社会課題に悩む島と、解決を助ける策を持つ島外の企業が連携するとき、SDGsは島内外の関係者が同じ目標に向かうための共通言語として機能する。企業が推し進めるSGDsの取り組みとして、島々と連携し、活動する企業の動きを紹介する。(この特集は『季刊リトケイ31号』「島と世界とSDGs」特集と連動しています)
滞在型観光の促進による島の活性化に向け
大手リゾートウェディング企業と行政がタッグ
1953年の創業以来、国内外で約60万組のリゾートウェディングをプロデュースしてきたワタベウェディング株式会社(京都府)。挙式の舞台となるのは主にハワイやグアム、沖縄など。さらにそうした地域が持続可能な発展に対する取り組みを進めていることもあり、同社でも情報収集をしつつ、2019年にSDGsに関する2つの活動を打ち出した。
ひとつはハワイに関する活動。ハワイ政府は2021年1月1日から、サンゴへの有害性が指摘される化学物質を含む日焼け止めの販売を禁止する。
そこで同社は、化粧品の輸入・販売を行う企業とコラボレーションし、サンゴへの有害物質を一切含まない日焼け止めに、サンゴ保護をイメージするイラストを採用した限定パッケージを制作し、ワタベウェディングの結婚式相談の来客に進呈。ハワイを通じて地球規模での海洋保護を呼び掛けた。
そしてもうひとつの活動が、五島列島の小値賀島を舞台とする「小値賀島DIY Wedding」。小値賀島の自然や文化を活用し、結婚するカップルや列席者がオリジナルの結婚式を作り上げる婚礼プランだ。
このプランのベースを発案したのは活水女子大学(長崎県)のグループだった。2018年9月、「大学生観光まちづくりコンテスト」に参加した同大学のグループが、滞在型観光の促進による離島振興を結婚式で実現するプランを提案し、最高賞を受賞。
そのプランの事業化のために、長崎県からアドバイザーの打診を受けて同社が参画を決めたことがきっかけとなり、地元の小値賀町らとの連携がスタート。リゾートウェディングのリーディングカンパニーが、SDGsの11番目の目標「住み続けられるまちづくりを」に向けて動いた。
同社広報の田村愛実さんによると、学生のプランには企業視線では気づかない着眼点があり、プロの目線で工夫できる部分もあったという。
そこで同社のプロジェクトチームは、沖縄など他のリゾート地と比較。交通の利便性やアクティビティーの少なさなどで優位性を得ることはできなかったが、一方で小値賀島には「荒らされていない自然」「あたたかい島の人々のおもてなし」「島がもつ文化」で差別化を図ることができると判断し、それらの要素をカップルや列席者が結婚式に自由に盛り込む「小値賀島 DIY Wedding」を提案した。
同社は2019年6月、「小値賀島 DIY Wedding」のモニターを募集。全国から応募した約20組のなかから浅尾邦彦さん・佳奈さんのカップルを選定。同社は浅尾さんや受け入れ側の小値賀町と打ち合わせを重ね、イメージの共有に努めた。
小値賀町は地元のNPO法人「おぢかアイランドツーリズム」とともに、島内の関係者に呼び掛けて、料理や花など結婚式に欠かせないものを準備しつつ、スタッフの確保を進めた。こうした準備期間を経て同年10月26日、浅尾さん夫婦が小値賀島で結婚式を開いた。
姫の松原や長崎鼻などの景勝地で写真撮影に臨み、目抜き通りの「笛吹商店街」では軽トラックに乗ったカップルが集まった島の人々に向けて餅をまく「餅まきパレード」をボランティアスタッフの「チームおぢかウェディング」が発案し実施。その後、柿の浜海水浴場での結婚式と披露宴を行った。当日は台風の影響が心配されたが、好天に恵まれて無事に式を終えた。
今回の成功で浅尾さん夫妻も島の人々も満足し、運営側も手応えを感じている。田村さんのもとには「自社の商品ではないが、新たな取り組みを行ったことで、会社の価値向上につながるのでは」との声が届く。
しかし事業化に向けて課題も残る。田村さんによれば、島への交通手段である船便が季節的な天候により欠航しやすいことや、結婚式のノウハウのスムーズな定着には困難が伴うことなどが挙げられるという。
こうした課題は小値賀町でも実感しており、同町担当の中村裕希さんは「今年度の事業の検証をした上で、今後もウェディング事業者と連携を図ってノウハウを学びたい。今後は海版に加えて山版、天候が崩れた場合の室内版の結婚式などのバリエーションを増やし、「小値賀島 DIY Wedding」前後の滞在プランも作っていければ」と意気込む。
同町では「小値賀島 DIY Wedding」について来年度の予算を要求。長崎県も予算面でサポートする用意を整えている。
田村さんは「従業員全員にSDGsについて、まだ具体的に伝えられていない」とし、だからこそ「このような活動を通じて周知していきたい」と話す。同社はこれまでの知見を最大限に活用し、持続可能な社会に向けてできることを積極的に取り組んでいく。