of October 16th 2013, this hotel was hit by a terrible mudslide triggered by a typhoon. ”Camellia” is a regular sight in the Oshima island life, and local people dearly love it. After the typhoon, this beautiful camellia in full bloom in the disaster area became a “Symbol of Hope”. We hope that it will touch peoples heart.』
その後、自身の個展を開催する為に佐々木さんはニューヨークへ渡ります。
ギャラリーでは今回の作品写真の展示や完成したばかりのポストカードの販売もしていただきました。写真作品とポストカードの売り上げは必要経費を除き、大島の災害復興への支援金となります。
本当にありがたいことです。
今回の作品は伊豆大島に思いを馳せることができる素敵な作品になったのではないかと思います。この作品を通じて少しでも多くの方の心に響くことを願います。
島の人々の生活の支えとなってきた椿は、人々の心を繋げる花にもなるのです。
(つづく)