全国規模で使用されなくなった休眠空間が増えるなか、それらを有効活用する動きも広がっている。リトケイではフリーペーパー版『季刊リトケイ』の2号に渡って島の休眠空間利活用について特集。今号では、主にこの10年間で5,000校以上が廃校となっている学校施設をはじめとする、公共系空間の利活用を紹介する。
この特集は『季刊リトケイ』26号「島の休眠空間利活用」特集(2018年11月13日発行)と連動しています。
惜しまれつつ閉店したスーパーに戻ったにぎわい
奄美大島の北西、奄美市笠利町の中心地に赤木名(あかきな)集落がある。その集落の玄関口に 2018年7月、2階建ての複合施設「伝泊+まーぐん広場・赤木名」がオープンした。
「まーぐん」とは奄美の言葉で「みんな一緒に」を意味する。宿泊、レストラン、カフェ、食材販売、高齢者や障害者施設、子育て支援スペースなど複合的な機能をもつワンストップ型の施設ができたことで、観光客や集落の住民だけにとどまらず、年齢性別を越えて多くの人が集まる場所になることを目指している。
まーぐん広場のベースになっているのは、2014年に閉店したスーパーマーケット「スーパーさと」。生鮮食品を中心に多彩な品揃えを誇り、約15年の営業期間において集落はもちろん、島の各地から買い物客が訪れる店だった。
「拠点の東京から奄美に帰るたびに『スーパーさと』に立ち寄って、ヤギ肉や豚肉を買って実家で食べる。そんな身近な店でした」と笑いながら思い出を話すのは、まーぐん広場を立ち上げた山下保博さん。笠利町出身の山下さんは世界的に活躍する建築家で、同施設を運営する奄美イノベーション株式会社(奄美市)の代表も務めている。
まーぐん広場に関する事業は地元金融機関の支援を得て、さらに国土交通省の2017年度「スマートウェルネス住宅等推進モデル事業」に選定されたことなどにより着手した。再生にあたり外壁の色などを変える一方で、店舗の外見は「みんなの記憶の中にあるそのままの形にしたかった」という。
山下さんがまーぐん広場のアイデアを得たのは10年前にさかのぼる。
ドイツ中西部の人口約2万人の都市ベーテルを訪れた際に、障害者と高齢者と健常者が別け隔てなく生活している様子を見て理想の町を思い浮かべる。その後、山下さんは2014年から九州大学で客員教授を務め、大学院生とともにまちづくりの授業を行う中で、その構想が具体性を帯びる。
建築家として宿泊施設の研究にも取り組んでいる山下さんに、行政や地元集落から奄美群島の空き家問題の解決案を持ち掛けられもした。同時に実母の介護の問題と直面し、奄美によりよい施設を作りたいという思いもあった。
こうした経緯があり2016年、山下さんは笠利町で「伝泊(でんぱく)」という新事業を打ち出す。伝泊とは地域の伝統的・伝説的な空き家を最新設備をもつ宿泊施設として再生し、建築物や集落の文化の次世代への継承させようとする取り組みだ。伝泊の施設は奄美大島や加計呂麻島、徳之島で広がりを見せ、この2年で15棟まで増えた。
伝泊の手応えを得た山下さんは、故郷の笠利町の空き店舗を「伝泊+まーぐん広場」に再生させた。その名称にもあるとおり、食や宿泊と地域包括ケアができる同施設は、10年越しに実現したひとつの集大成ともいえる。
まーぐん広場は7月にオープンしたものの、順風満帆とはいえない船出となった。記録的な勢力の台風24号が直撃し施設は雨漏りの対応に追われ、交通機関もその影響で客足が遠のいた。「スーパーさと」の設備を受け継ごうと店内の冷蔵庫を確保したが、修理に時間がかかった。受け入れ体制が万全ではない状況で地元向けにも積極的なPRができなかったが、秋になりやっとフル稼働のめどがたった。
集落の中心地にありながら「真っ暗で殺伐としていた」空き店舗が明るくなり、徐々に認知度も上がってきた。今後は赤木名集落を中心に伝泊の宿を増やし、まーぐん広場は総合フロントとしても機能する。「これからですね。奄美にはいいものがある。それを守りつつ、人の流れを呼び込むようにしていきたい」と山下さんは意気込む。
●施設概要
鹿児島県奄美市笠利町大字里50-2 各施設の営業時間など問い合わせは奄美イノベーション株式会社 0997-63-1910(平日9時〜18時)。詳しくは同社のホームページでも確認できる。
【関連リンク】
まーぐん広場・赤木名|奄美イノベーション株式会社
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