大分県北東部、国東半島沖に浮かぶ人口約1,900人の姫島(ひめしま)で、奄美群島の沖永良部島(おきのえらぶじま|鹿児島県)に暮らすネルソン水嶋さんが体験した、ちょっと変わったワーケーション体験。その様子を写真多めで臨場感たっぷりにご紹介します。
(文・ネルソン水嶋)
軽トラの上でワーケーション!?
東シナ海にぽつんと浮かぶ沖永良部島に住む私(ネルソン水嶋)が、瀬戸内海に浮かぶ姫島へ、「バンケーション(VANkation)」の実証実験に行ってきました。
え、バンケーションでなくワーケーションの書き間違いじゃないかって?
ちゃんとリトケイ編集部は校正してるのかププンガプン!ですって??
ご安心ください、バンケーションで合ってます。編集部もバリバリ仕事してます。多分。
リモートワークの普及により旅先で働くワーケーション(ワークとバケーションを組み合わせた造語)が注目を集める中、未来のワークスタイルになるかもしれない!?バンケーション。先取りしてきました。その最大の特徴は、「軽トラの荷台がオフィスになる」……!
ちょっと何言ってるか分からないかと思いますが、百聞は一見にしかず。こういうこと。
……どうです?完全に、オフィス・オン・ザ・軽トラ。
トランスフォーマーも裸足で逃げ出す変形ぶりにぎゃー!と叫んで泡吹いて気絶された読者様はいらっしゃいませんか?さぁ、記事がはじまりますよ、起きてください、読んでください。それに、トランスフォーマーの方が多分すごい。でもあっちはSFでこっちは現実。
木目調の荷箱の中には、据え付けられたフラットシートとデスクと照明。持ち運べる備品として、大容量バッテリー、照明、ポケットWi-Fi、ひざかけ、ヒーター、アウトドア用のテーブルとイスが入っています。出先でのデスクワークには十分すぎるアイテムです。
世の中には日々いろんなものが開発されますね、すべての発明家にこうべを垂れたい。
そんな、ある意味では斬新な軽トラでのワーケーション「バンケーション(VANkation)」を、古事記や日本書紀にも出てくる由緒ある島、姫島で体験してきました。どういう経緯で?なぜに姫島??そして、肝心の乗り心地……いや、働き心地は実際どうなの???
書いてみました、バンケーション正直百パー体験談。どうぞご覧くださいませ。
未来島・姫島でバンケーション実証実験
今回の目的は「一般社団法人姫島エコツーリズム」さんのバンケーション実証実験。そもそも姫島は「イザナギとイザナミが12番目に産んだ島」という神話レベルで歴史ある島でありながら、ひっくり返るくらいに未来をひた走っている島なのです。まぁ、論より証拠よ。
釣り人や野良猫に混じって、近未来的なまぁ~るいEVカー(電動車)がしれっとずらっと並んでいる、それが姫島の風景です。さては姫島の村営フェリーは時空を超えるのか!?と、狼狽しながら通りすがりのおばあちゃんの両肩掴んで「今って令和何年ですかね!?」と聞くところでしたが、生来の人見知りな性格がそれを阻止しました。あぶないあぶない。
それではいろいろ説明します。
この姫島、姫島エコツーリズムさんが中心となって、EVカー(電動車)導入や青空コンセント(太陽光蓄電システム)などを通して地域活性化の取り組みを行っています。今回のバンケーション実証実験もその一環で(EVカーではありませんが)、「ワーケーションの文脈が分かるライターを」ということでリトケイさんからご紹介いただいたのが私でした。
照れるなぁ。べつに褒められてはいないか。でも、いきなり情報ですが、私はベトナムで8年リモートワーク的働き方をしていたので、確かにワーケーション歴はばつぐんなのです。
そして今回姫島側の窓口となったのが、姫島エコツーリズムの設立にも深く関わるエンジニアリング会社「T・プラン」さん。記事のはじめの方で、軽トラを展開していた方々です。
T・プランさんはとーーっても幅広い分野で活躍されているのですが、情報量が多すぎるので各自検索してください。さすがにそろそろバンケーション中心の話をしようと思います。
4年前になりますがT・プランさんについての記事を置いておきます。見てね。
https://ritokei.com/voice/9895
バンケーション良し悪し百パー正直レビュー
いきなり時間は夕暮れ前に飛びますが、せっかく「どこでも働ける」ということなので、教えてもらった姫島の絶景スポットに軽トラを駐めてオフィスにトランスフォーメーション。
先に告白しておきます。実際に乗ってみるまでは、けっこう不安でした。なんせうちの島、沖永良部島だと軽トラといえば農家さんの足というイメージなので(どこでもだいたいそうか?)、荷台の上で働くという状況が完全には想像できなかったんですよね。
でもこれ意外とというか、ふつうに仕事できました。ちゃんと座れて作業に集中してしまえば、自分が軽トラの荷台にいること自体を忘れてしまいます。このあたりは人次第ですが、オープンカフェで仕事できるなら何も問題ないはずです。
では、「ダメだしも記事に書いてOK」と大変寛大なフリをいただいているので、あくまで私の独断と偏見に基づきながらですが下記3つの観点で正直かつ具体的に書いていきます。
・働ける設備か(快適性)
・どこでも働けるか(移動性)
・どんな人に向いてるか(適性)
ここからはまじめです。べつに今までふざけてた訳じゃないんですけど。
どうなの?バンケーション①(働ける設備か)
さっきも書きましたが、ぜんぜん集中できますね。もちろん人次第だとは思いますが、普段リモートワークができている方ならオンオフが切り替えられるということですし、問題ないと思います。狭いところじゃないと落ち着かない!って人は……家で仕事してください。
靴を履いても脱いでもいいと思いますが、なにげなく脱ぎました。すると、土足厳禁国家ジャパンの者としては屋内気分になり、カフェより逆に集中できる気がします。足裏が「脳さん、マジ屋内っすよここ!」と教えてくれる。足裏の神秘。足つぼでも勉強しようかな。
これは試しておらず申し訳ないんですが、写真ではクッション裏にあるシートをはめ込めば全面フラットにできそうです。若干遠慮がちになら大の字くらいには寝れるかと。スペース上の問題であって、だれにも遠慮そのものは要らないですが。
上を見上げると、展開前は側面にある壁が天井に来ているのですが、これが軽くジャンプしても頭が当たらないくらいの高い位置で、高さを意識することで逆に開放的な印象がある。
若干見下ろす形になる。左から今回の旅友の与論島(よろんじま|鹿児島県)在住エンジニア佐藤さんと、竹内さん。
どこでも働けるバンケーション最大のメリットだろう「眺め」の点では、荷台なのでちょっと高い位置にあるのも効いています。水面が光りゆらめく瀬戸内海が望めました。ただ、日差しの角度次第ではモニターが見えない。時間帯に合わせて方向転換する必要が出てくるかも……格好はつかないかもしれませんが、簡易なカーテンがあるとよいのかもしれません。仕事するので、傾斜も気をつける必要がある。運転席に水平器を置けば、便利だろうなぁ。
デスクは、15.6型のノートパソコンとA4ノートがギリギリ乗る広さ。決して広くはないですが、シートに余裕があるので書類や道具などはその上に置けば問題ない。でも、まだまだ広くできそうにも見えます。とくにドリンクはこぼさないようにタンブラーなどのサイズ以上にスペースを取るから、脇にドリンクホルダーがあるだけでも革命的な拡張ができそう。
この写真を見るに、やっぱりデスクの広さはほしいですね。狭めだけど二人で仕事できるのでカップル向けにも良い。そもそも軽トラ二人乗れるし。折りたたみで対応できないかな。
電源は大容量バッテリーからとるのですが、壁に固定された照明の電源コードが短いため、その点灯時には足下にバッテリーを置かざるを得ない。これがなかなか大物で、足が伸ばせず、せっかくの開放感に水を差す。延長コードで解決できるけど、ここにデスクがあるなら最初から電源コードが長くてもよいかな。それの省スペース化も考えないといけないけど。
また、働くときではないですが、荷台の上に上るときは少し勢いが要るので、小柄な人だと苦労しますね。短いはしごがあるだけでもホスピタリティがだいぶアップすると思います。
と、あれこれ書きましたが、それは伸びしろであって、カフェで仕事したりする人ならぜんぜん余裕で集中できることを改めてお伝えします。今回は実証実験であって、今後まだまだ改良されるとのことなので、少年漫画の主人公的な進化を繰り返していただけそうです。
どうなの?バンケーション②(どこでも働けるか)
これはねー、個人が所有して「日本全国どこでも」なのか、地域が所有またはレンタルすることで「地域のどこでも」なのかで、ぜんぜん違ってくると思います。まず個人所有を前提に書きます。結果的に、辛口評価です。
確かにどこでもオフィスを運べますが、それがそのままどこでも働けるということにはならないかなーと思いました。最大のネックはトイレ、近くにあってほしいですよね。
あと、やっぱり景色のよいところで働きたいと思うのですが、有名景勝地だと人の出入りがあって落ち着かないですね。それで場所を変えたということもありました。交流を求める場合のバランスもありますが、集中したいのなら、人が来ない景勝地を探す必要があります。
つまり、行き先についての事前リサーチ必須です。トイレの近くか、(目的次第ですが)人が来ないけど眺めがよいか、おもにこの2つ。着いたら着いたで、デスクワークできる程度に平らであるか、道を塞がないか、調べたり、気を遣うことが多い。完全に旅人向きです。
ただ、もっと重要な問題が、電波が入るかどうかです。たとえばうちの島(沖永良部島)って、キャリアにもよりますが、電波が入らない浜がざらにあるんですよ。海が望める浜はバンケーション向きだと思うのですが、電波という条件だけで、かなり選択肢が絞られます。
こればかりは行き当たりばったりだとリスク高すぎで、気に入った場所がことごとく電波が入らないということになりかねないので、個人が所有する場合には、地域選び、場所選び、そして傾斜など現地確認、けっこう越えるべきハードルは多いだろうなーと思いました。
もちろん従来の建物オフィスに比べると圧倒的にどこでも働けますが、人間が用を足す生き物で、そして電波を必要とする仕事である以上は、「どこでも働ける」とは考えない方がよくて、正確には「環境が整った地域と場所でなら、どこでも働ける」という印象でした。
ただ、それは「個人が所有して日本全国どこでも働けるか」という話であって、地域が所有またはレンタルして観光客などに提供する形なら、トイレや電波などの情報を調査・把握できるので、バンケーションに適したスポットを地図に落とし込んで案内できるのなら問題はないように思います。そして、その付加価値と可能性は確かにありそうだ、と感じました。
私が住む島(和泊町)も含めて、最近はワーケーション事業に取り組む自治体が増えていると聞きますが、通信環境の整ったオフィスやコワーキングスペースなどの整備は課題のひとつかと思います。でも箱モノは単純にお金も時間もかかるし、土地探しだって大変です。
それが軽トラ、もっといえば荷箱を持ち込めばよいだけで、アウトドア用テーブルで拡張して最大4人が関の山という感じではありますが、小さなワークスペースが提供できます。あとはバンケーションに適した場所は「人が来ない景勝地」と書きましたが、それは地域の未活用の観光資源でもあるので、新たな観光スポットの発掘や認知向上につながりそうです。
人が増えたら集中できないかもしれないけども。でも、バンケーション中の人たちがたくさん集う、観光スポットならぬワークスポットができたら話題になりそう。「なんかわかんないけどあそこの鳥の鳴き声聞くとめっちゃ仕事に集中できる」みたいな評判が立ったりして。
どうなの?バンケーション③(どんな人に向いてるか)
これはけっこう分かりやすいです。
リモートワーカーであることは前提ですが、やはり場所を変えて仕事することでメリットがある人。具体的には、自身の体験を発信する旅系クリエイター(ライター、ブロガー、YouTuber、インスタグラマーなど)、新たな出会いや刺激を求めるクリエイターなど。
それと、地域交流を求める人ですね。なんといっても目立ちますから、話のきっかけとしては大きいです。ただ地域の色も様々なので怪訝に思われる可能性も大いにあります。そのあたり、バンケーションを提供する事業者と地域とのコミュニケーションによると思います。
姫島は、すごくオープンな島民性だなとは思いましたが、さらに「変わったものがあればだいたいT・プラン関係」というイメージが根付いているようで、3日間でバンケーションの軽トラがめちゃくちゃ認知されていたようです。地元の男性と話したときに、「マジシャンが乗ってるのかと思ったわ~!」という心温まる会話なども。その地域で事業者やバンケーションがしっかりと受け入れられていれば、確かに超強力な交流演出装置だと思います。
なので、個人で全国回りたいという人は、そこそこメンタルの強さが求められます(笑)。
なお、実は軽トラを活用したものはバンケーションだけでなく、フードトラックや雑貨店など地域に合わせたさまざまな実証実験が全国各地で行われているようです。ワーケーションに取り組む地域ならバンケーション、箱モノを建てられない場所ならフードトラック、といった形で、軽トラと地域のタッグがスタンダードになる時代が来るかも、と思いました。
個人向けはどうのこうのと言いましたが、そもそも地域向けにつくられたものなのです。
バンケーションの肝は働き方のタガを外すことか
姫島滞在中、とくに印象的だった出来事を書いて記事を締めたいと思います。
バンケーションの撮影をしないと!でも次の約束まで時間がない!というときがあり、あたふたしていると、T・プランの竹内さんが「ここに来てもらいましょう!」と電話して、待ち合わせ場所を変えて逆に来ていただくことになりました。それを聞いた瞬間、なるほど!と目から鱗で。オフィスと捉えれば、自分が働くだけでなく人を招いてもいい訳ですよね。
するとお会いした方もこの軽トラを見て、「最近キャンプ動画見てるんだよ」「ほしいな」とお話しされていて、あぁ、こんなに喜んでもらえるんだ、これは本当に交流演出装置だなと。そこではじめて私の中で、「一人用のデスク」から「客を招けるオフィス」に変わりました。
物の見方がパッと変わる、いわゆるパラダイムシフトの瞬間でした。
その本質は、写真に写られている方が帰ったあとに、実証実験に同行していた旅友の与論島エンジニア佐藤さんが話されていた、「どこでもできるというのはいいですね。縛りがない、枠がない、無意識に決めてたものが外れる」という言葉に集約されている気がします。
「外で働く」という言葉からは計れない価値を感じる瞬間でした。
個人的には、沖永良部島には浜が100以上あるので、日替わりとか週替わりで出店する浜を変える軽トラ型コーヒーショップでもやりたくなりました。と、こんな感じで、人のアイデアと、地域の特徴や課題の数だけ、軽トラのトランスフォームがあるように思います。
ちなみに名前は「コーヒー浜(仮)」です。なんとなく。