有人離島(約400島余り)のうち約9割が人口減少にある日本。島の未来づくりのヒントを求め、リトケイ「島の未来づくりプロジェクト」サポーターや読者の皆さんが聴講するなか、公開インタビューを行いました。
ゲストは『都市と地方をかきまぜる』の著者であり、「日本食べる通信リーグ」代表理事の高橋博之さん。9月某日に都内で行われたリトケイ編集長・鯨本あつこによるインタビューの全文を全5回でお届けします。第1回はこちらから。
第4回 離島にぴったりな「マーケティング4.0」
- 鯨本
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さて、ここでなんだこれはという質問に移りますが、『スモール・イズ・ビューティフル』に関する質問をさせてください。
- 高橋
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はい。
- 鯨本
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実は、高橋さんとの出会いはFacebookのやりとりで、初めてメッセージで挨拶したときに高橋さんが「小さいものフェチ」だとおっしゃっていたんです。
そこで私が『スモール・イズ・ビューティフル』という本を話題にしたところ、高橋さんもちょうどその本を話題にしようと思われていたそうで。シンパシーを感じました(笑)。
『スモール・イズ・ビューティフル』は「人間中心の経済学」という副題がある古い本なのですが、私があちこちで講演していたときに、自分の実感として「300人〜500人規模の島」では島全体のまとまりが感じられて面白いんだという話をしていたら、聴講されていた人が「ドイツの研究者に同じことを言っている人がいる」と教えてくださり、この本にたどり着きました。
離島地域のようないわゆる「小さな地域」にとって参考になる内容が多いので、リトケイ読者の皆さんにもおすすめしたい本ですが、どんなことが書かれているかを少し紹介すると、たとえば「なにごともその意味が納得できれば、人は参加意識がもてる」といった内容が書かれてあります。
そこで、「参加意識」について高橋さんに伺いたいのですが、『食べる通信』は読者の参加意識の高さも注目すべき点と感じています。高橋さんが読者に『食べる通信』の意味を伝える上で大事にされていることはありますか。
- 高橋
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そうですね。僕は「参加」の前には必ず「共感」があると言っています。共感すると参加するんです。
『食べる通信』ではまず、生産者の具体的なストーリーに共感した人が参加していくんですけど、加えて、僕がなぜ『食べる通信』をやっているのか? という思いも語っています。それらに共感された方が読者になっている。思いがないと共感も生まれないし、参加もないんです。
(提供:東北食べる通信)
- 鯨本
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「共感」という意味では、高橋さんはご著書で『食べる通信』ではAKB48を例に「共感のマーケティング」を実践されているともおっしゃっていました。
離島地域の場合、人数が少ない島も非常に多くて、100人未満、50人未満の小さな島も多くありますが、小さな島のなかにも「人に来て欲しい」「商品を売りたい」とったニーズを持っている人がいます。ただ、経済規模も人口規模も小さな島では効率的なPRはなかなか難しい。ですから、たとえばそんな小さな島で「共感のマーケティング」を行うとしたらどのようなポイントがあるでしょう?
- 高橋
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僕は『東北食べる通信』で生産者の話を毎月8,000字書くんです。でも僕自身は食べ物のことを書かず、「美味しい」とも書かない。
食材の価値を語る生産者は多くいますが、僕はそこなのかな? と疑問に思っています。食材をつくるまでのプロセスやゴールではなく、食べ物をつくるという喜びとか感動とか苦労を聞いていくと、そこに「生産者の哲学」が見えてくるんです。
(提供:東北食べる通信)
- 高橋
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そこが都市の人に欠けていることで、それを書くことで共感したという人も多かった。そんなことをマーケティングの大家の人に話すと、最近は「マーケティング4.0」というのが出てきていて、それは「哲学マーケティング」だと話されていました。
途上国じゃなく成熟した社会だから、どうせお金をつかうならいい世界をつくることに汗をかいている人にお金を使おうという人が出てきているんです。
- 鯨本
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なるほど。「マーケティング4.0」は農家や離島地域にとって良い波ですね。
- 高橋
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ぴったりですね。
- 鯨本
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そんな規模の問題ですが、『スモール・イズ・ビューティフル』では「規模の問題」を「目的によって、小規模なもの、大規模なもの、排他的なもの、開放的なものというふうに、さまざまな組織、構造が必要になる」と記しています。『食べる通信』では1号あたりの読者を「1,500人」と定められていますが、1,500人にはどんな根拠があるのか教えてください。
- 高橋
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ひとつの地域じゃなくて、ひとりの生産者にフォーカスして人生を描き、その人の食材を届けるとになると、その人が1ヶ月間に届けられる生産物の量には限りがあるわけで、それが大体1500でした。
- 鯨本
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なるほど。
- 高橋
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僕らはどちらかというと大規模農家よりも小規模・中規模農家を取り上げているので、食材の量に限りがあるんです。また、生産者と生活者が「顔の見える関係」となり、いろいろなコミュニケーションをとれるコミュニティになるといいなと思っていたので、1万人の会員サービスになってしまうと生産者の顔なんか見えなくなる。
食の宅配サービスの先輩に聞くと、昔はお互いに顔が見えていたけど、今のように何万人規模になるとそれもなくなったと。そんなアドバイスもあったんで1500くらいかなと思って決めました。
- 鯨本
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実際にその数字はいかがでしたか?
- 高橋
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そうですね……。うーん。やっぱり1,500でも多いですね。
規模の経済や収益性を考えると、当然、手間やコストをかけていい冊子をつくっても1500人にしか読まれないと儲からないので、1万人の会員を目指したいなと思うときもありました。
でも、1万人に届けるために1号で10人くらいの生産者さんを取り上げると、特集原稿も一人あたり800字になってしまう。それで、共感が呼べるかというと呼べないですよね。
- 鯨本
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そうですね。
- 高橋
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貝印という会社が手伝ってくれていたんですが、貝印は社員がちょうど1,500人くらいいて、社長は1500人をすべて知っているそうなんです。だから社長に会うと誰でも「元気か?」と話しかけられる。その社長にできるなら僕にもできるだろうと思って1,500人にしました。
- 鯨本
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なるほど。
- 高橋
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でもなかなか多いですね。
- 鯨本
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顔の見える関係でいえば多いですし、経済規模でいえば少ない……。難しいですね。
<5>に続く