つくろう、島の未来

2020年10月01日 木曜日

約250人が暮らす沖島は琵琶湖最大の島であり、国内唯一の淡水湖に浮かぶ有人離島。

その沖島で、滋賀県立大学の学生たちが島の課題解決に取り組んでいる。この学生たちは地域活動プロジェクト「座・沖島」のメンバーだ。(この特集は『季刊リトケイ31号』「島と世界とSDGs」特集と連動しています)

同大学は1995年の開学以来、「キャンパスは琵琶湖。テキストは人間。」をモットーとし、「地域に根ざし、地域に学び、地域に貢献する人が育つ大学」を目指して多様な教育研究や地域貢献活動を推進している。そのなかでも同大学のモットーを象徴する仕組みが「近江楽座」だ。

大学側が、学生が主体となって運営するプロジェクトを募集・選定・支援する制度を構築し、学生はその制度を利活用して地域に入り込み活動を行う。近江楽座は2004年に文部科学省の「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」に採択されたことからスタートし、2019年までの15年間で、滋賀県全域をフィールドとして約340ものプロジェクトを展開した実績がある。

前述した「座・沖島」や、2013年11月に巨大台風で被災したフィリピン中部のレイテ島の再建に挑む「タクロバン復興支援プロジェクト」は、近江楽座のひとつである。

これまでの経緯からわかるように、2015年の国連によるSDGsの提唱以前から、同大学では持続可能な社会の実現に向けた活動に取り組んできた。そしてその背景には、環境先進県と呼ばれるほど、滋賀県全体で持続可能な社会への意識が醸成されてきたことが挙げられる。

「座・沖島」の顧問を務める滋賀県立大学地域共生センターの上田洋平講師によれば、滋賀県内における環境への意識の高まりは、琵琶湖との共生の歴史が背景にあるという。1970年代、水質汚染により琵琶湖で赤潮が大発生すると、主婦層を中心に、合成洗剤ではなく粉石けんを使おうと呼びかける「石けん運動」が県内に広がった。

この運動をきっかけに清掃活動や環境教育の気運が高まり、水質改善を実現して現在に至っている。歴史を遡れば、「三方(売り手よし、買い手よし、世間よし)よし」の精神を持ち活躍した近江商人は、中世版のSDGsとみなすこともできそうだ。

こうして滋賀県は2017年1月、全国に先駆けて、県を挙げてSDGsに取り組むと宣言。滋賀県立大学でも、同大学とSDGsの目指すものが同じだとして、2018年6月にSDGsの地域化拠点を目指すことを宣言している。

2016年からスタートした「座・沖島」では、毎年30人前後の学生が所属。もともとは上田講師が10年以上かけて沖島でフィールドワークを行ってきたつながりがあり、学生はスムーズに島に入ることができた。しかしそこから上田講師は基本的には「放牧」のスタンスを取り、側面支援に徹する。

沖島では4月の桜祭りや5月の春祭りに始まり、夏には沖島小学校の遠泳大会やお盆の夏祭りがある。秋に入ると小学校の運動会や湖魚祭りがあり、1月の左儀長まで、1年を通じて様々な行事が行われる。これらの行事の準備や当日の運営を手伝うために、学生たちは足繁く島に通う。「まなぶ」「まじわる」「ささえる」をモットーに島の人々と対話を重ねることで信頼関係を築き、さらに一歩踏み込んで、島の産業などの課題解決に向けたアイデアを生み出すことを目指す。

上田講師は学生を見守り、指導するポイントについて触れる。「地域活性化するという大きな約束もいい。ただ島の人たちは『また来ます』という言葉に期待し信じてくれている。とにかく1回1回の『また来ます』という小さな約束を果たし、それを繰り返そうと伝えています」

2018年と2019年には島に住む学生も登場して周囲を驚かせた。さらに学生たちは、自分たちと年齢が近い他出子ともつながりを持つようになり、こうした学生の存在に触発されてか、ここ数年は沖島の祭りに以前にも増して他出子が参加するようになっている。

いまでは島内を歩いていて「座・沖島です」と名乗ると、島の人が「いつもありがとう」と声を掛けてくれるという。このように、島に少しずつ変化をもたらしているエネルギーを、上田講師は「学生の触媒効果」に関する学説を引いて説明する。

上田講師によると、島という環境のなかで長年築き上げられてきた人間関係は非常に親密ではあるが閉鎖性も生む。そこへ学生が入り込み、風穴を開けることで、島の中に新たなコミュニケーションや人のつながりが生まれる。

少子高齢化が進む島にとっては単純に、人手が増えて助かる部分もあるだろう。だがそうした即物的な面だけではなく、小さな島が「住み続けられるまちづくり」を展望する時に学生が触媒になることで、地域に活力をもたらす効果があり、「座・沖島」の学生たちはまさにその効果を発揮していると上田講師は指摘する。

「座・沖島」の活動は2021年度も行われる。同大学は琵琶湖東岸のほとりにあり、沖島までの所要時間は約40分。もともと近かった島と大学の距離は、これまで以上に近くなっていると上田講師は感じている。

この特集は『季刊リトケイ31号』「島と世界とSDG」特集と連動しています。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

特集記事 目次

島と世界とSDGs
SDGsという言葉がよく耳にはいるようになった。 この言葉の意味は、地球環境の問題、人間社会の問題、社会を支える経済の問題に対して地球規模で呼びかける「持続可能な開発目標」である。 島に住む人も、大都会に住む人も、老いも若きも、どんな人も、どんな生物も、皆、同じ地球の上で暮らしている。 SDGs は、そんな地球で起きている問題を地球規模で考え、行動しようとする運動とも捉えられるが、地球上で起きている問題は複雑に絡み合っているため、「持続可能な開発目標」も複雑に絡み合っている。 故に、とても分かりにくい。 しかしである。 リトケイが調べに調べ、感じたのはSDGs が「島の未来づくりに使えるツールかもしれない」ことだ。 そこで31号特集では、島の未来が健やかに続くことを願う人にこそ知ってもらいたい島と、世界と、SDGs の話をお届けする。 この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』31号「島と世界とSDGs」特集(2020年2月28日発行)と連動しています。

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