社会課題に悩む島と、解決を助ける策を持つ島外の企業が連携するとき、SDGsは島内外の関係者が同じ目標に向かうための共通言語として機能する。企業が推し進めるSDGsの取り組みとして、島々と連携し、活動する企業の動きを紹介する。(この特集は『季刊リトケイ31号』「島と世界とSDGs」特集と連動しています)
瀬戸内の島々を結びつける創業400年の和菓子の老舗
2020年に創業400年を迎える和菓子の老舗、株式会社虎屋本舗(広島県福山市)が2018年12月、外務省による第2回「ジャパンSDGsアワード」において、企業や団体の特筆すべき取り組みを表彰する「SDGsパートナーシップ賞」を受賞した。
同社の特筆すべき取り組みとは、地元を中心とし、離島を含む瀬戸内海地域で、和菓子作りを通じて人の交流や文化の継承などを実践してきたことにある。
1994年に虎屋本舗の社長に就任した高田信吾さんは、歴代の社長の教えを受け継ぎ、「和魂商才」というキーワードを編み出して会社の訓示とした。この訓示には、日本古来の精神と商人の知恵を融合して伝統や格式を尊重しつつ、時代や社会のニーズに応じてビジネスを展開していこうとする姿勢が込められている。
近年は、会社の持続的な発展のためにもCSRが重要と捉え、瀬戸内海を中心とした事業を展開している。和菓子作りの技術を持つ高齢者を戦力とするために、勤務環境の整備をした上で75歳定年制度を導入し、それ以降も雇用を継続。性別に関わらず店長に起用し、能力や家庭事情などを考慮した働き方を導入した。
累計2,000人が参加する出張和菓子教室は島々でも展開
離島の生産者と共同した新商品の開発にも挑戦している。生口島(いくちじま|広島県)の特産品であるレモンを使ったケーキを販売して島の発展にも寄与。
さらに各地に残る和菓子文化の継承と創造を目指して、地域の人が和菓子と接する場を設置。8年ほど前から高齢者施設や山間地域の公民館などで広く実施している出張和菓子教室の参加者は、年間2,000人にのぼる。
こうした情報が広まり、白石島(しらいしじま|岡山県)を皮切りに真鍋島(まなべしま|岡山県)や北木島(きたぎしま|岡山県)などの離島での開催も増えている。
こうした経緯からわかるように、同社ではSDGsの概念を先取りする形で、地域とともに発展していこうとしてきた。
その同社に新たにSDGsの概念を導入したのは副社長の高田海道さん。海道さんは2020年に、第17代目当主として2020年に社長に就任することが決まっている。
海道さんは出張和菓子教室の担当者であり、もともと企業における社会の課題解決にも関心を抱いていた。数年前に参加していた勉強会でSDGsを知り、自社の取り組みに置き換えてみたとき、さらなる広がりが持てるのではと考えた。
海道さんは父であり現社長でもある信吾さんとも話し合った上で、自社の取り組みにSDGsを引き寄せる形で発信。これが広島県や外務省からの評価にも結びつき、大きなパブリシティも得られた。
SDGsを取り入れても「やることは今までと変わらない」
自社の評価の高まりを喜ぶ一方で、海道さんは「やることは今までと変わらない」と言い切る。
「新しく提唱されたSDGsだが、まだ認知度は低い。しかし振り返ってみると、企業が地域との結びつきを大切にして、従来の官が果たした役割をカバーして社会課題を解決し、それが地域全体の持続性につながるというのは当然の話だと思います」と海道さんは続ける。
SDGsを軽視するのではないが、SDGsを社内全体に浸透させる必要も感じていない。わかりやすくシンプルに、これまで自社がやってきたことを末永く続けていき、地域の人々とともに発展する企業でありたいという。
現在同社は「せとうち和菓子キャラバン」と銘打ち、瀬戸内海の離島との連係を図ろうとしている。「当初の目的にはなかったことだが、いまはプロダクトを作りたい」と海道さん。人口減少や高齢化で衰退が進む中で、和菓子というツールで島同士が持つ価値をつなげることで、新しい価値を生み出せるのではと考える。
原料の安定供給が難しいなどの課題は残るが、新しいプロダクトを広く発信・流通させ、その収益を島に還元する。そんな未来を思い描いている。
この特集は『季刊リトケイ31号』「島と世界とSDG」特集と連動しています。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。