三原山の麓で「元浪窯」をひらく川浪さんは、20年前に伊豆大島に移住してきた方。森の中のログハウスで猫とふたりで暮らし、器を焼き、教室に来る生徒さんと楽しく暮らしている川浪さんは、突然訪れた私たちを花が咲いたような笑顔で迎え入れ、心地よく耳に届く軽快な語り口で島の暮らしや陶芸について教えてくれました。
「先生なんて呼ばないでください」
私、大島に来た時は、陶芸家ではなかったんです。
たまたまま陶芸と出会うきっかけがあって、
最低限のことではじめたんですが、
やっているうちに、だんだん面白くなってきて。
これは仕事なんてやってられないなぁと思って
自分で勉強をはじめたんです。
それから先生も探して、
埼玉県に良い先生を見つけたので
島から埼玉まで通って勉強をしていたんです。
毎週リュックサックに荷物つめこんでね(笑)。
陶芸をはじめた時は、
とにかく、やりたくて仕方ない!土に触っていたい!
といつも思っていました。
そうしているうちに、
「陶芸教室をやってください」
という話がきて、教室を開いて。
以来、ありがたいことですが、
ぜんぜん途絶えることもなくて。
それから20年が経って、
飽きることはないんですが、
最近は慣れてきて、いけないなと思んです。
こうすればこうなる、というのが分かってきて、
ねらうとか、ひけらかすとかはなくなってきたけど、
最初のころにあった「つくりたくて仕方ない」というのは、
少なくなってきたかもしれない。
「手びねり」で器をつくるんですが、
本当にたのしくて、夢中になるんです。
あ、この大きいのは窯に入らなかったんです(笑)。
つくりはじめたら止まらなくて、
途中から、これは窯にはいんないかもなぁと
思っていたらやっぱり入らなくて。
たまたま友達が山で野焼きをするって
していたからそこで焼いてもらったんです。
それくらい訳がわからずやっていたから
私はプロっていえないです。
だってプロって計算できる人だからね(笑)。
大島の土は陶芸向きじゃないんですが、
うわぐすりにはこだわっていて、
椿の実や大島桜の枝をつかっています。
合成してつくられたものより
自然からつくられたものは、一定にはならないんだけど
それも、なんかいいなぁと。
だんだん褪色していくものもいいなぁと思うし、
それが、心地よいのかなぁと。
器は、お窯のなかに入ってしまえば、
出てくるまでどうなるのかわからなくて、
よく考えたら、私は何もしていないんです。
みんな、火の神様と自然の神様がつくってくれていて・・・。
そうそう、そういうことに気づくまで
私、いばっていました(笑)。
でも、だんだん、
何も自分はしていないんだなぁと思ってきて。
不思議ですよね。自然の力って。
「私は人間がすきなんです」
私、ずっと風来坊だったんです。
だから、良い歳になっても
世界をまたにかけて放浪の旅にでよう!って、
機会をねらっていたんですが、
両親には「いいかげんいしろ」と言われていて。
そんな時に「大島で3ヶ月限定ではたらきませんか?」
という求人情報を見つけて、そこで思ったのが、
「おお、大島も海外じゃないか!」っていうことで(笑)。
「こたつの本体」だけ持って大島に渡って、
大島と東京との2拠点生活をはじめたんです。
最初のうちは「東京にかえる」っていっていたのが、
いつのまにか「大島にかえる」になっていて、
それまで、1カ所にとどまるなんて思ってなかったのに
気づけば20年が経っていました。
大島は、良くも悪くも閉鎖的なところはあるけど、
昔ながらの人情っていうか、そんなところが残っています。
いつのまにか20年暮らしていて、
こんな風にやってこれたのは、
いばらず、ひけらかさず・・・
なんていうのかな、
わざとらしくじゃなくて、
素直にここの土地を愛して、
ここの暮らしを愛して、
島の人と仲良く暮らしたいって思っていたら
島の人たちは助けてくれました。
陶芸をやってて一番良いのは
人に会えることなんです。
そうそう、教室はすごく楽しいんですよ。
おやつの時間っていうのをつくってね。それがすごいの。
みんなそれぞれ、自分のつくった料理を持ち寄って、
自分でつくったお皿に並べるの。
みんな和食から洋食からデザートからプロ並みで。
盆と正月が一緒に来たみたいに賑やかで、
多い時は10何人とか、すくなかったら2人とかで。
陶芸教室に来る人には、
人生の先輩もおおいから、それがまた勉強になりますね。
私は人間がすきなんです。
何が面白いかってね、人間だから。
社会の隅々には、表立ってはでてこないけど
しっかり地に足をつけて生きていらっしゃる方が
いっぱいいると思うから、
そういう人に会ってみたいと思っています。
あと最近はね、
猫の介護をしているんです。
もともとは半ノラで、触らせもしなかったのに。
歳をとったのか、よく鳴くようになって。
2階でずっと鳴いているから、
「どうしたーっ?!」て、
上にあがっていくと鳴きやむんです。
でも、猫の介護に束縛されてるとも思わなくて、
無理をしない、これが今の自分の暮らしかな、と。
だから、旅に出たいなんて
思わなくなったのかもしれないですね(笑)
< END >