故・遠藤周作が江戸幕府の弾圧に苦しむキリシタンの姿を描いた『沈黙』が映画化され話題を集めるなか、長崎県と熊本県の7島7資産を含む「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が国の世界文化遺産候補に決まり、正式な推薦書が2月1日にユネスコに提出された。専門家による現地調査を経て、2018年夏の世界遺産委員会で審査されて登録の可否が決まる見通し。候補地では、島々をまたぐ周遊ルートの開発など、世界文化遺産登録へ向けた準備が進む。(写真提供:長崎県世界遺産登録推進課)
「天草の﨑津集落(熊本県天草市)」
長崎・天草のキリシタン文化を世界の宝に
2月1日、世界文化遺産候補に推薦された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は、長崎県と熊本県の6市2町に所在する集落や史跡などの12資産で構成される。
世界文化遺産は、顕著な普遍的価値を有する記念物、建造物群、遺跡、文化的景観などが登録の対象となり、現在国内では「法隆寺地域の仏教建造物」(登録1993年)、「白川郷・五箇山の合掌造り集落」(同1995年)、「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」(同2013年)など16件が登録されている。
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産は、16世紀にキリスト教が日本に伝来し、江戸幕府による禁教令下で密かに信仰を続けた「潜伏キリシタン」に関する集落や史跡など12資産。
「奈留島の江上集落(江上天主堂とその周辺)」(長崎県五島市)
構成資産は、長崎県の平戸島(ひらどじま|平戸市)と無人島の中江ノ島(なかえのしま|平戸市)の「平戸の聖地と集落」(※)、黒島(くろしま|佐世保市)の「黒島の集落」、野崎島(のざきじま|小値賀町)の「野崎島の集落跡」、頭ケ島(かしらがしま|新上五島町)の「頭ヶ島の集落」、久賀島(ひさかじま|五島市)の「久賀島の集落」、奈留島(なるしま|五島市)の「奈留島の江上集落(江上天主堂とその周辺)」、熊本県の天草下島(あまくさしもしま|天草市)の「天草の﨑津集落」など。
※中江ノ島への上陸は不可
幕府による厳しい弾圧のなか、既存の社会や宗教と共生しながら独特の文化的伝統を育んだことを物語る貴重な証拠として推薦された。
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」世界遺産登録に向けて
2018年の登録に向けて、旅行商品づくりも進められている。12資産の多くが半島や離島に点在しているため、現地では、周遊希望者に向けた交通利便性の向上が課題となっている。
平戸市、小値賀町、新上五島町は、2017年度に3市町及び観光団体による協議会を立ち上げ、船を使った周遊ルートづくりに取り組む方針。既存の定期航路に加え、定期航路のない平戸島〜小値賀島間をチャーター船で結び、3市町をつなぐ計画だ。
「頭ヶ島の集落」(長崎県南松浦郡新上五島町/撮影:濱本政春)
現存する教会堂の多くは、地元信者にとっての聖地であり、祈りの場として日常的に使用されていることから、見学には相応の配慮が必要となる。
そのため各地域では、地元の信者が「教会守」を務め、教会堂内の見守りや見学者へのマナーの案内などを行う体制がつくられている。
長崎県が開設した、長崎と天草のキリスト教関連歴史文化遺産ウェブサイト『Oratio おらしょ こころ旅』には、教会堂見学の際に注意したいマナーがまとめられ、「祭壇があり一段高くなっている内陣は、最も神聖な場所です。絶対に立ち入らないようにしましょう」など、具体的な注意点が示されている。
「野崎島の集落跡」(長崎県北松浦郡小値賀町/撮影:日暮雄一)
構成資産内の教会堂では、葬儀などにより見学できない時間帯や、団体旅行者が重なるなどして一度に多くの見学者を受け入れられない場合もあるため、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産インフォメーションセンター」では、見学希望者への情報提供を行い、事前連絡(必須)を受け付けている。
【関連サイト】
長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産インフォメーションセンター
長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産
Oratio おらしょ こころ旅